No.12 転送
気がつけば半年以上も間が開いてました……orz
書き方忘れて放置しそうになりましたが、未だに開いてくれる人がいらっしゃるようなので、書き進めたいと思います。
メチャクチャな作者で本当に申し訳ないです。
一夜明け……
「おい、まだかよ」
「長い」
窓から顔を突き出して屋根を見上げると、屋根の上で、大仰なナリをした機械とにらみ合っているリィズランが見える。
リィズランは、この家、『銀鳩堂』を転送させる為に、昨日から家の周りに時空や座標、空間を安定させる為の諸々の装置を取り付ける作業に追われていた。
それが終わったのがおよそ二時間前。リィズランは意気揚々と『後は調整だけよ!ちょっと待ってなさい』と言っていたのだが、その『ちょっと』が今の今まで続いていた。
クラリッサも、数十分で近所への挨拶まわりを済ませてしまい、俺の横で屋根を眺めている。
リィズランも予想外に苦戦しているらしく
「うっるさぁーい!文句があるならならあんたらがやれ!死ね!」
と逆ギレして来た。『すぐ終わる』なんて言ってたのはどこの誰だよ……
「いや、俺らは良いんだけどよ……」
そういって、リィズランは見えないだろうが室内を指差す。
室内では、昨日と同じ通信機が起動しており、エルヴィラの私室と繋がっている。
向こうではエルヴィラが待機しているのだが、そのエルヴィラが限界なのだ。
「いやだぁ!もう待たないー!パフェ食いに行かせろぉ!」
などとまるで子供のように駄々をこねながら、部屋中を文字通り転がり回っている。
「パフェーーーっ!」
などと奇声を上げながら、右から左へゴロゴロと転がったり
「酒もってこーい!」
などと言いながら前転繰り返したり
「私を待たせるなー!」
などと怒り狂いながら側転したりと、せわしなく回り続けている。
ドタバタとエルヴィラが転がるたびに、ものが落ちたり割れたりする音が聞こえてくる。図体がデカいだけ、子供より質が悪いなこれ……
「暇だーっ!」
叫び声を上げながら、ブリッジで這い回るエルヴィラ。
その姿はとてもじゃないが、暇そうには見えないのだった……
十数分後
「終わったわよ!」
ようやくか……
窓の上から現れたリィズランの頭がそう告げた。
結局二時間半もかかったが、漸く作業が終わったらしい。
「何時でもいけるのか?」
クラリッサが昼飯替わりに作ったラスクを口に運びながら尋ねる。
俺の問いに、リィズランは満足げに頷いた。
「もちろん!まさか地下室まであるとは思って無かったから手間取ったけどね。後はお師匠様が転送魔法を唱えるのを待つだけよ」
「地下室?」
リィズランの言葉に、首を傾げるクラリッサ、どうやら家主のクラリッサですら、地下室の存在は知らないらしい。
「うん、調べてみたら地下室らしい空間が二、三見つか……」
「いぃぃやっほぉぉぉ−」
転送機の向こうから、奇声が上がる。言うまでもなく、声の主はエルヴィラだ。
「やぁーっとればんねぇ……おねーさんまふぃふたびちゃったぁ〜」
「…………うっわ……お師匠様酔ってる……」
エルヴィラを見たリィズランが、あからさまに嫌そうな顔をした。
その発言通り、エルヴィラは見事に酔っている。通信機の向こう側で暇を持て余し過ぎたのか、なんとどこからか持ってきたワインを飲み始めてしまったのだ。
しかも、どでかいジョッキに注いで、まるで麦酒のようにごくごくと。
しかし、どうやらエルヴィラは酒に強くは無いらしく、最初の一杯が半分ぐらいになった頃には顔が真っ赤になり、既に呂律が回らなくなっていた。
それが今では三杯も飲んでいるんだから、もう正体をうしなっている。
「酔っふぇない。れんれんよっふぇないれふよぉ〜。このわらひが!酔ふはずが無いれしょがー!ぷんぷ〜ん!」
殆ど何を言っているかも聞き取れない状況で良く言う……
「どうするんだよこれ……」
「どうするもこうするも……酔いが冷めるまで待つしか無いわね。こんな状態じゃ詠唱もできな」
「できうろー!できまふよーあたひゃ!」
嘘付け。
日常会話も危ういレベルじゃねぇか。
「ちょ!お師匠様!お願いですからやらないで下さいよ!そんな状態で転送魔法なんて使ったら、どんな大惨事になるか……」
「あーっ!その目は信じてらいらぁ!」
「信じてません!だから止め……」
リィズランの必死の制止も、悪酔いしたエルヴィラには全く無意味らしい。
エルヴィラは懐から30cm程の、どでかい宝石の付いたステッキを取り出すと、頭の上でぶんぶんと振り回し始める。
なんか……猛烈に嫌な予感がする……
「あー、言っふなぁーっ!見てろぉー!ちちんぷいぷーい」
「……ちちんぷいぷい……」
「ちちんぷいぷいって何だ!?」
「ちょ……そんないい加減な詠唱で魔法使わないで下さい!」
「知るかぁ!わふぁひはやると言ったりゃやるおんなよぉ!」
エルヴィラが上に掲げたステッキの先から光が広がり、目にも留まらぬ早さで術式が組み上がっていく。
「……こりゃもう止めるの無理だな」
「ん?引っ越し?」
俺の独り言を横で聞いていたクラリッサが、覗き込んでくる。
「まあな。まあマスターもせいぜい、次元の迷子にならないように祈ってな」
「……うん?」
クラリッサは、良く解らないといった風に顔を歪めたが、とりあえずといった感じで頷いた。
聞いても解らないと思ったのか、これ以上聞く気は無いらしい。
「ちょっと!何であんたらそんな冷静なのよ!信じらんないわね!」
お前みたいに台詞の中が『!』だらけになりたくないからな
窓の外を眺めると、最早転送が始まりつつあり、窓の外の風景が上に伸びてゆがみ始めている。
この風景がだんだんと、転送先の風景に変わっていって、空間が安定したら転送終了である。
まあもっとも、肝心の術者がこの調子では、そんな段取り通りにいくはずもない。
「ちまちまとめんどちぃ……一気にやったるぅ〜〜〜!」
と、言うなりエルヴィラは、一気に術式の処理スピードを上げてしまった。
最早ここまでくると、術式に何が書かれているかも読めない程になってしまっている。
「うわお」
「うわお、じゃなーーーい!」
思わず感嘆の声をあげると、リィズランから猛烈な勢いで突っ込まれた。まあ、事態の逼迫度を考えれば、彼女の態度の方が正しいのだから仕方ない。
しかも、家が揺れだしたのだからたまらない。リィズランは1人パニックになっている。
「ぎゃあああっ!やっぱしくってるーーーっ」
部屋中に、リィズランの悲痛な叫びが響く。
そして次の瞬間、ズドンという大きな音とともに、体が跳ね上がる程の揺れが、俺達を襲った。