第九十五話 妖狐は狐を追う
「………どちら様ですか?」
俺は青年に問う。
直衣に烏帽子というシルエットの、不自然で目立つ格好の青年はフフフと笑う。
「私の名前は………まあ、言えないね」
「………教えたらあなたが俺の支配下におかれるから、ですか?」
「………面白い想像だね」
想像、ですか………結構推理には自信があったんですけどね。
それに姿を見せないというのも──
「………エロース神?」
「ははっ、そういうのには関係ないかな」
顔の見えない青年──いえ、神様は笑う。
恋愛には関係ない………まあ、大体の検討はつきますが。
「………死の世界を旅しなくていいんですか?」
「太陽神でもないかなぁ………」
………マジですか。
まあ俺が真名を言っても、意味ないと思いますけど。
「ああけど、故郷ではあるねぇ」
──!
俺の中で閃きが走る。
まさか………まさかまさか!
高揚していくのを感じる。
こりゃあ真名呟くより御加護を貰うほうが………いや、是非ともお近づきになりたいですね!
「ふふ、もうここまで言ったんだ。わかってくれて嬉しいよ」
「御高名はかねがね承っております」
俺は片膝立て頭を垂れる。
………ところで常世出身の神だからと言って、日本神話の神出しちゃって大丈夫なんですかね?
『あのー………私にもわかるようお話していただいていいですか?』
「あー、まあ、いいですけど………」
俺はちらりと一瞥。
神様は頷いたので、解説をする。
「──日本神話には、様々な種類の神様がいます。
太陽神、豊穣神………環境の神様や学問の神様まで多種多様でして、その中に知恵を司る神様もいるんですよ」
『なるほど。その『知恵の神様』が、目の前の怪しい方だと』
説明にそこまで時間をかけません。
そして真名もいいません。忙しいので。
納得した様子のピクシーさんは『ところで──』と、話を戻していく。
『あなたは何が目的でショウさんに近づいたのですか?』
「ああ、そうだった。忘れていたよ」
やっぱ人はいいねぇ………と、おじいさん臭いことを言って、神様は一枚の札を投げてきた。
「………これは」
「呪符さ。何度も使える特殊な、ね。
それを使い、あの狐を捕獲するか、改心させてほしいのさ」
「捕獲、ですか………」
狐と犬。
ギリシャ神話。
これだけであれば『テウメソスの狐』と断定できますし、内容も思い出せます。
………あれ? 捕獲無理じゃないですか?
「もちろん。あれは捕獲できるようなものじゃあない。けれど、これは時間との勝負なんだよ」
「………石になってからでは、遅いと?」
「その通りであり、少し違うかな。キミもテウメソスのことは知っているんだろう?」
俺は神様の言葉に頷く。
テウメソスの狐。
端的にいえば、怪物『テウメソス』の悪事を止めるために『ライラプス』という猟犬といたちごっこをする話ですね。
ちなみに最後はゼウスによって両方石にされ、ライラプスはテウメソスの悪事を止めたという功績から、星座になったのです。
確かおおいぬ座でしたかね。
余談ですが、テウメソスはディオニュソス様の聖獣である狐です。
そしてディオニュソスの意味は『若いゼウス』。まあ『若い神』ともとられますが………ディオニュソスがゼウスなら、若い頃の過ちを清算した。みたいな感じがするんですよ。
「私はね、ゼウス様に呼ばれて来た常世神。
常世出身の神様だから他の神話にも行けて、更には知恵の神様でもある。
問題解決の為に外部から呼ぶ神として、私ほど適任は神様はそんなにいないのさ」
まあ、災害を止めろとか無茶なことを言われたけどね──なるほどです。常世神は外界………隠世から現世から来た神です。ならば隠世──他の神話世界に登場してもおかしくはないでしょう。
「期限は?」
「そうだねぇ………まあ、無期限とは言わないけど、彼の狐が逃走してから三ヶ月くらいかなぁ」
三ヶ月………例え『VWO』内時間で三ヶ月でも、結構時間はありますね。
その間に、猟犬ライラプスと共に狐を捕獲する………無理難題とはまさにこのこと。
「それじゃあ、キミ達の旅路に祝福を」
そう言い残し、神様は消えていった。
あれ、どうなってるんでしょう………『透明化』のスキルでもあるんでしょうか?
さらっと出された設定。それをスルーしていく主人公。更にカオスになる現状。




