第五十六話 真に受ける
本当にギリギリ。俺達は開始6分前に会場に到着した。
その頃にはもう全員が部屋に集まっており、談笑が繰り広げられていました。
「………間に合いましたね」
「…………ああ、そしてショウ、お前………速すぎだ」
そりゃまあ………やはりアタランテ様強しですからね。世界最速の女狩猟者を侮るな! ってカンジですね。悪魔的なAGI強化ですし。
俺はパーティー会場の真ん中にある机にゲンテさんと移動する。
料理は、どこに置くか事前に二人で考えていたので、ささっと終わりました。
「………そろそろ始まりですよ? 主催者さん」
「ああ、行ってくる」
俺は今回料理人を勤めている。
司会兼主催者兼料理人のゲンテさんはこの後も色々あるようですが、俺は開催宣言が終わったらすぐ食べますよ?
ゲンテさんは備え付けのマイクを取る。
『………あー。あー。マイクテスマイクテス』
そもそも、VR世界でマイクテストって必要ですかね? まあ俺は行う派の人間ですけど。
『Ladies and gentleman boy and girls──紳士ならびに淑女の皆様。今宵はお集まり頂き誠にありがとうございます。
このパーティーでは勝手にパナテナイア祭最終日直前の英気を養う──という名のラストパーティーとなっております。存分にお楽しみください』
…………以上。俺の考えた文でした。じゃあスタートです!
皆一気に食べ物に寄っていく。今回はバイキング形式で食べ物を並ばせているので、極端に人が集まる場所もないのですが………やはり少ないかもですね。
参加者が24人という、予想より遥かに多くのプレイヤーさんが参加したからなんですけど………。
ちなみに大半を連れてきたのはアイギスさんとゲンテさんのお二人で、俺とシロさんとツキちゃんに関しては一切呼んでいないといいますか、そういう人がいないといいますか………まあそれはさておき。
意外にも、和食に皆が寄っていく。
予想以上に。ってことですけど。
「ショウお疲れー」
「シロさん」
シロさんが取り皿を持ってこちらへ駆け寄ってくる。
まだ何も乗せていない皿 (借り物)を持って。
「ショウは食べないの?」
「食べますよ。ゲンテさんの料理は美味しいですし」
俺、作るのも好きですけど、作られた物を食べるのはもっと好きなんですよねぇ。
そんなわけで、今日のゲンテさんの料理は楽しみだったりしてます。
俺も取り皿を取りに行こうとすると、シロさんに止められた。
「? どうしました?」
「いやいや、さっきのパナテナイア祭だっけ? 何それ?」
「え?」
「え?」
……………奇妙な沈黙。地味にあれですよね。落ち着かないといいますか居心地の悪い………。
「………冗談ですよね?」
「いや、知らないよ?」
………マジですか………いえ、自分の言葉ですから、自分で説明するのは義務ですよね。説明欲しそうな目をされておりますし。
「パナテナイア祭は神殿で祀っている女神アテナに捧げる祭りなんです」
「へぇ、どんな事をやるの?」
シロさんが良いところをついてくる。
「パナテナイア祭は7月8月頃の祭で、主に献上するのは競技大会や行進、あとは生け贄を献上したりするお祭りなんですよ。」
「…………」
俺は説明を続ける。
「生け贄は羊等ですね………まあ、ありませんでしたけど。
競技大会と行進はありましたよね」
「え? 行進なんてあったの?」
「ええ、初日の夜遅くにやってましたよ」
勿論参加しましたよ? 楽しかったです。
「へぇ、私も参加したかったかも」
「そうですか? じゃあ今日は頑張りましょう」
今日は奉献とかするんじゃないですか? まあもしかしたら船を奉献するかもですけど。
………まあ海のない場所で船の奉献はないと思いますけどね。
俺は納得しているシロさんと別れ、料理を見に行く。
今日は会心の出来ですし、俺はのんびり食べましょう。
さて、何を取りましょうかねー。
「ようショウ。お疲れ様」
「──ゲンテさん。お疲れ様です」
後ろから奇襲かけられました。
ちょっと心臓に悪いのですけどやめていただけませんでしょうか? あと皆さんタイミングがいいですね。悪い意味で。
俺は選ぶ手を止め、今皿にある料理を近くの椅子に座って食べながら、ゲンテさんと話す。
「それで? 英気を養う比喩で言ったわけだが………これ、料理に『付与効果』があるよな?」
「ええ、ありますよ」
ちなみに『料理特殊効果付与』というのは、先週末のメンテナンス後に入った料理の特殊効果。
この時、料理人がマイナーだと思われたため、このような『救済措置』があったのです。
俺はこの時には料理スキルのレベルが5だったんですよねぇ。
あ、βテストの最高スキルレベルは10ですよ? それ以上に上げるとなると必要経験値が………器用貧乏には辛いくらい多くなるんですよ。
俺達が付与効果について議論したり、食事を取ってきて感想を言い合ったりしていると、いつの間にか時間が過ぎていった。
「──うん。まあ………なんか食い尽くしたな」
「そうですね。もう少し作ってきてもよかったかもです」
俺は様々な料理が置かれていたテーブルを見る。
どの皿も空っぽで、綺麗に無くなっている。
「嬉しい事なんですけどね」
「まあな。料理人としては大満足だ」
「でも、食べるのに満足していないと?」
「ああ」
ゲンテさんは最後、『大食漢』という大食いの為のスキルを取得して、料理を食べていた。
いや、焼き肉やらサラダやらパンやらと様々な食べ物が美味しいのはわかるんですけど、大体食べたのゲンテさんですよ?
「…………あと、10時間も無いですね」
「そうだな。あと少しでこの世界とお別れだ」
俺は現実の時刻を見る。
午後17時ピッタリ。
「すいませんゲンテさん。俺、ちょっと夕食を作ってきますね?」
「? ………ああ、わかった」
「それでは………」
俺はメニューから『空間使用代表者宣言』というアイテムを渡す。
これがあるとログアウトできないのですが、誰かに一時的に譲渡すれば何とかなるんですよねぇ。
そんな訳で、俺は一時的にログアウトする。
「すいません。もしも17時50分になっても戻らなかったら、勝手に終わらせちゃってください」
そう言って、夕飯を作るためにログアウトした。
言葉ってさ…難しいよね




