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ふぁみふぁみ!  作者:
6/20

No.6 ブレックファーストパーティー

「……あ、おはよう」


「ああ、おはよう」


東の空が白み始めた頃、リビングにクラリッサが降りてきた。随分と早い起床だな。まあ、殆ど寝てない俺の台詞じゃないが。


「朝ご飯、何食べる?」


「ん?何でも構わん。マスターの望むがままに」


「んー……」


台所に立ったクラリッサは、ごそごそと棚や床に置いてある箱を調べ、食材を集めていく。しばらくすると、食材を切り刻む音や、パチパチと油が跳ねる音が聞こえてきた。


こういう風景を見せられると、改めてクラリッサが独り暮らしをしているんだなと思い知らされる。


魔界でも、クラリッサの歳になれば親の手を借りないで生活する事自体は当たり前だ。

しかし、多くの悪魔は、誰かに従ったり、また誰かを従えて生きる。

クラリッサのように、身のまわりの事をすべて独りで出来る存在は、魔界では逆に珍しいものだ。


「出来た」


しばらくするとクラリッサが、平たいパンの上に、サラダと小さな卵を焼いたものを乗せた料理を持ってきた。

しかも、やたら数が多い。デカい皿の上に、二十は乗っているだろうか。一つ一つも意外に大きく、握り拳程もある。

朝食とは思えない程の量だ。


「またえらく作ったな」


「食べよ」


テーブルに料理を起き、向かいの席の前を手で叩く。

言われるがまま向かいの席に座ると、食事が始まった。


「これをかけて食べるの」


皿の端に盛ってあるソースのようなものを指差す。

ソースを塗って食べて見ると、酸味が効いていて確かに良く合う。ドレッシングの代わりのようなものらしい。


「旨いな」


「うん、美味しいよね」


自画自賛かい。

クラリッサは、また一口食べ終えると、満足そうに頷いた。


「……うん、本当に美味しい」


「そーかい」


1枚目を食べ終えた俺は、2枚目に取りかかる。

それを見たクラリッサも、競うように2枚目を手に取った。


「ふぉえふぇは」


2枚目を口に入れながら、クラリッサが何かを話し始める。


「飲み込んでから喋れ。意味が解らん」


クラリッサは俺の言葉に頷くと、しばらく口をもごもごと動かしていたが、効率を重視したのか、傍らのミルクで強引にパンを流し込んだ。

そして一息。


「それでさ……」


「何だ?」


「何あれ?」


クラリッサは、パンを口に運びながら、リビングの一角を指差す。


その指の先には、先日の深夜に俺を覗いていたふてぶてしい少女と、もさもさ尻尾のネズミが、目を回して気絶している。


今更だな。


言わなかった俺も俺だが、今の今までスルーしていたクラリッサもなかなかのタマである。

何か聞かれると思っていたが、普通に朝食が始まってしまったので、俺もすっかり失念してしまっていた。


「ああ、ありゃ覗き魔だ」


「ふぇー」


『へー』と言ったのだろう。パンを咀嚼しながら、クラリッサが相槌を打つ。


…………


今の説明で解ったんだろうか、本当に。


「う、うーん……」


二枚目を食べ終え、三枚目に取りかかった頃、少女の方が起きた。


「お、起きたな」


「ふぉはほ」


俺とクラリッサは、大して慌てもせず、パンを食べながら少女を見物した。


少女は、肩まで伸びた金色の髪を寝癖でボサボサにしながら、ボーっと佇んでいる。半開きになった青い瞳からは、昨日の活発なイメージは欠片も感じられなかった。


「ふぁ〜……こころこぉ〜……?」


呑気なもので、寝ぼけ眼を擦りながら辺りを見回している少女。

まだ、頭が回りきっていないらしく、隙だらけである。


ああ、起きてても隙だらけだったな、そう言えば。


「ふあぁー……ああ、良い臭〜い」


少女は盛大な欠伸をさながら立ち上がり、ふらふらとこちらへ近づいていく。


「食べる?」


クラリッサが、ご丁寧にもソースをかけてやったパンを差し出す。


「うん、食べるー」


少女も当たり前のようにパンを受け取ると、さくさくと食べ始めた。


……何だこの状況?


「美味しー」


「ミルクも飲む?」


「飲むー」


少女はテーブルに腰掛け、クラリッサが注いだミルクを受け取る。


そして、ごくごくとミルクを飲んだ所で……


ようやく覚醒したらしい。


「あああああああっ!!!」


勢い良くテーブルを立ち上がり、俺を指差す少女。


「あああんたっ!悪魔っ!」


「何だ?」


「何だじゃないわよ!忘れたとは言わさないわよ!私の事バチバチズゴーンってやった癖に!」


「隙だらけで談笑してるお前が悪い」


「むきぃーーーっ!!!」


「むぐむぐ」


「大体、空から人の事覗き見しといて、撃退されたら逆ギレか?」


「むっ!あ……あれはその……」


俺の言葉に、若干狼狽した様子を見せる。


「どうせ悪魔が召喚されたってんで、偵察に来たんだろ?」


「……うっ、うう……」


「んで、偵察中に偵察対象にバレてやられたんだから、完全にお前のせいだろ」


少女の顔がみるみる赤くなる。

図星か。わかりやすい奴。


「うるさいうるさーーーい!」


「むぐむぐ」


「むがーーーっ!」


少女は、どんと席に座り直すと、何故かまたパンを食べ始めた。

俺と少女が言い争ってる間中、平然とパンを食べ続けてたクラリッサといい、コイツ等の行動はどうも解らん。人間の子供ってのは、こんなどこか頭の栓が外れたような奴らばかりなんだろうか?


人間界もなかなかに恐ろしい世界である。


「で、覗き魔さん」


四枚目を食べ終えたクラリッサが、少女に話しかける。


「リィズラン!」


ミルクを一息で飲み干した少女が吠える。どうやらリィズランと言うらしい。


「リィズラン、何で家覗いてたの?」


おいおい、偵察ってんだから、そんな簡単に情報言うわけないだろ。もしこんな簡単に吐く奴がいたら、ただの馬鹿だ。


「お師匠様に言われたからよ」


何故か胸を張るリィズラン。

馬鹿だったか……


「ふーん」


解ったのか解ってないのか、何故かクラリッサはそれ以上聞こうとせずに、五枚目に取りかかる。

しかしよく食うな、コイツ。


「え?何?ここって『何のために?』とか『お師匠様って?』とかって、質問が続く所じゃない?」


困惑したように、キョロキョロと首を振るリィズラン。

言ってる事は全くその通りだが、クラリッサにそういう常識は通用しそうも無い。


「んぐ?」


クラリッサは『そうかな?』といった風に、首を傾げる。どうやら本当に、質問する気が無いらしい。


「ああ、なんか調子狂うー!」


そういう意味では、お前も良い勝負だと思うが。

俺も無視して、水をコップに注いだ。


「もういいわ!悪魔、あんたが聞け!」


「おれかよ……」


とんだとばっちりである。

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