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ふぁみふぁみ!  作者:
14/20

No.14 ドラゴン対……

ドラゴンは、俺達を代わる代わる見渡しながら、しばらく制止していた。


「……じょ……冗談でしょ……」


リィズランは、予想を超えた出来事に混乱しているようだ。

まあ、それも無理は無い。

普通こんな巨大な生き物に迫られたら、誰だって狼狽するのが当たり前だ。


だから必然的に、まるで見物でもするかのようにドラゴンを見つめ、あまつさえ『おー』などと平然と感嘆しているクラリッサの反応は、絶対におかしい。


「おい、逃げるぞ二人とも!」


檄を飛ばす。

リィズランがハッとしたように俺を見、ややあって頷いた。


「リッツ!」


リィズランが呼び掛けると、リッツも彼女の肩に飛び乗る。

俺もクラリッサの襟元を掴み……



居ない!



俺の手は虚しく宙を切った、何故か、クラリッサは今居た場所から消えている。


「ちょっ!」


慌てて辺りを見渡すが、見つからない。


そうやってモタモタしていたのがいけなかった。

先に行動に出たのは、ドラゴンだ。


ギュンと、流れるように体をしならせ、口を開けて俺達の居る川岸に向かってくる。


「ちいっ!」


体中の魔力を解放する、目に映る前髪が白く輝いた。

そのまま、右手を前に開き、構える。


風雅壁ブリーズウォール!」


風の障壁を張るが、ドラゴン相手では屁の突っ張りにもならない。

一秒と持たずに風の防壁は決壊する。


しかし、その一瞬が重要だった。


連魔ラン!」


韋駄天ソニックハイ!」


間髪入れずに呪文を詠唱する。


ドラゴンが障壁を破壊した瞬間、同じ障壁が同じ場所に蘇る。

障壁を破壊する為に崩れた体勢の隙を付いて、スピードアップの魔法をかけた足で、一気に駆ける。


回り込みながら、ドラゴンの頭の上に飛び上がり、思いっきり蹴り込みジャンプする。

ドラゴンの背後を取り、空中という、有利な位置に陣取った。


まだ敵がこちらの位置に気がついてない今がチャンスだ。

右手を翳し、詠唱する。


「世の果てを流る赤熱の乱風、刃となりて敵を襲い打ち払え、嵐火葬フラムラッシュ!」


しかし、翳した右手からは魔法が出なかった。


「……あれ?」


降っても揺すっても出ない。


嫌な予感がする。

腰に差してあるウィナケアを抜き取り、眺める。


赤色に光っていた。


「ま……まさか……」


ウィナケアを手のひらでくるくると回し、頭の上で構え、一気に振り下ろす。

刃に風が巻きついて、炎を纏いながらドラゴンへと放たれた。


どういう仕組みか、ウィナケアを媒体としないと攻撃魔法は放てなくなっているらしい。


しかも、やはりと言うべきなのだろうが、俺の魔法の威力は驚く程弱まっている。

ドラゴンを押しつぶし、地面が割れる程の勢いで放った筈だったのが、ただの突風ぐらいになってしまっていた。


嵐火葬は、ひょろひょろとドラゴンの背中に当たると、ウロコ一つすら傷つける事なくかき消えた。


「……うおーーーい!」


いくらなんでもしょぼすぎるだろこれ!


