第10話 車両作成1
シートピッチ:座席の前後の間隔のこと。
B寝台:3段、もしくは2段の寝台車。開放式でベッドとカーテンしかない。個室のB寝台もある。
貫通扉と側扉:鉄道車両に付いている扉で、貫通扉は前後方向の妻面について、車両間の移動を行え、側扉はホームに降りるときに使用する。
翌日、今日は昼から大工たちが来ることになっている。大工たちに客車を作ってもらうためだ。そのため、朝から客車用の台車と連結器を作った。客車用の台車といってもモーターと歯車を抜いただけだが……。
台車を10台用意し、5両の客車を作れるようにした。これを1~3等車と、食堂車と寝台車(仮)を作る。
「とりあえず、車体の設計図を用意しておいた方がいいな。」
そう呟いて、図面製作を始める。1~3等車はシートピッチと横1列の席数で変えるとして、食堂車はそれなりの物が出せればいいな。寝台車は仮ってことで、貴賓車レベルのものにするか、それとも、B寝台クラスにするか……。図面は両方用意しよう。
お昼過ぎ、職人たちが本部に来たので研究所兼工場の方に連れていく。いや、思った以上に人が多くて。それに、商業ギルドのギルマスも視察に来た。
研究所に行き、空いてる部屋に案内して説明会を始める。職人は30人ほど参加している。商業ギルドからは5人だ。
「じゃあ、皆さんに作っていただきたい”客車”と”貨車”の車体について説明させていただきます。まずは、鉄道の事からですね。鉄道とは『馬車を大型化し、専用の道を高速で走らせるもの』と考えてもらって結構です。馬は使いませんが。続いて、客車、貨車とは何かを説明します。簡単に言うと、客車は乗客をのせる専用の車両、貨車は貨物をのせる専用の車両になります。まあ、お客を運ぶ馬車と荷馬車みたいに考えてもらえばいいかもしれません。今回作ってもらうのは、台車――――――馬車で言う車輪部分を除いた部分になります。この後、台車を見てもらいます。質問はありますか?」
「ひとつ、いいでしょうか?」
棟梁の一人が手を挙げた。俺は、彼の質問を聞く。
「なんでしょう?」
「なぜ馬車職人ではなく、我々大工に話を持ってきたのですか?」
確かに、一般的には移動用のものを作るのは馬車職人というイメージだが……。
「それは、車両じたいはどちらかというと『動く部屋』に近いですね。特にこの後説明する寝台車はもっとも上等なものだと動くホテルと呼べるものになります。作り方も箱馬車より、家に近いですので、大工の方々の方が一日の長があると思います。柱を立てて壁をや床を張り、扉や窓を作り、備え付けの椅子をつけ、屋根をのせる――――馬車職人よりも大工の方が詳しいでしょう。そして、馬車職人の専売特許とも言える車輪は我々が作ります。というか、この後実際に見てもらえば馬車職人では作れないことがわかるでしょう。」
「そうですか。」
「他に質問がある方はいらっしゃいますか?……いらっしゃらないようなので、これから台車の方に移動します。」
そう言って、俺は工場の方に案内した。
工場の方では、今朝作っていた台車のブレーキ圧のチェックを魔法ラットたちが行っていた。
「順調か?」
「ちゅう。」
問題がないと頷く魔法ラット。まあ、作ったばかりで問題がある方が問題だ。俺は、後ろについてきた大工たちに台車を見せる。
「これが台車です。全て金属製で、作るのに最低でも金属加工の技能が要ります。また、一部魔道具を使用しているので、模倣品を使うと事故になります。対策として、各地の工場に台車を搬入する作業は我々マルサロア鉄道が直接鉄道路線を使って工場に納入します。すなわち、我々以外の人物が台車を納入することはあり得ない状況を作り出します。ここまでで何か質問はありますか?」
そう聞くと、男が一人手を上げた。
「すまない、おそらくだが仕事とは関係ない質問になるがいいか?それが気になって仕方がないので……。」
「そうですね。気になる点を聞いていますので、構いませんよ。」
俺は質問を促した。
「ああ、そこにいるのは、まさかと思うが、伝説の魔法ラットか?」
あ、そういえばシルベスたちって激レアなんだっけ。
「ええ、魔法ラットです。彼らは俺の従魔として登録しているマルサロア鉄道の従業員です。彼らが魔法具製作のサポートをしてくれています。ちなみに彼らを拐おうとしたら、アダマンタイト級冒険者が本気で敵対するので、安心してください。」
俺はそう説明する。
「他に質問は?」
そう聞いてみたが、誰も手を上げなかったので、作り方の解説を始める。
「では、実際の作り方ですが、家と同じように柱と壁と床と屋根を作ってください。窓や扉もつけてください。扉はこちらで魔道具の規格品を用意します。あと、基本的に寸法が決まっている場所があります。それは、車体長、車体幅、車体高、そして台車中心距離です。この4つさえ守っていただけたら、運行に問題ありません。内部ですが、ある程度の規格の統一はしますが、それ以外は各棟梁に一任します。ただ、車両ごとの違いが大きいと、いろいろ扱いづらい車両になってしまうので、配慮をお願いします。」
扉は貫通扉と側扉の二種類で、側扉は折戸にする。我々が作るのは近距離で使う車両ではなく長距離車両になるため、頻繁に開け閉めしないので問題は少ないだろう。それに、魔物や盗賊などが襲ってきたときに、中から押さえれば開けにくい構造にするのも理由である。
「では、ここまでで質問がありますか?」
そういうと、何人か手を上げる。
「じゃあ、そちらの方。」
そう言って、少し頭が寂しいドワーフの男性に質問してもらう。
「『だいしゃちゅうしんきょり』っちゅうのはどういうものなんじゃ?」
「台車中心距離ですね。それは、車両にはこの台車を2台取り付けます。その台車の取り付け位置でして、この位置で車両限界というこのレールの中央からのものをおかない場所の距離が計算されます。安全運行のために必要な寸法だと思ってください。」
「なるほどな。」
他にも窓はどうするとか、扉の位置などの質問があったが、貫通扉以外は任せると言った。




