第五十二話 感傷に浸る
あの後、アイギスさんとはフレンドになり、防具について語り合わせてもらった。
ちなみにアイギスさんも、生産職兼戦闘職なプレイヤーらしいです。
アイギスさんと別れた後、俺は街の外に出る。
あと見れて二日。
ゲームの時間で言えば………それでも同じくらいですか。そんな『VWOβテスト』の広い草原と青空。
勿論、この世界が消えて無くなる訳じゃない。
けれど、この世界に思い出が多くできたのも事実。
楽しかった。あと数日もすれば、この仮想世界はβ版『VWO』から正規版『VWO』の世界へと変わる。
まさに、この草原が地中海の海──『エーゲ海』に変わる。
ポセイドン様いるんですかねぇ?
歩きながら、思い出のある場所を歩く。
草原では始めてモンスターを倒して、森では『切断』を教わった。
墓地では雷の音にびびって帰ってしまったけど、近くの山では鉱石を沢山採掘した。
俺は街へと引き返す。
まず最初に向かったのは、始まりの場所。始めてこの世界に降り立った場所『広場』。
待ち合わせなどでもお世話になった。
次に生産区画。
ここで俺の浴衣や武器は産まれた。
そして──
「アテネの街の大聖堂──『ニケ神殿』」
ここで俺はサイアムさんと出会い、女神アテネから寵愛を授かった。
俺はもう一度この場所の扉を開き、アテネ像に向かってお願いをする。
「………おい、ここは子供のくる場所じゃねぇ」
「俺は『旅人』ですよ。サイアムさん」
後ろからお約束のように、サイアムさんが現れた。
「久しぶりだな」
「ええ、お久しぶりです」
俺は祈りを捧げてから、きちんとサイアムさんを見る。
サイアムさんは、どこか哀愁漂う笑顔で俺を見る。
「………神はな。俺達の世界から秩序が消え、全てが混沌になると仰った」
「はい」
この場合の秩序とは『Various World Online βテスト』の世界と住民。
そして混沌はデータの初期化を指すのだと推測する。
NPCにとって、そうだろう。βテストのデータが処分される。または複製再構築をされても、彼らは消える。
その事実に、少し悲しくなる。
「なぁに、お前は俺のような老いぼれ達より、前を見ろ」
「…………はい。ありがとうございます」
俺はまだ、この世界がゲームだと、サイアムさん達がNPCだという事実を受け入れられない。
まだ、割りきれない。
でもそれが正しいんだと思いますけど。
この世界の人にだって喜怒哀楽があり、生活がある。人生がある。
この世界でたった一度きりの人生を歩んでいるのだ。人間味がありすぎた。
まだ、俺は割りきれるほど大人じゃない。
周りからはそう思われていても、俺自身は、まだ俺が大人じゃない。子供だって分かってる。
「………そんな悲しい顔をしないでくれ………俺だって、俺だって死にたかぁねぇよ。俺だってまだ。生きていたい」
そうだ。可哀想なんて思っちゃいけない。
この世界の人間と、現実の人間はおんなじ。どこも違いはない。ただいる場所が、生活する場所が違うだけ。
「………サイアムさんも、今日は酒くらい飲んだらどうです?」
「もう買ってきてあらあ。今からここでやけ酒さ」
俺はサイアムさんの返答に笑ってしまう。
「………そもそも、そこまで俺は熱心な信者じゃねぇからなぁ」
「なるほど」
確かにサイアムさん。なんか飲んだくれ感ありますし、信者なの? って感じはしますよね。
というか、そもそも『WF』っておかしな所を凝った作りにしますよね。このβテストだってストーリーなさそうなのに地味にストーリー隠れていそうですし………。
どんな言葉を使っても、自分の伝えたいことが相手にきちんと伝わらないのは当たり前。
育った環境、培った知識………何もかもが異なるのだから、認識にとて齟齬があるのは当たり前。
仕方ないことだよねぇ………はぁ。隠居したい




