第五話 疲れはV字回復しません。
あれはただの後回しです
数分後、マッピングしながら街を歩いたのはいいのですけど……。
「全然人に話しかけることができないです……」
買い物は少々心許ないからできないんですよねぇ……本当、コミュニケーション方法が極端ですいませんでした。
フレンドさん誰かいないですかね? いなかったらヤバいですよ?
そんな事を考えながら広場のベンチに腰かけてメニューを開き、俺は『friend』の六文字をタップする。
さてさて……あー、シロさんはいませんね。残念。で、ですけど別に、フレンドは一人だけじゃありませんし? だ、大丈夫だと信じたいですね? ……たぶんいるはずですから。
「あ、ゲンテさん居たんですね。この街に」
俺はフレンドリストから、今ログインしているフレンドさんに連絡をする。
仕方ないじゃないですか。人と話せない……もとい外見が同年代の方との会話は大の苦手なんですから。それに探すほどフレンドはいませんし。
メッセージを送信した数分後、ゲンテさんから返信が届いた。
内容は街の名前とチュートリアルはやったほうがお得という神託のようなお言葉。
マジありがたいです。あ、街の名前はアテネって名前らしいです。情報ゲット。地図も更新されましたね。
とりあえず……もう、今日は疲れました。
近くで宿でもとって、さっさとログアウトして寝ましょうか。
■■■■
「はぁ~、疲れました~」
俺は机にうつ伏せになり、全体重を預ける。
時刻は翌日の昼休み……朝から雨がザーザー降りで洗濯物を室内に干したりして憂鬱だったのもありますが、それを差し置いてもホント疲れました。眠いですけどまだ午後の授業があるんですよね……。
「あれ? どうしたの? 真茅くん。次の時間は移動教室だからはやくお昼を食べたほうがいいよ?」
「あはは……ありがとうございます」
はぁ、昼食食べるのもダルいですねぇ。
「おいおい、白峰さんに話しかけられてそんな返答する人間初めて見たぞ」
「……仕方ないですよ。疲れているんですから」
浩平が勝手に俺の前の席の人の椅子に座る。
手には購買で買ったと思われるパンと飲み物がある。
……ここで食べるんですね。
「そんで、なんでそんなに疲れてんだ?」
「……ちょっと長くなりますけど」
「ああ、いいぜ」
俺は弁当を取りだしながら言う。
「昨日、帰ってから家事をしたりといつも通りしたんですよ」
「おう、なんかお前らしいな。その行動」
俺、浩平からどんな人間だと思われているのです? なんかそっちが気になるんですけど。
「まあそうなんですけど。その後のんびりゲームでもしようと思ってゲームをしたら……」
「あー、夜更かししてしまった。と」
浩平くんが話を予想した。
だが残念でしたね浩平くん。いえ、ワトソ○くん。
そんな理由じゃないんですよ。
「単純に疲れただけで、夜更かしはしていませんよ?」
マッピングが楽しくてついつい、ですね。
しょーもない理由すぎて、言うのが恥ずかしいんですよね。
「え? 夜更かしじゃないのか?」
「するはずがないですよ。朝は忙しいんですから」
朝は大変なのです。
朝食を作ったり弁当作ったり、洗濯したりして。
「へぇ~。それは少し意外だな。晶の場合、夜更かししても学校に来てそうな雰囲気あったし」
「さすがに、夜更かしして学校休むなんてしませんよ」
まあ、夜更かししないのが一番なんですけどね。
だから時間厳守は大事。そう思っております。
「そういや、何のゲームで遊んでいたんだ?」
「ん? ああ、『various world online』です」
「え? お前、『VWO』やってるの?」
「はい」
浩平くんにへぇ~、お前も流行にのるんだなぁ。と言われた。
いや、のっちゃ悪いですかね?
「いや、晶の場合。自分の好きなものにどっぷりハマるだろ?」
「そうですね」
断言しましょう。『worry-free』にクソゲーはない (※個人の感想です。一般的にはネタゲー工場として有名です)。
そんな俺に、苦笑しながら浩平くんは言う。
「うん。だから流行にのるのが珍しいと思って言っただけだ」
「そうですか?」
「おう」
ハッキリと言いおりましたよ。ワト○ンくん……じゃないや浩平くん。
でも否定出来ない……それがホントに悔しいです。
「真茅くん? あの……」
「はい? どうしました? 白峰さん」
おっと、黙考していましたか。これはいけない癖ですね。
白峰さんは俺に筆箱を差し出してくる。
え? 何故お持ちになっておりまして?
「真茅くん。筆箱落としてたよ」
「え……ああ、すいません」
「……おい、そういう時はもう少し反応したほうがいいぞ?」
「語彙力とコミュニケーション能力がなくてすいません」
どうせ俺はコミュニケーション能力皆無ですし。
俺は何て言えば良かったんですか? と思いながら筆箱を受けとる。
そんな俺と浩平くんのやり取りを聞いて困惑気味な白峰さん。
「ええと……」
「ああ、すいません。浩平くんのことは気にしなくてもいいですよ」
「あ、うん」
「おい晶、そして白峰さんも! 無視だけは止めてくれません?」
浩平くんのそのに思わず吹きそうになるのに耐える。
白峰さんの表情からも、困惑は消えていた。
「そうだ、晶」
「? どうしました?」
「時間」
「……あ」
時計を見ると、休み時間も残り数分だった。
さっさと食べ終えた俺は次の──あ、移動教室でしたか。
「ごめん。浩平くん。白峰さんも」
「いや大丈夫だ。遅刻ギリギリでもな」
「それ、冗談に聞こえない」
「冗談じゃないからな」
ええ!? と、思ったが、良く考えてみれば納得できる。
浩平くん、授業中寝てるし。
白峰さんは大丈夫だよ。と、天使のように言ってくれた。
「そうだ、『VWO』って来月からだよな?」
「そうなんですか?」
少し早歩きで廊下を歩く俺達。
あれ? ……ああ、βテストはそうでした。
「βテストは今月からですよ?」
「え? 入江くん。『VWO』のβやってるの?」
急に白峰さんが話に入ってきた。
驚きながらも、俺は白峰さんの言葉に肯定する。
「はい、昨日から初めました」
白峰さんが驚きの表情で告げてくる。
え? 俺の方は状況を認識出来なくなってきた。
「本当? 私もやっているんだ。もし良かったら真茅くん。一緒に遊ばない?」
「? 『VWO』でですか?」
「うん」
白峰さんが俺を誘う……だ、と。
夢か何かですかね。
「ちょっと浩平くん。俺の頬をつねってくれないでしょうか?」
「残念だったな晶。俺はもうやった。これは夢じゃないぞ」
え? 夢じゃない。それじゃあ現実ということですか?
「分かりました。それじゃあ、何時頃にします?」
「……そうだねえ。あ、今週の土曜日ってどう?」
土曜日ですか……どうせ休日は家でだらだらしてるだけですし、大丈夫ですよね。確実に。
「大丈夫だと思います。それじゃ、待ち合わせは──」
その後『VWO』の話が長引き、授業に遅れそうにはなりました。
完全に日常回じゃないか…
私はVRゲームの作品を書いているはずなのに…