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ふぁみふぁみ!  作者:
1/20

No.1 少女と悪魔が出会う時

初作品です。

しばらくコメディーぽくないし学園でて来ないと思います。すみません。


尚この小説は、一人称と三人称を使い分けて書いていきたいと思います。ご理解頂けると幸いです。


追記・1~5話まで、文頭と!?の後にスペースを入れてみました。

 真夜中、リビングに備えた大きな柱時計が、重々しく午前0時を告げた。

 その音を耳にして、作業に没頭していた少女は久しぶりに頭を上げた。

 採光の為に、特別大きく誂えた扉の向こう側で、青月(あおつき)黄月(きつき)が仲良く寄り添うように輝いている。


「綺麗……」


 誰に言うでも無くそう呟くと、少女は傍らに置いてあったマグカップを手に取った。

 中のホットミルクは、もうすっかり冷めてしまっていたが、少女は気にする風もなく、そのままそれを口に運ぶ。


 少女の名前はクラリッサ。

 ファコン村の外れにある本屋、《銀鳩堂》で一人暮らしをしている。


 彼女は、いわゆる孤児だ。

 母親は、彼女を生んですぐに、居なくなってしまったらしい。そんな事を、苦い笑いを浮かべながら話してくれた父親も、肺を患ってぽっくりと死んでしまった。


 そしてクラリッサの手元には、父親が貯めていた少しの金と、彼女一人で暮らすには大き過ぎる雑貨屋だけが残った。


 貯金だけでは到底生活は維持出来なかった為、生活を続ける為に、仕事をしなければならなかった。

 そこで、山のような本と、読み書きの才能に恵まれた彼女は、雑貨屋を本屋として作り替えて生業とする事にしたのだ。


 本屋と言っても、彼女の店は流通を行わない。客の要求に応じて、客が持ってきた本や家にある本を、翻訳したり、書き写したりするのが、彼女が主にしている仕事だ。



 今、彼女の目の前に広がっているのも、そういった仕事の一つ。手書きで本の内容を書き写す、《写本》と呼ばれている作業だ。


 今回の相手は、総ページ数が2000強にも及ぶ大型の事典だ。大抵の本なら、三日もあれば書き写せるようになったクラリッサだったが、これには随分と手間取った。

 既に作業を始めてから八日が経ってしまっている。

 しかし、残っているのは数十ページだ。これで後は製本を残すのみ。頑張れば、今晩中に終わらせる事が出来るだろう。


 クラリッサは、机に立てかけてある、一冊の本を手に取った。茶色の表紙の古ぼけた本だ。

 彼女は10日前、これを父親の部屋で見つけた。


 本を開いてみても、彼女の知らない言葉で書かれているその本の内容を伺い知る事は出来ない。

 しかし、裏表紙を捲ると、そこには、彼女も知っている、ごく一般的なアリュ文字で、『シリル』と書かれている。

 それは、この本が彼女の母親の持ち物であった事を示していた。


『お母さんの本……中身も分かれば良いんだけど……』


 パラパラと、ページをめくりながら、そんな事を考える。


「ん?」


 本のあるページにさしかかった時、少女の目に、ある物が止まった。


「……紙?」


 本の間に、几帳面に2つ折りにした紙が挟まっている。

 クラリッサは、紙を持ち上げると、ランプの光の下でゆっくりとそれを開いた。


「……?」


 紙の上には、赤黒いインクで、何か図形のようなものが描かれていた。

 大きな円の内側で、丸や三角や四角などの図形が幾何学的に入り組みあい、その図形の間では、文字のようなものが線のようにつながって続いている。

 図形の中央は、中央に横一本の線が書かれた小さな円だ。


「なんだろ」


 好奇心の赴くままに、図形をすっと、指でなぞる。

 すると、とんでもない事が起きた。


 中央に書かれた円の中の横線が、弾かれたように動く。線が上下に割れ、まるで目のような形に変化したのだ。


 そして、その目の形の黒目に当たる部分から、真っ赤な光が漏れだし、部屋中を赤く染め上げた。


「わっ!」


 慌てて、紙から手を離し、机から身を離すクラリッサ。しかし、紙は以前として赤い光を放ち続けていた。

 何が起こるのか想像も付かないが、これでは作業なんてとてもじゃないが出来ない。


『……そうだ』


 とりあえず、紙を元通りの二つ折りにし、本の中に戻して無かった事にしてしまおう。

 そんな、最高にいい加減なその場しのぎの方法を思いついたクラリッサは 、そろそろと紙へと近づいて行った。


 しかし、紙の変化の方が、先に訪れた。


 紙の上の空中に、紙に書かれていた図形とよく似た形の、光の線が浮かび上がったのだ。


「……っ!」


 これに驚いたクラリッサは、慌てて後ろに飛び退く。

 そして、地面に置いてあった本に足を引っ掛けて、本の山を崩しながら、盛大に尻餅を付いた。


「ったぁ……!」


 したたかに打ち付けた下半身をさすりながら顔を上げると、更に驚いた事になっていた。

 目の前にある光の線の上に、知らない男が一人腰を下ろしており、本の山の上で尻餅をついているクラリッサを見下ろしているのだ。


 男は、健康的に日に焼けた、細いが、良く引き締まった肉体をしている。年齢は十代後半から二十代前半と言った感じだ。

 男性にしては長く細い、軽くウェーブのかかった銀髪の間から覗く、煌々と輝く赤い切れ目が眩しい。


 しかし、何よりクラリッサの目に止まったのは、その男が持つ『人間とは決定的に異なるある二点』だった。

 一つは、耳の後ろから生えた、角笛のような黒い角。もう一つは、背中から生えた、蝙蝠のそれのような形をした、大きな羽だ。


「ふん……久々に召喚されたと思ったら。こんなガキが相手か……」


 男の赤い目が、見くびるように複雑に歪んだ。


「俺も、地に落ちたものだ」


 俺は、ふっと横に目線を逸らすと、大きな溜め息を付いた。


「…………」


 クラリッサは、微動だにせずに、じっと男を眺めていた。

 黒い角に、蝙蝠の羽、頭の奥で、パズルが組み合わさるように、一つの言葉が浮かび上がっていく。


「……悪魔……」


 口の端から、自然と言葉が漏れた。


 そう、クラリッサの目の前に現れたその男は、魔界より現れた悪魔だったのだ。

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