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ふぁみふぁみ!  作者:
19/20

No.19 班長決定

「それは無い!」


「間違いなく暴挙!」


「絶対無理!」


「お!? なんだいきなり?」


 突如として提案された『クラリッサ班長案』に、俺とリッツとリィズランは異を唱えた。

 彼女を知る人間ならば、それも当然の事だろう。なにせクラリッサは、班長どころか、自分の事さえマトモに出来ているかも怪しいのだ。


 他人を纏める側よりは、他人に迷惑をかける側の人間であることに、疑いの余地は無い。


「人望無いわねクラリッサ……」


「人望とかじゃなくて、ほら、見なさい」


 リィズランがクラリッサを指差す。

 そのクラリッサは、窓の外をぼけーっと眺めている。

 一体何を考えているのか、全くこちらの話に加わるつもりは無いようだ。


「あの顔は今、晩飯の食材考えてる途中よ! 絶対!」


 机をばんばんと叩きながら、猛烈な勢いでそう主張するリィズラン。


 確かに、あれは何か別の事を考えてる顔だよな……


 まあ、話題の渦中に居る当人が、呑気に窓を外を眺めてる時点で、既に無いと言えば無い。

 殆ど貶されてるような状態である今ですら、聞こえているのかいないのか、全く反応を見せようとしない時点で、リーダーシップのかけらも感じられないのが正直な所だ。


「そうなの?クラリッサ」


「ん? 何が?」


「…………今何考えてる?」


「…………鳥か牛か?」


 正解かよ。


「…………そう……ありがとう」


「そら見たことか! 解ってしまう自分が悲しいわ!」


 大きく頭を振るリィズラン。その気持ちは良く解る。


「まあとにかく、班長ってのは止めた方が良いって事だ。フォローどころか、俺には、まずマスターの奇行を抑えきれる自信が無いぞ」


「僕も無い!」


「当然私も無い!」


「自信満々に言うこと?」


 セアが呆れたようにそう言うが、実際そうなのだから仕方ない。只でさえ人の話を聞かない上に、その行動を把握する事さえ難しく、考えてる事もイマイチ解らない。

 しかも今では、従順なドラゴンまでついているのだから始末に負えない。

 例えるなら、ブレーキのついてない汽車に、大量の石炭がくべられているような状態である。正に暴走特急。

 大講堂に突っ込んだ事例が、その事実を端的に証明していると言えるだろう。

 そんな彼女の事だ、班長なんて絶対に出来る訳がない。


「じゃあ、リィズランがやったらどうだ?」


 そう、ディルクが提案する。が、それを聞いたリッツが机の上で笑い出した。


「ははは! リィズはダメダメ! 権力与えると……ぷぎゅ!」


 軽口を叩くリッツの上に、リィズランの握り拳が炸裂する。


「……こうなるから……」


 …………不憫……っ!


 リッツはリィズランの手にぶち当たり、くんにゃりと潰れている。

 タフなリッツの事だから大丈夫だろうが、普通のネズミなら死んでる所だ。


「まあどの道、私もやるつもり無いわよ。冗談じゃないわ。けど、クラリッサに班長なんてまともにやれる訳が無いじゃない」


 全く同感である。


「まあ、俺は自分以外なら誰でも良いんだが……」


「同じく」


「同意見ね」


「だからってクラリッサなんかに班長任せたら、何が起きるか解らな……」


「あ、あの……」


 リィズランの主張の途中で、手が上がる。

 上げたのは、今の今まで、おどおどと成り行きを見守っていたクレオスだ。


「何よクレオス?」


「い、いや……ちょっと気がついたんだけどさ、班員の失敗とかって、班長の責任になるのかなぁ~って……」


 目線を泳がせながら、探り探りといった感じで話すクレオス。


「うーん、全部って訳じゃ無いけど、まあ指揮する人だしね。それなりには責任は追求されるよ」


 リッツが、クレオスの質問に答える。


「でさ、クラリッサは、制御出来る人が居ないんだよね……?」


「ん、まあそうだな」


「じゃあ、むしろさ……」


 クレオスがそこで言葉を止める。

 そして、若干緊張した面持ちで、班員全員を見渡しながら、口を開いた。


「彼女、班員に居た方が……ヤバくない?」


 ………………


 ………………


 ……………………


『全くその通り……っ!』




 数分後、クラリッサを除く満場一致で、班長は決定した。




 ◇◆◇◆◇



「はい、ブルー13班の班長は、学生番号288-3125、クラリッサ様ですね。確かに登録しました」


 テーブルの向こうでニコニコと営業スマイルを浮かべている受付の女性が頭を下げる。

 ここは、入学式があった育成区間一区の更に上にある、管理区画にある事務所だ。班長がクラリッサに決まり、その方向が今終了したという訳だ。


「では、皆様にはこちらをお渡しします、お好きな色をお選び下さい」


 そう言って、受付は机の下から、袋を一つ取り出した。受付は袋を開き、一つ一つ、中身を机に並べていく。

 それは、手の平にちょうど収まるくらいのサイズの、細長い菱形の形をした魔法石だった。色は、左から黒、白、紫、青、水色、赤の六色。


「もう知っている方もいると思いますが、これは魔法石というものです。今後、ヴィランティアラでの生活に絶対に必要なものになっていますので、紛失には十分お気を付け下さい」


