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ふぁみふぁみ!  作者:
8/20

No.8 悪戯

「つまり、勧誘か」


俺が口を挟むと、リィズランは軽く頷いた。


「というか監視下に置きたいらしいよ。悪魔の存在ってただでさえ脅威だから。まあ、はなから人間にとって脅威になりそうな存在だったら、これが勧誘じゃなくて駆除になるんだけど」


そして、クラリッサをちらりと見やると、微笑みながら肩をすくめ


「あまりにも無害過ぎて、そんな心配要らなそうだしね」


と言った。


「監視に駆除……と来たか」


猛獣かなんかか俺らは。


「監視って言っても、大した事はしないわよ。ヴィランティアラ内で暮らして貰うとか、ヴィランティアラに入学して貰うとかその程度。最低限の規範に従って貰えれば、出入りも自由に出来るし」


「じゃあ、引っ越し?」


皿を洗い終わったクラリッサが、テーブルに座り直しながら聞いた。


「嫌か?」


「…………ん」


ややあって、クラリッサが頷く。


「まあ、そこら辺は私が決める事じゃないわ」


そう言ってリィズランは、テーブルを勢いよく立ち上がった。

そして、たんたんと足を踏み鳴らしながら、部屋の隅で未だに気絶しているネズミの方に駆けていく。


そしてそのまま……



思いっきり、ネズミを踏みつけた。



「にぎゃああああああっ!」


「おっきろー!」


「ぎゃあああああああ!」


起きてる、絶対起きてるってそれ。


「リッツ起きた?」


軽く30秒は踏んでいただろうか。リィズランはようやくネズミを解放した。


「う……うん……に、二度と覚めない眠りにつくとこだったけど……」


ネズミは、ピクピクと体を痙攣させながら、恨みがましくリィズランを睨んでいる。


「紹介するわ、フェランアイビーのリッツ。私の相棒よ」


リィズランは、全く気にする様子もなく、リッツの尻尾を摘み、ぷらぷらと吊り下げた。


「……相棒……」


「その相棒の姿に、疑問は無いのかお前……」


「無いわ」


言い切るな。


リッツの方は、もう諦めているのか、涙を逆さに流しながら、何やら悟ったような表情を浮かべている。


…………


……不憫過ぎる


「じゃあリッツ」


「うう……解ったよ」


「深遠たる闇の底の底に鎮まりしモノよ、我が呼びかけに応え組成せよ。フェランアイビーリッツ」


リィズランの詠唱に合わせて、リッツが口を床に向けて大きく開く。


「『開門』」


そしてリィズランのかけ声と共に、リッツの口の先から魔法陣が現れた。


「はい、通信機出してー!」


「わっ、わっ、ちょ、やめ、って、は、吐くっ、吐くって」


リィズランが、乱暴にリッツの体を振る、リッツは目を回しながら抗議するが、リィズランはまるで聞こえてないみたいに反応しない。


「あっ、あったけど……うっ、もう、だ、め……えぼっ」


限界を迎えたリッツの魔法陣から、何かが吐き出される。

魔法陣から吐き出された『それ』は床を跳ねて、リィズランの足元に転がった。


「これこれ」


リィズランはリッツをぽっほりだして、足元の何かを拾い上げた。


「……リィズの……お、鬼……」


ソファーに墜落したリッツが、何やら呟いてるが、リィズランはやはりノーリアクション。床にしゃがみこむと、先ほどの道具をいじり始めた。

……労いの言葉一つ無いとは、ここまで来るといっそ清々しいな……


「……大丈夫?」


クラリッサがソファーに駆け寄り、リッツに声をかける。


「う、うん……大……丈夫……って……ちょっ……止め、て……」


しかし、介抱するかと思いきや、何故かリッツをつつき始めるクラリッサ。

単にリッツに興味があっただけらしい。

コイツはコイツで身勝手な奴だ。


「いや、ちょっ……くすぐっ……止めっ……死ぬ、本気でっ、死ぬっ!」


正に踏んだり蹴ったりという奴だろうか。

言葉通り、本気で死んでしまわない事を祈るばかりである。






「準備出来たわよー!ちょっとあんたらこっち来なさーい!」


床で何かをいじっていたリィズランが、声を上げながら手招きしている。


クラリッサは、へとへとになったリッツを頭の上に乗せると、リィズランの方へと歩いていった。

それについて行く形で、俺もリィズランの方へと向かう。


リィズランの足下には、何か装置のようなものが仕掛けられていた。

見ると、装置の中央には転移陣が描かれているようだ。

『通信機』と言っていたが、その名の通り、交信装置の一種なのだろう。魔界にもこういう趣の装置はあるが、人間界のは、それより一回りは小さい。


「じゃあ今から、お師匠様と通信を取るわよ」


リィズランはそう言うと、装置の端にある押しボタンを押した。

すると、装置から光が伸びて、空中に像を結ぶ。


空中に浮かび上がったのは、部屋の中のようだった。

中央には、大きな黒塗りの机。

その奥は一面が窓になっていて、雄大な朝の景色が広がっている。


「どこだここ?」


「さっき話したお師匠様の部屋よ。何時もはお師匠が居るんだけど……困ったわね、お師匠様居ないみた……」


「ばあ!」


「ぎゃあ!」


突然、画面の端から、巨大な顔が現れる。


思わず俺は、画面からばっと飛び退いた。

リィズランは床に尻餅をついている。

反応が無いのはクラリッサだけだ。

画面の端から現れた人物は俺らの反応を楽しんでいるのか、ケラケラと笑いながら


「驚いた?驚いた?」


などと言ってくる。

良い歳こいた大人の格好してる癖に、ガキかコイツは!


「当たり前だ!」


「お、お師匠様〜!」


「……おどろいた」


三者三様の言葉が出る。

その言葉を聞いて、画面の女は満足げに笑んだ。


「いやぁ、やっぱ反応が新鮮なのってたまんないわぁ!」


……ムカつく。


今ここにこの女が居れば、間違いなく火炎弾の一つでも浴びせているところだ。


しかし虚像ではそれも出来ない。


「おい、このクソ女がお前の師匠か?」


「……うん」


リィズランは恥ずかしそうに俯きながら、小さな声で肯定する。


「俺が言うのも何だが……上司は選んだ方が良いぞ」


「……うん……ちょっと後悔してるわ……」


未だに、画面の向こうでは、リィズランの『お師匠様』が、ケタケタと腹を抱えて笑っていたのだった。

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