第四話 ついに始めるようです。
「ただいま~。ふぁ……」
俺以外誰も住んでいない部屋に、俺の言葉と欠伸が虚しく響く。
母も住んでいるのですが、仕事で全国を回っているため、ほぼ俺の一人暮らしと同然。
とりあえず洗濯物を取り込んだり夕食作ったりして……それら全てが終わる頃、我が家のアナログ時計の短針は『8』の数字の左上くらいを指していた。
「ふぅ~、やっと遊べるんですね……」
俺は自室に入り、HMDを取りだして被る。
風呂には入りましたし、歯も磨きました。後は寝るだけの俺はベッドに横になり、HMDの電源をいれてVRの世界に入っていった。
■■■■
「……相変わらずの草原ですねぇ」
俺はスタート画面の快晴の草原を見渡しながら……おや? 何か落ちてるようで。
好奇心を抑えきれず、俺は落とし物? に近づいて行く。
というか歩けるんですねスタート画面で……さすが『WF』。無駄なところまで作り込んでいますね。そういうところが大好きです。
その数秒後、残り数歩という所で『keep out』の文字に阻まれて落とし物? は拾えない仕様ということが判明しましたがね。誠に残念です。
「いやぁ、惜しかった……まあそれはさておき、早くこの世界で遊んでみたいですね」
……もちろん悔しいですよ? しかし悔やんでも仕方ないこともありますからね。この画面はログイン時に見ることができるでしょうし、後で何度か挑戦するってことで。
目の前に表示されている『TAP TO START』の文字をタップ。
すると窓が表れて『名前を入力してください』という文字と、名前を入力する欄がでてきた。
その欄を押すと、入力欄の少々下にキーボードがでてきた。
「え~と……『ショウ』でいけますね」
この名前以外を考えるのも面倒ですし、愛着もあったりするので嬉しいですねぇり
……まあ、俺の名前が『晶』だから『ショウ』なんですけどね。単純ですいませんでした。
キーボード脇の『確定』を押すと『本当によろしいですか?』という文字と『yes/no』がでたので、『yes』タップ。
とりあえず『本当によろしいのですね?』は出なかったです。ちなみに後で変更可能だったり。何の意味もない『WF』の仕様ですね。ただその変わりと言わんばかりに水色の光が全身を包みこみ始める。
ロード中はこうなのですかね?
「あ、ロード? 終わりましたね」
水色の光が消えると、何故か俺のアバターは雲海の上? とりあえず初めて見たVR空間みたいな場所にいた。
《various world online の世界へようこそ~》
「──おぉ。妖精さんですか?」
パッと、目の前に唐突に現れた手のひらサイズの羽が生えてる『妖精』さんが現れた。
全体的に緑色……肌は人間のそれと同じですから、例えるならティン○ーベルでしょうかね? 愛称はティンクで、ベルは『美しい』とかいう意味で、赤ちゃんが笑うと生まれて、『妖精なんていない!』と叫ぶと一人ずつ消えていくあれですかね? それがティンカーベル達妖精ですね。はい。
《あー、すいません。驚かせてしまいましたね。ワタシは『ナビゲーションピクシー』? とやらをやっております。気軽にピクシーと呼んでください》
「わかりました。よろしくお願いします。ピクシーさん」
俺がそう言うと《別に敬語じゃなくても良いですよ》と、言われましたが無視。
しかしやはり妖精でしたか……外見を例えるならアトランティス文明の最高位機械知性さんとかですね。はい。
それはさておいて、です。
「ここは一体……」
《ここはステータスを決める場所だとでも思ってください》
へぇ~。絶叫系苦手な人とか高所恐怖症の人は大変そうだな~と思いました。
《それでは、ステータスを設定していくのですが、ステータス設定の方法は二つあります。
一つ目が、自分でステータスにポイントを振り分ける『手動設定』
そしてもう一つが、こちらで自動的に設定を行う『自動設定』があります。
『手動』の場合、ステータス設定、スキル設定を自分で行えますが、『自動』では、現実の貴方の『リアルステータス』とでも言うべきものをトレースしますので、ステータス設定スキル設定を勝手に行います。
