第16話 作戦開始
ローズミア公爵邸に朝から来客があった。盗賊団の首領と女獣人だ。彼らはいつものように裏口から入って応接室に誘導された。
「ほう、これがその獣人か。」
「へい、そうでやす。」
白銀の髪と尻尾を持つ10代半ばくらいの少女だ。目は死んでなさそうだが、いつまでその目をしていられるか楽しみだ。
「おい、こいつを例の部屋に連れていけ。」
そう言うと、少女は別の部屋に連れ出された。
「そういえば、あと2匹いるのだったな。」
「へい、ですが傷が深く、連れてくるのは難しそうでしたんで、連れてきてやせん。」
「ふむ、…………おい、ポーションを渡してやれ。」
「はっ!「はあ?」」
男の前にポーションが2本置かれた。
「残り2匹もエルフとハーフエルフだと聞いてな。ならばポーションを使っても損はない。すぐ連れてこい。」
「へ、へい。」
そう言って、首領は慌てて公爵邸を出ていった。――――――首領が口元に笑みを浮かべていたことに、公爵邸の人間は誰も気づいていなかった。
少女は公爵邸の地下にある一室に連れていかれた。その部屋には大きなベッドが置かれていた。
メイドは手枷に繋がった鎖を壁の出っ張りに引っ掻けた。
そして、少女の体を丁寧に拭いた。
「公爵様の命なんだ、すまないね。」
メイドはそう言って謝った。
――大丈夫、あなたたちには危害を加えないから――
「え?」
扉を閉める瞬間、そんな声を聞いた。
気味が悪いが、その声自体は優しそうな声だったので、彼女は気にしないことにしてその場を去った。
「では、作戦開始です。」
王女様の一声で、同時突入が始まった。
セルウォリス冒険者ギルド
その日は平穏な一日のはずだった。いつものように早朝の依頼受け付けラッシュも終わり、これから昼休憩に入るところだった。
「邪魔するぞ。」
ギルドの扉を破らんばかり勢いで開けたのは、セルウォリスでは見ない顔だった。
「……えーと、いらっしゃいませ?当ギルドになにかご用ですか?」
この時、私はあと5分早く休憩に入れていればと、後悔していた。
セルウォリス領主館
その日、領主館の門兵をしていた俺はもうまもなく交代の時間になるところだった。
いつものように門で立ち番をしていると、遠くから騎兵が来るのが見えた。なんだろうと思っていたら、どんどん近づいてきて、門の前で整列した。
「セルウォリスの領主の館であるな。これより国王陛下の命により抜き打ちの視察を行う。門を開けよ。」
隊長らしき人物が高らかと口上をあげ、開門を命じてきた。その手には命令書らしきものも掲げられていた。
「は、はい。今すぐ。」
そう言って俺は門を開けた。だってよく見たら、王国軍の兵士達だったんだ。止めれるわけがないだろう。
ローズミア公爵邸
その日、朝方に来客があったあと、私たちは昼食の準備の合間に休憩がてら駄弁っていた。
「しかし、今日来た娘、まだ若いのにかわいそうね。」
「でも、私たちにはどうすることもできないでしょ、あの娘達みたいに潰され棄てられるよりは、少しでも長生きしたいし。」
少しだけ先輩のメイドの言葉に私も頷く。
「確かに。生きていれば希望はあるさ。メイドがこれ以上減ったら回らなくなるから、私らは最低限安泰だろうけど……。」
「ま、公爵様に聞かれないうちにとっとと仕事を終わらせないとね。」
そう言って、椅子から立ち上がろうとしたら……。
――――大丈夫、あなたたちには危害を加えないから、そのまま座っていて――――
「「!!」」
どこからともなく声が聞こえた。妖精のようなその声に辺りを見回しても、誰もいなかった。
なぜだろうとメイド仲間と目を合わせた瞬間、屋敷の中からものすごい雄叫びが聞こえた。




