第22話 転生者
12番窓口には紫髪の少女が座っていた。
「すみません、黒魔――――。」
「黒魔鉱ですか?あの使いようによってはちゃんと使えるのにただ単純に重くて加工しづらいからというだけで使い物にならない屑鉄扱いになってる黒魔鉱を売りに来たんですか?」
おお、黒魔鉱に詳しい人が受付にいたんだ。
「いえ、今計画しているものに黒魔鉱が使えないかと思いまして、黒魔鉱を手に入れられないかなって思いまして……。」
「えっ、あの鉄筋や鉄骨に加工さえしてしまえば色々使えるはずの黒魔鉱を他の何かに使うんですか?」
んっ?何か近代的な言葉が聞こえたみたいなんだが……。
「あの、どうかなさいましたか?」
はっ、思わずボーとしていた。というか、この人――――
「あの、不躾なことを聞きますが、転生者ですか?」
受付の少女は目を見開く。
「――――って、その髪の色と顔、もしかして日本人!?」
「あ、はい。日本から来ました新庄大和と言います。」
といって頭を下げると、彼女も頭を下げながら
「あ、私、アモリシア=ベレフェヌスといいます。元の名は川中島安茂里でした。」
と答えた。おお、元日本人だ。話を聞いてると、どうやら同じ年代の同郷みたいだ。といっても都道府県単位なんで会ったこと無さそうだけど。
「この世界に転生する前は工業高校に通っていたんだけど、事故に巻き込まれて気づいたらこの世界にいた。過去に転生者や転移者がいたのは知っていたけど、まさか会えるとはねぇ。」
「工業高校出身だったから、鉄筋や鉄骨にと考えたんですね。」
なるほどと思った。
「ええ、この世界に来たとき、一応下級貴族だったんです。でもうちの領地は特産物が特になく、鉱山があるものの採れるのはほとんど黒魔鉱でして、一応ミスリルがわずかに採れるのでそれで何とかしているところです。で、私はこの商業ギルドで働いて実家に仕送りをしている訳です。」
「苦労されたんですね……。なら、聞きたいことがあるのですが、レールを作るのに最適な金属は、やっぱり黒魔鉱ですか?」
「そうですね、レールに使うってことはある程度の摩擦係数も要りますよね。」
「あ、確かに粘着力はある程度ないと困るね。さすがに90パーミルは作るつもりはないけど……。」
「鉄道のことはさすがに知らないですけど、言いたいことはわかります。そうなると、レールは硬い黒魔鉱で良いとして、むしろ車輪の金属ですよね。」
うんうんと頷きながら考えてくれるアモリシアさん。
「重量と硬さのバランスでは、前世だと鉄だったはずですね。」
「そりゃ地球である程度硬くて量のある金属っていったら鉄だろ?と言うか、鉄とアルミとステンレス以外よく知らないな。」
「あえてツッコませていただきますが、何でその2つと合金なんですか?」
「……え?合金?」
俺はビックリした。だって、身近で使われてる金属っていったら、いろんな用途のある鉄、鋼鉄車体で使われた鋼鉄、缶やサッシに使われるアルミ、流しや包丁にも使ってるステンレス、トロリ線に使われる銅、あと貴金属の金や銀くらいだろ?
その事をアモリシアさんに言ったら、呆れられた。
「そもそも、鋼鉄もステンレスも鉄の合金です。厳密に言えば、ステンレスも鋼鉄の一種になります。」
「えっ、そうなの?俺、少し前に鉄鉱石から錬金魔法でステンレス作ったことあるんだけど、合金って知らなかったなぁ。」
「……なんと言うか、非常識ですね。」
「うん、能力値とかチートなんだ。しかし、アモリシアさんは詳しいね。」
「アモリでいいですよ。しかしチートかー、だから錬金魔法でステンレスが作れるんだね。」
ん?なんか言い方が変なような……。
「錬金魔法で作れないのか?」
「うん、普通は無理。一般的に錬金魔法は鉱石の中から鉄や金を取り出したり、物質を一定比率で混ぜ合わせたりはできるけど、いくらなんでも無から作り出すのは無理。実際に物を見てないからわからないけど、ステンレスにはレアメタルが含まれているから、その物質を知らないといくら錬金魔法でも不可能。だから、さすがチートと言った。レベル10以上はあるんでしょ?」
なるほど、それでわかったのか。
「ああ、俺の錬金魔法のレベルは50だな。」
「やっぱりね。」
うんうんと納得するアモリさん。
「ところで、レールを作るなら鉄道を作るってことですよね。なんなら雇ってもらえませんか?」
おっと、鉄道を作ろうとしていることを知って、すぐ就職希望とは……なんでだ?
