第13話 ベレフェヌス
大工たちのため台車を30両分ほど作っておいて、翌日はアモリとルナに乗って2泊3日の予定で出掛けた。目的地はベレフェヌス領。アモリの実家だ。
「とりあえず、目的地は領主の館でいいか?」
「うん、うちの実家に向かって。」
「と言うことだ。ルナ頼むな。」
「任せて。」
さすがフェンリル、街道を使わずショートカットして午後にはベレフェヌス領の中心都市に着いた。
「ここがうちの実家の館だよ。」
そう言ってアモリが案内したのは大きな屋敷だった。貴族が住むには小さいんじゃないかと思ったけど、俺が知っている貴族の屋敷が王家の王城と公爵の屋敷なので、比較するのは無理があった。
「ちょっとこじんまりしているけど、気にしないでね。お父さん、お母さん、帰ったよ。」
アモリがそう声をかけると、10歳くらいの女の子が顔を出した。女の子はアモリの顔を見て、その後、俺の顔を見た。その娘は俺と目が合うと、頭を引っ込めた。使用人かな?そう思ってると、中で声が上がった。
「おとーさん、おかーさん、おねーちゃんが結婚相手連れてきた!!」
「ぶほっ!?」
思わず吹き出すアモリ。あの娘、アモリの妹さんだったか。確かに似てたな。
「すみません大和さん。うちの妹が……。」
「あはははは……。」
後ろから小さくなった狼が鋭い目で見ているので、笑うしかなかった。
数分待つと、アモリの両親、弟3人、妹2人が現れた。
「お待たせしました。娘の婿は「お父さん、違うから。」そうなのか?」
アモリ父にすかさずツッコミを入れるアモリ。
「そうだよ。私、手紙に商談で帰るって書いてたよね?」
「いやあ、メリィが結婚相手連れてきたって言ったから……。」
頭をかくアモリ父。
「商談ということは、今、勤めている商会の方ですね。――――――どこかで見たような……。」
「たぶん式典会場でですね。俺は、マルサロア鉄道の社長をしています新庄大和と言います。一応、アダマンタイト級冒険者でもあります。」
そう言いながら、このために作った名刺を渡す。しかし、普通に活版印刷があって驚いた。だが、切符の印刷がしやすくなってラッキー。
「これはこれはご丁寧……に…………って、ええーっ!」
と、驚くアモリ父。
「こ、これは失礼いたしました。娘なんぞの婿などと言ってしまい……。」
土下座する勢いで頭を下げるアモリ父。確かに俺の婚約者には王女がいるから、そんな相手に男爵の娘の婿って言ったら不敬になると思ってるんだろうな。でも、俺はあくまで鉄道マニアだからなぁ。
「まあ、今回は商談ですし、頭を上げてください。」
「は、はい。では、応接室へ。」
そう言って、俺たちは応接室に向かう。
「そういえば、今日の宿はどちらに取られていますか?」
「いや、まだ取ってないな。」
「なら、今夜は我が家にお泊まりください。まあ、アダマンタイト級冒険者にとってはたいした館ではありませんが……。」
「いえ、アダマンタイト級になったのはほんの少し前ですし、この世界に来てほんの1ヶ月、その間はほぼ宿暮らしでしたから。」
「そうだったんですか?」
「ええ、チート過ぎて色々あったんですよ……。」
報酬を貰うのに20日ほどかかったからな。
そうこう話していると、応接室に着いた。
「さて、今回の商談なんですが……。この領地で採れるあるものを独占的に購入したいのです。」
「あるものですか……?」
応接室ではアモリは領主であるアモリ父の横ではなく、俺の横に座る。もちろんマルサロア鉄道のスタッフとしてだ。代わりにアモリ父の横にいるのはアモリ弟だ。後ろに執事もいる。
「ええ、ここの鉱山から出る黒魔鉱です。あれを購入したいです。」
「ああ、あの邪魔な鉱石ですか。あれなら要らないので持っていってもらっていいですよ。」
アモリ父は即答する。
「いえ、そうはいきませんよ。1㎏銅貨10枚で売って貰えませんか?」
銅貨10枚は1000円くらいだ。1㎏1000円ってめっちゃ安っ。
「え、いいんですか?」
「ええ、契約書に値段も書きましょう。どうですか?」
この先俺たちマルサロア鉄道が大量に使って価値が上がるのに、わざわざ書くのはマルサロア鉄道しか使わないのに価値が急激に上がってしまうことを避けるためだ。
「そこまで価値があるような石ではありませんが、ヤマト様がそう仰るなら……。」
そう言って、執事に契約書を作成させるアモリ父。しばらくすると、契約書ができる。
「こちらでよろしいでしょうか。」
執事が契約書を見せて確認する。
「どうでしょう?」
俺は契約書に目を通す。うん、問題ないな。ダブルチェックのためアモリにも見てもらう。
「お父さん!これはどういうこと!」
「なにか問題があったか?」
俺は、アモリが怒り出したことに驚く。怒るようなことあったっけ?