しかも最悪な事に、今の一撃でドラゴンもこちらに気がついたらしい。


こちらを見上げながら、尾を振り、地面を叩きつける。空から見ても解るくらいはっきりと地面が揺れ、周辺の川の水が跳ねる。


そのひと粒ひと粒が丸く固まったかと思うと、更にドラゴンが大きく尾を一振り。空中を漂う水の粒が、弾丸となって押し寄せて来た。


「ちっ!晶球壁グローブフィールド!」


避けきれないと判断した俺は、無駄だろうとは分かっていたが、晶球壁を展開する。

更に、晶球壁を重ねがけしようとしたその時、隣から大声が聞こえた。


「悪魔、そのシールド外せー!」


リィズランの声だ。

とっさの事で判断がつかない、言われるがまま、晶球壁を解除する。


「解除しげふっ!!」


次の瞬間、強烈な衝撃が、先ほどリィズランから肘当てを喰らった脇腹に直撃した。

ものすごい勢いで、箒に乗ったリィズランが突撃して来たのだ。


箒のスピードで、一気に水の弾丸の射程圏から離脱する。


「ふっ!がはっ!ぐっ!」


しかし、痛みと衝撃で、息が止まりそうだ。もしかしたら、普通にあの水の弾丸を凌いだ方がマシだったかも知れない。


「よし、なんとか助かったわね。感謝しなさいよ悪魔」


リィズランは、人の苦しみなどお構いなしで、鼻を高くしている。


「……助けるなら……はぁ……もうちょっとマシな助けかた……しろよ!」


「はぁ?助けて貰っておいて何よその言い種!」


俺の言葉に激昂したのか、リィズランも息巻く。


「助け方を考えろって言ってんだよ!余計ダメージ喰らったじゃねえか!」


「あの状況でそこまで考えられる訳無いでしょ!」


「………………」


「………………」


売り言葉に買い言葉で、空中で睨み合う俺とリィズラン、ドラゴンの事なんかそっちのけで喧嘩になりかけたその時、リィズランの肩に止まったリッツが騒ぎ出した。


「ね、ねぇリィズラン!ど、ドラゴン!ドラゴンが……」


「はぁ!?ドラゴンが何よ……」


リッツに促され、リィズランがドラゴンの方に向き直る。

つられるように俺も、ドラゴンの方に目を向けた。


「……えっ……」


「……はぁ?」


その先に広がっていた光景に、二人揃って絶句する。


地に伏せられ横たわるドラゴン。そしてその上に優雅に腰掛ける……


クラリッサの姿。


「クラリッサがドラゴン倒してる……」


リッツが、震える声で解説する。


「……え……」


「「ええええぇぇぇぇっ!!!?」」




◇◆◇◆◇




ブルードラゴン『アルガン』は、この水の樹海に集まる水のマナが作り出した魔法生物だ。


彼は、この水の流れそのものであり、この水の樹海すべてを守るものだった。


そのアルガンは、今、この水の樹海に現れた侵入者を相手に戦っていた。


最初の標的、突撃を目に見えない壁に阻まれ、一度は見失った悪魔が、空から火炎弾のようなものを浴びせてくる。


が、肉体的ダメージはほとんど無い。

おかげで、再び目標を視界に捉える事にも成功し、アルガンは気を良くした。


『今度はこちらのばんだ』


アルガンは尾を振った。

マナを周囲にばらまき、水を支配下に置く。


水を弾丸にした魔法弾、アルガンの得意技だ。

数百、数千の水の粒が、目にも止まらぬ速さで空を駆けていく。


『捉えた』


アルガンは勝利を確信した。

悪魔が、障壁を展開し、迎え撃つ姿勢を取ったからだ。


あの悪魔が作り出す障壁の強さは身を持って確認済みだ。

水の弾丸に貫けない硬度では無い。あっという間に蜂の巣だ。


しかし、その目論見も外れる。


味方の人間が、悪魔にぶつかって弾丸の射程圏外へと逃がす。

結局水の弾丸はすべて外れ失速し、アルガンの周りに雨のように降り注いだ。


『ならば今一度!』


そう考えたアルガンが尾を掲げる。


しかし……


「何してるの?」


耳のすぐ後ろ、後頭部辺りからの声に、アルガンの動きは止まった。


「……ねえ、何してるの?」


静かで抑揚が無いが、妙な威圧感のある声。

どうやらそいつは、頭から生えた鬣にしがみついているらしい。


アルガンは、敵は三人居たことを思い出した。その内の一人が、今後ろに居る奴だろう。


『……いつの間にっ……』


頭の後ろでは、手も尾も届かないし、魔法では彼自身を傷つけてしまう恐れがある。


そういった意味では、アルガンの後頭部は急所と言えた。


『ええいっ!離れろっ!』


首を振り、鬣にしがみついている敵を振り落とそうとする。


「………………うー」


しかし、後ろのしがみついた敵は一向に離れる気配が無い。

叫ぶでも激昂するでもなく、ただ静かにアルガンに振り回されている。どうやら、この敵は、振り回されている程度では離れてはくれないらしい。


先に根負けしたのはアルガンだ。

無駄を悟った分、諦めるのも早かった。


首の動きが、急速に弱まる。


『こうなれば……』


アルガンは尾をしならせた。


多少自身もダメージを受けても、魔法でケリを付けてしまおうと考えたのだ。


しかし、敵の方が動きが早い。

鬣が急に引っ張られ、アルガンの動きが止まった。


「……おしおき」


変わらぬ、静かながら迫力のある声が後ろから聞こえる。


『おしおき……?な、何をするつもりだ!』


「いくよ」


ぐい!と鬣が思い切り引っ張られる。

数秒後、引っ張られる感覚がなくなったかと思うと、今度は別の場所が引っ張られる。


『な……何をしているっ!?や、止め……』


声にならない声を上げながら、再び首を振ろうとした時……


アルガンは理解した。自身の身に何が起きているのかを。


『きっ……貴様!鬣を……』


鬣同士がきっちりと縛られている。

頭から背中まで生えている剛毛だ、元々抜けるようなものでは無い。


そして、反り返った姿勢で制止していた状態で結びつけられているのだ。

そのせいで、首をまっすぐに伸ばそうとしたり、体の向きを変えようとする度に、鬣同士が引き合って激痛が走る。


『ふぐおぉぉっ!』


アルガンは心の中で悶絶した。

そうしている内にも、次々と鬣は結びつけられていく。


敵に容赦はなく、常にギリギリの伸びる所まで結びつけようとしてくる為、今では普通に制止しているだけでも背中が痛む。


痛みから逃れようと、更に背中をそらせると、敵もさらに遠い場所にある鬣同士を結びつける。

アルガンは、じりじりとエビぞりのような格好になり、動きを制限されていった。


最終的には、首近くの背中にある鬣と、尾の近くにある鬣同士が結びつけられてしまう所まで追い詰められていた。


『た……頼む……もう止めてぇぇぇ!』


と懇願しようとしても、発声機関を持たないアルガンに、その懇願を伝えるすべは無い。


そして、遂に姿勢を保てなくなったアルガンは轟音を立てて地に倒れ込む。


そして、地に伏せ、力無く横たわる彼の目に、人間の少女が一人、映り込んできた。


「このままで反省してなさい」


と言い放ち、アルガンの顎の部分に腰掛ける。


「もうこんな事しちゃだめだよ」


と、顎をぽんぽんと叩く。


『は……はい……』


もはや、刃向かう気力もない。


アルガンは屈服する他なかった。

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