「雇うにしても、理由を教えてもらえるか?」
「鉄道を作るんだったらもちろん国営でしょ。だったら間違いなく潰れないから就職先としてはかなり有望。それに電車を知ってる人間からしたらこの世界に馬車しかないんでそれと比べちゃうと電車に乗りさえすれば速さも乗り心地も段違いだから、将来安泰でしょ。」
なるほど、そういう考えか。だけど……。
「一応言っとくけど、うちは私営なうえに電車は走らせられないぞ。」
えっという顔をするアモリさん。
「なんで、民間でやるのよ!それに電車を走らせないって鉄道会社としておかしいでしょ!!」
彼女の言葉で、彼女が”鉄”じゃないことに気づく。色々訂正しないとな。
「民間でやるのは、日本と違って隣国が陸続きであることを想定して国際列車を走らせやすくするためだな。ちなみに資金は存分にある。具体的には、アモリさんのいた時代と違うかもしれないが、日本の国家予算の1割くらいはある。電車――――電動客車は走らせないが、機関車牽引の客車は走らせるぞ。そもそも、君の言う”電車”は誤用だ。」
「え、そうなの?」
「ああ、比較的分かりやすい例で言うと、大阪駅を発着する特急”はまかぜ”は気動車――――電気じゃなくディーゼルエンジンを使ってるし、有名な”SLやまぐち号”も蒸気機関車牽引の客車列車で非電化区間を走っている。一番汎用的に使える単語は列車が正しい。」
「そ、そうなんだ。」
呆然としているアモリさん。
「よくあるんだ。電気を使ってないのに電車って言ったり、蒸気機関車じゃないのに汽車って言ったり。」
「あ、そうなんだ……。」
「他にも、リニモを日本初のリニアモーターカーって言ってたり……」
やっぱり鉄道が絡むとおもいっきり脱線するのであった。
「では、正式に起業したら誘いに来ますね。」
ある程度の量の黒魔鉱を貰った俺は、そう言ってカウンターを離れる。
「黒魔鉱を使うなら是非うちの領地のを使ってね。」
その声を聞きながら、他の二人と合流する。
「冒険者ギルドでは見つからなかった。」
「鍛冶ギルド、ダメ。」
大通り沿いのカフェで報告を受ける。注文した物はリンちゃんがイチゴオレ、ウリアさんがカフェラテ、俺はわらび餅を頼んだ。あるのかよ、わらび餅。
「商業ギルドは収穫ありだ。黒魔鉱の産地の人間に会えた。」
「「えっ。」」
「しかも、金属に詳しいひとだったから、本人から売り込みがあったよ。あと、商会結成のための登録用紙も貰ってきた。」
「し、仕事が早いな。」
ビックリするウリアさん。
「いや、半分は根回し…………あまりしてないな。」
セルフツッコミをする。
「まあ、優秀な専門家が味方についただけでもいいとしなきゃ。」
これからやることは、黒魔鉱レールにすることと、うまく結界魔道具の一部にならないか試さなきゃな。
摩擦係数と粘着力:意味合いとしてはほぼ同じ。鉄道では粘着力としてどれだけ牽引できるかに使われる。
パーミル:勾配率を表す。90パーミルは1000メートルで90メートル登る勾配。90パーミル以上の勾配はまずない。
トロリ線:線路の上に吊り下げられている架線のうち、実際にパンタグラフと接触する部分。銅でできており、超高圧の電気が流れている。
気動車:電車のモーターをディーゼルエンジンに、電気を軽油に読み替えたら大体そんな感じ。
日本初のリニアモーターカー:日本初のリニアモーターカーはリニモではないのは鉄道業界の常識である。日本初の常設営業を開始したリニアモーターは、大阪市営地下鉄鶴見緑地線(現・大阪メトロ長堀鶴見緑地線)で1991年開業。リニモ開業前に4路線が常設営業を開始している。内訳は鶴見緑地線以外に、都営地下鉄大江戸線、神戸市営地下鉄湾岸線、福岡市営地下鉄七隈線。すべて鉄輪式などいわれる車輪を使った”ミニ地下鉄”と呼ばれる路線である。リニモは日本初の常設営業の”磁気浮上式”リニアモーターカーではある。ちなみにリニアモーターカーは浮上する技術ではなく、動力方式の一種であるリニアモーターを使った車両のことを指すので、リニアモーターカーは浮くとは限らない。リニアモーターは磁石の引き付ける力、反発する力を使って列車を動かすシステムで、形状がモーターを開いてまっすぐにしたように見えるのでリニア=真っ直ぐなモーターと呼ばれる。
リニアモーターカーの解説だけで大分書いたな……。