かかる時間は『自動』のほうが短いと思われますが、運が良ければ初期から上級クラスのステータスになります。そしてスキルにも特典があります。まあ、レベルは1では上級ってくらいですけど》
「先生、質問です」
そうピクシーさんに言うと、《はいショウくんどうぞ》と、先生っぽく言った。ノリがいいですね。さすが『WF』。
「この世界の住人の平均ステータスを教えてください」
《……いい質問ですね。この世界の住人──通称NPCの平均ステータスは平民の成人で50。兵士で120程度だったと思います》
「あと、『自動』で設定をすると、ステータス10以下は出るのですか?」
《出ます》
へぇ、それじゃあ、『自動』で設定して縛りプレイっていうのもありですか……。
《……あの、なに考えているのか分かりませんがバカな事考えているのは分かりますので一つだけ忠告を。あまりふざけすぎると後で後悔しますよ?》
うん。分かってました。分かってましたよ? でも楽しそうじゃないですか……。
「あの、βのステータスって正式サービスでどれくらい引き継げるんですか?」
この質問で決めましょう。
どっちで設定をするかを。
《βで稼いだ金は半分。スキルやステータスは少し特殊な条件のものは引き継げます。というか強制ですね。またβ最後の方でイベントがありますから、そのイベントで好成績を残すとその他サービスも受けられます……という感じですね》
「わかりました……それじゃあ『自動』でお願いします」
俺がそう言うと、ピクシーさんが驚いた表情をする。
え? 悪いですか? どうせ遊ぶんでしたら、初っぱなから飛ばしていきましょうよ。
《……わかりました。それではこちらに寝ていただけますか?》
ピクシーさんがそう言うと、虚空からベッドが生まれた。
さすがVR。何でもありですね。
「そういえばこのテストは『β』と呼ばれていますけど……『α』テストもあったんですか?」
《ありましたよ? 秘密にされていましたけど、実は一般人も参加していたんです》
へぇ……αテストもやってみたかったですねぇ。
俺は寝台に寝転ぶ。
あ、案外寝心地いいですねこれ。
《ここに数秒寝ていれば設定は終了します。勿論、後から『手動』でやり直すことも出来ますのでご安心ください》
え、それじゃあさっきの会話の意味は? しかしそれを問う間もなく、その言葉を聞いた途端に俺の意識は微睡みの海に落ちた。
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──ピピッ
その音で、俺の意識は覚醒していく。
目を開けると、某地中海の国のイメージにあるような『芸術的な街並み』が広がっていた。
「凄いです……これは、本当に貰ってよかったです」
こりゃあ目も覚めますね。
俺は深い感慨に浸りながらメニュー画面を呼び出し、メニューから『map』の文字を見つけたのでポチる。
メニュー画面はチャットの時と同じように念じたらでました。
某有名デスゲームのように開くことも──あ、それも出来ましたね。さすが。
脱線はさておき『map』ですよ閲覧閲覧♪ しかしその地図は真っ黒で、この街の名前すら載っていなかったのです。
わかるのは自分の向いてる方角と、俺の周辺は一本道になってることくらいですかね?
……もしかして、街の人に聞けって事ですかね?
俺はそうなのかもと思い、街を歩く。
あ、地図開いたままだった……おぉ? 少し歩くと、地図は歩いた場所が明るくなる。
「なるほど、マッピングしながら歩くんですね」
あまりそういうゲームはやってないんですよねぇ。やっててグリムエ○ーズくらいですかね? 他はやってても友人とですし、俺は敵倒す役ですし……。
「まあ初心者ですから、のんびりやりましょう」
色々とゲームはやっていますが、実はVRゲームはこれが始めてだったり。だから操作も覚束ないくらいの初心者でかつ、残念なことにこの街の名前も分からないのだ。
とりあえずマッピングを楽しみましょうか。