第八十二話 正式サービス開始三十分前。一難去ってまた一難
「それじゃあ今日の実況はここまで! またな!」
洋士さんはそう締めくくって動画を終わらせる。
視聴者数は………おお、九百万人。
「んー………疲れました」
「お疲れ晶」
『お疲れ様です。洋士さん晶さん』
………鏡花ちゃん。この恨みは忘れませんからね?
まあおばあちゃん達のお気に入りなので何もできませんが。
「それじゃあ少しシャワー浴びてきます」
「おぉ、行ってきな」
■■■■
「ふぅ………ついにこの時が来ましたか」
シャワーを浴び、その他諸々のことをやり終えた俺は、HMDを被って自室に寝転がり、仮想世界に来ていた。
なんか洋士さんや蕩音ちゃんも『VWO』やってるらしいんですよねぇ………やはり『現実は小説より奇なり』とは本当だったんですね。
いえ、この場合は『世間は狭い』ですかね?
俺は『VWO』スタート画面から『アバター作成』を選択する。
………いや、別に作成する必要はないんですけどね?
スタートボタンを押した瞬間、目の前に『新規メッセージがあります。開きますか? yes/no』yes。
すると景色は変わる。
のどかな草原から白い空間に。
見渡す限り白いですね………。
「お待ちしておりました。ショウ様」
「あれ? 常識人の方」
現れたのは『Calamity Keraunosu』開始直前に謝罪をしたあの運営常識人勢さん──の、使っていたアバターでした。
「………まあ、中身も同じですが………今回は少々特殊な話のためこちらにお呼びさせていただきました」
「特殊ですか?」
運営さんは頷く。
う~ん………俺、なんかやりましたっけ?
「はい。今回──いえ前回のラストイベント『Calamity Keraunosu』のラストまで司会をしたAI………覚えておいでですよね?」
「はい。ピクシー先生は俺の師匠ですから」
いきなりな質問に疑念を抱きながら、俺は答える。
? なんでしょうかね? ピクシーさん。やらかしたんですかね?
「………実は今回、そのピクシーを廃棄もといクビにすることになったのですが」
「あー………納得です」
ですよねー。俺も少しだけクビになるであろう理由知ってますし。
「そこでなのですが、彼女を引き取っては頂けないでしょうか」
「………ゑ?」
思わず歴史的仮名遣いで返してしまいました。
いや、本当に………え? 嘘ですよね?
そんな俺の表情や仕草を見てか、運営さんは一つ頷き説明をする。
「正確には、『彼女を形作っていたデータ』………ピクシー本体を、あなたに譲渡したいのです」
「………」
俺、初めて驚きで言葉を失いました。
………さて、夢なら覚めてくれませんかね。
「残念ながら夢ではないです」
「エスパーですか?」
「顔に出てますよ」
何ですと!? 俺は顔をぺたぺたと触る。
………いや、精密に出来てますね。
そういえば『VWO』。本当の自分の体のようにアバター操れるんですよね。体から軽くなるような気分になるので文字通り自由自在に。それこそ仮想世界か現実世界かわからなくなるくらいに。
ふざけてバク転しまくってグロッキーになったのが懐かしいですね………って、変な感慨に浸っている場合ではないですね。
「えっと………無償譲渡ってことでいいんですか?」
「はい。よろしければいくつか特典をお付けしますが………」
運営さんが半透明のウィンドウを開き、こちらに飛ばす。
どれどれ………『マップ情報取得』『敵データ閲覧』──って、どこのデスゲームのトッププレイヤー夫婦の娘さんですか。
俺は窓をスライドして、様々な特典を見ていく。
「特典はいくつまでいいんですか?」
「モノにもよりますね」
なるほど………まあ、俺は──三つほど選択して、運営さんに返す。
「『VWO内アバター化』『他アプリ適応プログラム』『育成型人工知能』………もう一つくらいでしたら聞けますが………」
「あー、それじゃあこの『防衛プログラム』で」
「かしこまりました。なお、このピクシーはハッキングなどには用いることができません」
「使う気ないですよ」
そもそもハッキングなんてしたことありませんし。
運営さんは「一応です」と言っているので、疑われているんじゃないんだとはわかりますが。
「──設定完了です。では、データをお受け取りください」
俺の目の前に『データが送信されてきました。ダウンロードしますか? yes/no』と表示される。
もちろんyes。
ダウンロードはほぼ一瞬で終わりました。呆気ないような気がします。
「続いて著作権についてですが………」
話が長かったので要約しますけど、どうやら『VWO』正式サービスのオープニングで『Calamity Keraunosu』終盤の映像を使うのだとか。
その中でも目立った人は出演するため、許可をもらいに来たのだとか。
「使用料も払わせていただきます。こちらの口座へ振り込まれすので、コピーなどをしておいてください」
「無償でもいいんですよ?」
「ありがとうございます。しかし我が社の感謝の印でございますので、お受け取りください。では、これからも『VWO』の世界をお楽しみください」
運営さんが消え、景色もスタート画面の景色に戻る。
………なんでしょうね。この『一難去ってまた一難』感のある感覚。
メニューを呼び出す。
えーっと………あ、新しい文字発見。『setting』の中にある『otherwise』に触れると………よし当たり。
データを同期させてピクシーさんのデータを取り出す。
ファイル名『Why is this』………何故でしょう。とても運営を労いたい気持ちに駆られてます。
まあファイルを開ける。データ読み込みにさほど時間はかからず、すぐにお世話になったあのピクシーさんが現れた。
『んー、シャバの空気は美味しいですねー!』
「おはようございまーす」
『あ、ツッコミも何も無しですか』
ピクシーさん。あまり裟婆のネタというかアレはツッコミづらいです………はい。
ある意味警察ではあるのかもしれませんし、住む世界仮想世界だから間違ってないのかもしれませんが………何故か運営さんがピクシーさんを取調室で聴取を行っている光景が浮かぶんですよね。
『では、気を取り直して、スタートしましょう!』
「ピクシーさんのキャラも作らないとですからね」
俺はスタートボタンをタップした。
これにて幕間も終わりです。
いやぁ (一つ前の話は)長かった……けど満足。
次回の更新予定は未定ですが、次の更新から二章開始となります。
『VWO』はこっからが本番ってことになってますからね。まあ当初は「βなら終わり方がキレイにできるし正式サービスは番外編で──」と考えていたのですが……書いていて楽しいので正式サービスも本編です。何年かけてでも主要神話の世界は巡るぞー!
……ついでに近隣諸国の童話やそれに連なる番外編もやりたいです。ギリシャならアイソーポスとか。