「はーい」


「解りました」


 元気よく返事をしながら、思い思いの色を手に取る。上手くそれぞれが全く別の色を選んだ。

 黒がディルク、白がクレオス、紫がフィネ、青がセア、赤がリィズラン。そして最後に残った水色がクラリッサだ。


「これにて本日のカリキュラムは全て終了となります。皆様、お疲れ様でした。今日より10日間は休みとなっており、授業開始は天の月21日となっております」


 机の上に備え付けられたカレンダーを指差しながら、日程を説明する受付。

 六人も、顔を寄せあいながら、カレンダーを見つめている。


「休み期間中解らない事がございましたら、これからあなた方の事務担当となります、私、イリス=レイルをお呼び下さい。ここにある名簿の呼び出しボタンを押して下されば、直ぐに駆けつけます」


 そう言いながら、にっこりと笑う受付イリス。

 ここでは、班毎に担当する受付が違うのか……


「では改めまして、ようこそヴィランティアラに。あなた方の学園生活が、実り多きものにならん事を祈ります」


 そう言いながら、頭を下げるイリス。そして、そのまま幻のように消えてしまう。


「あ? う、うん?」


「き、消えた!?」


「そういう奴らなのよ。その内慣れるわ」


「ちょっ! リィズ、入れ方乱暴過ぎ! 混ざる! 中味混ざる!」


 ディルクなんかは驚いたようだが、リィズランはもう慣れっこのようだ。大した感慨もなさげに、リッツの口に魔法石を押し込んでいる。


「ま、何にせよこれでようやく解散って訳だね」


 セアが大きく伸びをした。


「はあ、疲れたわ」


 眼鏡を外し、手にした布で拭きながらフィネも溜め息をつく。

 皆、今日はそれなりに疲れが溜まっているようだ。


「あんたらなんかまだ良いわよ。私らなんかこれから地下に戻らないといけないのよ」


 そう言いながら、フィネの背中を叩くリィズラン。

 そういえばまだ銀鳩堂は地下の水の樹海にあるんだったな……やれやれ。


「今日はチキンカレーだよ」


「ああ……結局鶏肉にしたのね……まあいけど」


 …………?


 あれ、つーか何か変じゃね?

 カレーについて語り合うクラリッサとリィズランを見ていると、何故か引っかかるものを感じる。


「じゃ、帰ろ」


 リィズランとの話が一段落したのか、すたすたと、事務所の出口へ歩き出すクラリッサ。


「あ、待ちなさい。ほら悪魔、早く行かないとはぐれるわよ」


「はいはい、解ったから先行っとけ」


 クラリッサの足は速く、既に事務所を出てしまいそうになっていた。リィズランも、小走りで後を追いかけていく。


 俺もそろそろ行かなきゃ、本気で置き去りを喰らいそうだ。

 まあ、クラリッサの代わりに他の奴らに挨拶くらいしてい……


「れ?」


 既に、班員達は各々帰路についてしまったらしく、事務所の中には誰も知った顔が居ない。


 …………


 よりにもよって全員か!


「あくまぁー! 置いてくわよー!」


 入り口から、無事クラリッサの捕獲に成功したリィズランが叫んでいる。

 クラリッサは、首根っこを掴まれ、何故か丸くなっていた。


「ああ、今行く」


 誰も居ないのであれば、ここでぐずぐずしてても仕方ない。

 俺も、ゆっくりと外に向かって歩き出した。


 しかし、こんなんで本当にやってけるのかね……


 マスターを始めとする、アクの強い班員の顔を思い浮かべると、何故か嫌な予感しかしない。


「…………ま、なるようになる……か」


 別に、死ぬような危険がある訳じゃない。結局、心配しても詮無いことだ。



 つーか……

 漸く違和感の理由がわかった。


「リィズラン、なんでお前が銀鳩堂に帰るんだよ! どうりで変だと思ったわ!」


「……は? 何よ今更」


 いや、今更って……


 なんだか知らない内に、リィズランはすっかり銀鳩堂に居着いてしまったらしい。


「セシリア、リィズラン、リッツ。帰るよ」


 クラリッサの方も、すっかりリィズランを家族の一員と受け入れてしまったようで、最早リィズランが自分の家についてくる事に、なんの疑問も抱いていないようだ。


「……なるようになる……のか? 本当に……」


 フリーダム過ぎる2人を見ながら、俺はただただ、脱力する事しか出来なかったのだった……




 ◇◆◇◆◇



【オマケ】



「………………は?」


 銀鳩堂に帰って来て、数時間。

 クラリッサに呼び出されてリビングに降りた俺は、そこに広がっている光景に唖然とした。


「う~、おいしっ!」


「クラリッサの料理って不思議と美味しいんだよね。作り方ちょっとヤバいくらい適当なのに」


「美味けりゃなんでも良いじゃない」


「私はシチューの方が好きなんだけどね……」


「こら、食べながら本読まないの」


「ちょっ、今良いとこなのよ! 返しなさい!」


「あ、セシリアさん。お、お邪魔してます……」


「あ、つのおとこだー! カレーなくなるよー」


「おお、セシリア。何突っ立ってんだ?」


「何呆けてんのよ」


「おかわりまだあるからね」


「あ、要る!」


「あ、俺も俺も」


「私も頂戴」


「リィズあんまり食べると太ぐぺっ!」


 ………………


 !?


「何で居るんだよお前ら!」


 リィズランだけでは無い。何故か、他の四人の班員とその使い魔も銀鳩堂に居て、仲良くカレーを食べている。

 何これ!? どういう状況!?


「晩飯がカレーだと伺いまして!」


「沢山あると聞きまして!」


「同じく!」


「なんかごめんなさい……」


「…………」


 『いつそんな事聞いたんだよ』とか『どうやってここまで来たんだ』とか、色々言いたい事はあるが、もう言葉にならない。


「も、勝手にしてくれ……」


 ……


 …………


 ………………


 やっぱりこいつら……フリーダム過ぎる……

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