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ふぁみふぁみ!  作者:
5/20

No.5 夜空に浮かぶ影

「はい、出来た」


 ベッドの支度を終えた(あるじ)、クラリッサが、枕をぽんぽんと叩いている。


「ん? ここで寝ろって事か」


「うん」


「……分かった」


 用意されたベッドに腰掛ける。

 クラリッサは、それを見届けると、部屋から出て行こうとした。

 しかし、ドアを開けた所で、何かに気づいたように、急に振り返る。


「……羽、大丈夫?」


 どうやら、俺の羽が寝るときに邪魔にならないかが心配らしい。

 俺は、少し笑ってから、羽を閉じた。閉じた羽は、背中に刻まれた入れ墨の中に、スッと消えていく。

 それと同時に、俺の髪と目も、魔力の流れが止まり、黒く変色していったハズだ。


 クラリッサは、俺の変化に少し驚いた様子を見せたが、すぐに平常心に戻ると『そっちの方が良いね』と言って、ドアを閉めようとした。


 が、またしても閉まる直前でドアが開き、クラリッサがひょっこり顔を出した。

 やれやれ、まだ何かあるのか?


「忘れてた……」


 あまり抑揚の無いクラリッサの顔が、少しだけ綻ぶ。

 そして、手をひらひらをふりながら、こう言った。


「お休みセシリア。また明日ね」


 やれやれ……


 俺も、答えるように右手を上げる。


「ああ、お休みマスター」


 クラリッサは、こくんと一回頷くと、今度こそ本当にドアを閉めた、部屋の中が暗くなり、夜の静寂に包まれる。

 窓の外では、二つの月が、寄り添うように輝いていた。


「家族……か……」


 こうして、俺とクラリッサの『家族』生活は、幕を上げのだった。






 この頃の俺は、まだ気が付いていなかった。


 クラリッサの魂が尽きるまで間、家族の振りをしてやるだけ。そう、高を括っていた。


 しかし、俺を取り巻く環境は、もっとずっと深く強く、俺を縛り付けていたのだが……

 その事に俺が気が付くのは、まだずっと、先の事である。



◇◆◇◆◇



 数時間後……


 セシリアもクラリッサもすっかり寝てしまい、銀鳩堂が穏やかな静けさに包まれ始めた頃、それを上空から見ている影があった。


 影は、光の粒を放ちながら宙に浮く箒に、器用に片足で乗りながら、セシリアを眺めている。


「うおぉ……ほんとーに悪魔じゃん」


 声からして、影は女性のようである、しかも、その喋り方と相まってか、かなり幼い印象を受ける。


 そして、その声に反応するように、彼女の肩にある影の塊が、もぞもぞと動き出した。

 どうやら、ネズミのような生物らしく、その体はとても小さい。しかし、ふさふさとした大きな尻尾があり、ただのネズミではないようだった。


「当たり前だよリィズ。エルーさんが間違えると思う?」


 驚いた事に、そのネズミは流暢に言葉を話す。

 しかし少女に驚いた様子は見受けられない。

 どうやらそのネズミが人間の言葉を話すのは『そういうもの』であるらしかった。


「思わないけどさぁ、見てよこの店」


 少女は口を尖らせながら、銀鳩堂を指差した。


「本屋みたいだね」


「そう、本屋よ? こんな所で悪魔が召喚されたなんて言われて、普通信じられると思う?」


「……思わないね」


少女の言葉に、思わず納得してしまったネズミが唸る。


「でしょ? 普通さ、古城とか、廃墟とか、そういう『如何にも』な場所でするもんでしょ、悪魔召喚なんてさ。」


「だね、考えて見れば、召喚した悪魔が召喚した場所で呑気に寝てるってのもおかしな話だし」


 調子に乗り始める2人、もとい、1人と1匹。


「だよねー! 大体、わざわざ悪魔召喚してまで、本屋の人間が何を願うってんのよ?」


「そうそう、悪魔も何かしてる様子は無いし、一体こんな所で何やってんだよって感じ」


「何って……『家族』だよ」


「ん? 家族? それってどういう事?」


 言葉の意味が解らず、首を傾げる少女、ネズミも同じような思いらしく、考え込んでいる。


「主の願いが『家族になってくれ』って事でな。それで家族になったんだよ」


「へー」


「大層な悪魔召喚してまで、そんな願い事な訳?」


「随分としょうもないね」


「違いねぇ」


「はっはっはっ」


 夜空の中で、『三つ』の影が顔を合わせて笑いあう。


 そして……


青の雷槍(デルタスパーク)!」


「ぎゃああああああっ!」


 セシリアの放った雷が、1人と1匹の体を貫いたのだった。

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