「当たり前だ。契約の期間と数量が書いてないじゃないか。」
確かに契約書には1㎏あたりの金額しかかかれていない。でもな――――――。
「問題ないな、こっちが提示していないものを書いてないんだから。」
「えっ!?」
アモリは驚いてるな。
「有能な執事さんですね。」
「ああ、この領地がなんとか持ってるのも、彼のお陰だ。」
アモリ父は頷く。
「なんで問題ないの?」
アモリが疑問を口にする。
「ああ、まずこの黒魔鉱の価値は今後どうなると思う?」
「上がるでしょう。大和さんが大量に購入するだろうから……。」
「じゃあ、黒魔鉱をある程度高い金額で買い占めると?」
「そりゃあ、その黒魔鉱を買うしか……って、ああっ!」
「そう、転売ヤーに金額を吊り上げられるんだよ。だから、購入金額だけ契約して、期間と量は無制限っていうこっちに有利な契約になってるんだ。」
正確にいうと、黒魔鉱の急騰による経済の混乱を避けれるという政治的判断でもある。
「ああ、すでに鉄や銅などの金属類が値を上げ始めている。黒魔鉱をなに使うか知らないが、少しでも収入になるのならとは思ってはいる。まあ、100㎏でも売れたら御の字だな。」
そう言って笑うアモリ父。それに対し、俺とアモリは顔を見合わせる。
「購入する量は50万トンなんだが……。」
「は、はあぁあっ?」
驚くアモリ父。というか、ベレフェヌス家の皆さん。
「お父さん。うちの商会で一番使う金属は黒魔鉱だよ。」
「まあ、国内の鉄道網を単線で作るとしてこのくらいは必要になるかもしれん。」
「…………。」
固まるベルフェヌス家の皆さん。
「い、今どれくらいの量がある!」
「は、はい確認してきます!」
アモリ父の指示に慌てて退出する執事。
「えーと、私が王都に出稼ぎに行く前までで500万トンはあったと思うよ。毎年制限かけても1500トン産出してたし。」
制限かけてその量産出するんだ。
「物は鉱山の近くにあるんですか?」
「私が出稼ぎに行く前まではそうだったね。」
「ああ、今も変わってないな。」
「じゃあ、加工工場を鉱山の近くに作らせてもらえればありがたいんですが。――――――あっ、先に黒魔鉱の代金だけ払っときますね。㎏銀貨10枚の50万トン分だと、白金貨5枚になりますね。」
そう言って、俺は空間収納から白金貨を5枚出して机に置いた。
「うぇ、おあっ、ええー。」
あっさり出された白金貨に顎が外れんばかりに驚くアモリ父。
「あー、うちの規模じゃあ、領内の予算も銀貨で決算してたくらいだったから、これだけ大きなお金を見たことがないわよね。」
あーうん、年間予算の5万倍はさすがに驚くよな。でも、正当な対価だから受け取ってくれ。
俺たちは、その後アモリの実家で一泊し、鉱山の近くにレール工場を作ってもらう契約も結び、帰路に着いた。




