No.7 リィズランの回想
「いや、俺はお前の話なんぞこれっぽっちも興味無いんだ……」
「私のお師匠様の名前は、エルヴィラ=ビショップ、魔法学園『ヴィランティアラ』の学園長なのよ」
是非もなかった、俺の抗議はそこらへんを漂うチリの如く無視され、半ば強引にリィズランの話は始まった。
しかも追い討ちをかけるように
「魔法学園?」
と、クラリッサも興味を持ってしまったものだから堪らない。
「ふふん、知りたい?」
鼻を鳴らせて、満足げに微笑むリィズラン。
「……はぁ」
俺も諦めて、リィズランの話を聞くことにした。
◇◆◇◆◇
魔法学園ヴィランティアラっていうのは、『虚空の白夜』って言われている時空の狭間にそびえ立っている、高い塔の事なの。
元々は一つの城塞都市だったらしいんだけど、それが魔法の力で塔に姿が変わったものだって言われているわ。
私のお師匠様は、言わばヴィランティアラの最高権力者で、沢山の弟子を持って、塔のあらゆる管理を一手に引き受けてるのよ。
普段の生活態度はあれなんだけど、とっても凄いんだから。
私はその沢山居る弟子の内の一人。といっても、まだまだ新米なんだけどね。
で、昨日の夜の事よ。私は、お師匠様に呼ばれて、塔の最上階に行ったの。
そうね……確か、夜中の10時過ぎ頃だった筈。
お師匠様は、溜めに溜めた書類の山と格闘中で、私が入って来ても、顔も上げなかった。
だけど、どうやら気がついてはいたらしくて、書類に目を走らせながら話し始めたの。
「リィズラン。あのさ、もう知っては居ると思うけど、東の方に悪魔が召喚されたらしいじゃない?」
私は、正直全く解んなかったんだけどね、一応『はい、らしいですね』って適当に相槌打った訳よ。
そしたらお師匠様、いきなり。
「じゃあリィズラン、今からちょっとその悪魔の様子見てきてよ」
とか言い出すの。
普通、悪魔が召喚された場合の対応ってのは、もっと上の位の人の仕事で、私のような新米の仕事じゃない訳。
でも、お師匠様が言うには……
「ほら、今入学が近づいて来てるじゃない?そのおかげでみんな出払っちゃっててさぁ、空飛べる魔法使いが全然足んない位なのよ」
との事で、私がやるしかないって言うのよ。
勿論私だってさ、最初はごねたし、いやだって喚いたし、猛烈に抗議したんだけどさ、お師匠様にそんな事言っても、大抵屁の突っ張りにもならないの。
「いやいや、大丈夫だって、別に戦えって言ってる訳じゃないんだし。悪魔召喚時の対応は解ってるでしょ?」
とか言って、全く私の言うことなんて全然聞いてもくれない訳ね。
しかも……
「そもそも、この悪魔かなり強そうだし、多分誰が行ってもおんなじよ。もし、戦いになったら……ベテランの魔法使いでも、羽虫同然に潰されておしまいだから……ね?」
とか言ってにっこり笑うのよ!
信じられる!?
ああ、今思い出しても若干腹が立つわ!
私のような新米に、そんなの相手にして来いって言うんだから、全く信じられない!
けど、お師匠様って『そういう人』でね……無理やり同然に旅支度させられて、ヴィランティアラから放り出されたの。
んで、四時間位かけてここにたどり着いて、空から悪魔を眺めてたんだけど……
◇◆◇◆◇
「結局俺に見つかって、撃墜された……と」
「うう、その通りよ」
がっくりと肩を落とすリィズラン。
どうりで……気配の消し方はなってないし、隙だらけ過ぎると思っていたが、素人同然だったのか。
こんなのを送り込んで来るなんて、エルヴィラとか言う奴は馬鹿なんだろうか。
リィズランの話を聞く限りでは、どうやらそいつもマトモでは無いらしいが……
「で……結局何を偵察しに来たの?」
空になった皿を台所で洗いながら、クラリッサが質問をした。
…………
ん?
何かとんでもない事態が起きてた気がするのだが……気のせいだろうか?
クラリッサの質問に、リィズランは頷くと、俺の方を向いた。
「一つ目は、悪魔召喚の目的の見極め。悪魔を召喚した目的が、人間にとって不利益となったり、大事件に発展したりしないかどうかを調べるの」
だろうとは思ったが、やっぱりか……
「一つ目?」
「うん、悪魔との接触を図る目的はもう一つあるの」
そこまで言って、リィズランはくるりと後ろを振り返った。その視線の先には、皿を洗うクラリッサが居る。
「そのもう一つの目的は、悪魔を召喚した人物に、ヴィランティアラに所属して貰う為よ」
クラリッサを見据えながら……
リィズランははっきりとそう言ったのだった。