突然の通達
ふと閃きました。
最後はハッピーエンドになる予定です
「テュファーレ家の者達に告ぐ」
冬の寒さが和らぎ始め、春の穏やかな空気を感じ始めるようになった頃。
その死刑宣告は訪れた。
「ソシャーヌ家の御令嬢にして第二皇子殿下の婚約者であったステシア嬢は、とある庶民出身の女性に数多の嫌がらせをした挙句、その命をも無くそうとした」
私達、テュファーレ家の面々は王宮からの使者の言葉に静かに耳を傾けた。
私も、私の姉も、両親も、使者のただならぬ雰囲気に言葉を発せずにいた。
「卒業式の日、第二皇子殿下は遂にステシア嬢の暴挙に目を瞑れなくなり婚約を破棄された。また、謝罪することはないかという言葉に対し、何もなかったことで第二皇子殿下は激怒なされ、また、皇帝陛下もこの事態を重く見て、ソシャーヌ家一家の取り潰し、そして死刑を確定された」
「そんな……」
思わず声を出してしまうと、使者が厳しい目で私を見て言葉を続けた。
「また、追加でソシャーヌ家の分家であるテュファーレ家も取り潰し、皆死刑ということで確定した」
「何故ですか……!?」
今度は姉が声を上げた。分家とはいえ、ステシアとは数回しか会ったことがなく、加えてステシアのしでかしたことも知りようがなかった中、これはおかしくないだろうか。
「何故か、ですか。それは、ステシア嬢を止められるような立ち位置にいながら暴挙を止められなかったことへの罰です。更に、その庶民出身の女性は第二皇子の新たな婚約者になりましたので、その点も留意して頂きたい」
「娘達はステシアとは違う学校に通っていましたので、知りようがありませんでした」
母が必死に言うも、使者は嫌そうな視線を向けるばかり。
「嗚呼、やはりステシア嬢と血縁関係があると思わせるような言動。虫唾が走ります」
「……!?そうだとしても、娘達を殺す必要性はないのではないだろうか。どうか、娘達の命は助けてほしい」
父はギョッとしたように使者の言葉に目を見開くが、そう言う。
私は突然告げられた死刑宣告にただ体が震えた。
しかし、こんな無様に震えている場合ではない。こっそりと、背後に立っている侍女に「全員、使用人には暇を出します。屋敷にあるものを一個ずつ持って、早急に立ち去って,と伝えて。最後に給金を渡せないことを謝ります」と小声で伝える。
侍女は首を横に振っていたが、命令だと強く出れば嫌そうにしながら去っていった。
使者は私のその行動を止めることはなく、ただ虫けらを見るような目でじっと見ていた。
「テュファーレ家は皆殺しです。それは変わりません」
以上、王命です。
そう言って使者は屋敷から出ていった。
そしてその直後、屋敷に騎士がどっと流れ込み、私達一家は捕らえられて皆別々で牢屋に入れられた。
使用人達はこの事には加担していない事、そして第二皇子の新婚約者の「使用人の方々には罪はありませんので逃がしてあげて下さい」という言葉により無実になったとに知らせを受けた。
なら、私達一家の無実も伝えて、ステシアの両親の無実も伝えてくれないだろうか。
だって、ステシアの両親であるソシャーヌ公爵夫妻は気立が良く、誰に対しても優しく、今時の貴族にしては珍しい、地位に固執しないタイプなのだ。……ステシアとは違って。
だから、一万歩譲ってステシアが死刑となったとしても、あの両親、加えて私達にまで危害が及ぶのはおかしいのだ。
聞けば、テュファーレ家だけではなく、もう二つある分家も皆捕らえられたようだ。
「おい、トイレの時間だ」
厳重に鍵を付けられた鉄格子を開き、監視人が私を立たせる。
「……はい」
トイレには行けるものの、風呂はダメ。
食事は一日一回だ。
どうやらどうせ死刑になるんだから、そんなに食べても無駄だろうと言う考えらしい。
ねえ、どうして誰もこの状況がおかしいと思わないの。
私は、足につけられた重りを引きずり、痛みに涙が出そうになるのを必死で我慢して監視人についていくしかなかった。