第九十話 後悔を未来に託す
「クソッ………!」
一人の青年が歯噛みする。
己の無力さを。
己の非凡さを。
とはいえここはVR空間。例え己の拳を強く握りしめ、机を叩いたとしても、痛みも傷もない。とても機械的で、非現実的な空間である。
「呵呵っ! さすがにログアウト不可にはしなかったか!」
「………そんな事をしたら、我が社の信頼は底に着きますからね」
「そうかそうか! しかしやることが幼稚よのう………」
そう呟きながら仮想キーボードを叩く筋骨隆々なアバターから視線を外し、青年は先ほど受信したメールを開く。
その内容は先ほどの話と関わりのある『障害報告』だ。
「………ご丁寧にプログラムごと送られてきましたよ。『彼』」
「だろうな! そのためにピクシーを与えたんだ、それくらいやってもらわなくては困る!」
「………」
その言葉に正気を疑う青年。
彼自身、その男を『天才』と認めているが、それ以前に類に見ない変態とも認識している。
というか、天才以前に変態と認識していた。
男の統括する『WF』というチームは、その変態性故に業界内では『異端? 違う、あいつらはこの業界の人間ではない………そもそも人間なのかあいつら』と言われているほどの変態性を持っている。
そして異常なほどの技術力も………。
ゲームシステムに関して言えば、『WF』というチームは世界最高峰の技術力を有しているのだ。
「なあに、もう彼は用済みさ。後は彼の言う『理想の世界』を、完璧とやらを、一人で夢想し、創造し、想像し、体現してもらおうじゃないか」
男はenterキーを押す。
それだけで、全ての異常がなくなった。
そして──
「『ダミー・ワールド』はその為の布石………だったのですか」
「なあに。あの世界はまた使われるのさ。それまで、有効活用してもらうだけさ」
ただそれだけだ。そう言って男は笑う。
青年はなんとも言えない表情で、その姿を見ているだけ。その様子に釈然としなかったのか、男は青年に問う。
「はぁ………そんなに『彼』への干渉を防ぎたかったのか?」
「過去に戻れるなら、今からでもしたいですよ」
「土台無理な話だな。以後そのようなことがあったら対処できるようにするだけで、我は手一杯だからな!」
いつまでも過去だけを見ていてはいけない。
過去を見ていても時は巻き戻らないし、止まらない。
なら進み行く時間を………未来の時で、またこのようなことがないように対策する──それが彼の、青年の目の前で豪快に笑う男が導き出した最適解なのだ。
後悔は悪に非ず。
後十話で百話。三桁突入ー!
いやぁ……多忙。某鉄さんみたいな不死者になりたいです。




