村での暮らし―アリスside―
幼いころのアリス視点です。
ただ何も考えずに物心ついたときから特別扱いされていました。
「アリス、おはよう。今日も貴方はとても可愛いわ」
「アリス、おはよう。アリスが俺の娘であることを誇りに思う」
私、アリスの一日は両親から挨拶をされることから始まる。
私から挨拶はしない。いつもお母さんとお父さんの方から挨拶をしてくれる。
鏡の前に立てば、お母さんが私の髪を整えてくれて、着替えさせてくれる。
私の住んでいる村は決して大きいとは言えないらしい。私はこの村を出たことがないから、他の所がどうかは知らないけど。
その中で、これだけ綺麗な服を着ているのは私だけだ。
皆、私が特別で、私のおかげで皆が幸せになれているからって、そう言って村の人たちは私に沢山のものをくれる。
食べ物だったり、洋服だったり、この家の中には沢山の物があふれている。
お母さんとお父さんは、そうやって豊かな暮らしが出来るのは私のおかげなんだと言っていた。
「貴方は私たちの幸せの象徴だわ。アリス、私の元へ生まれてくれてありがとう」
お母さんはそう言って私のことをよく抱きしめた。
そしていつも、私の金色の髪を撫で、青い瞳をよく覗き込んだ。私の金色の髪と、青い瞳がお母さんは大好きだって言っていた。
お父さんも、私のおかげでこれだけ豊かな暮らしが出来るんだっていつも嬉しそうだった。
私もお母さんとお父さんのことは好きだ。だって、二人とも私が望めばなんでもしてくれるから。私が欲しいものがあれば、すぐに手に入れてくれる。ううん、お母さんとお父さんだけじゃない。村の人たちは私が望めばすぐにそれを持ってきてくれる。
そして私が「よくやったわ」と声をかければ、皆、嬉しそうな顔をする。
私は欲しいものが手に入り、村の人たちは私が声をかけて喜ぶ。それが当たり前だった。他の人たちはこんな態度を許されないらしいけど、私は特別な存在だからこんな態度が許されるのだとお母さんもお父さんも言っていた。
他の人がこういう態度をしていたら怒られていたけど、私がやると問題がないんだって。私が特別だからって。
生活をしていたら、たまにアレが視界に入った。
私の家で暮らしている、ボロボロの服を着た小さな存在。お母さんとお父さんはアレが私の視界に入るのも嫌みたいで、いつもすぐにアレをどこかにやる。
同じ年ぐらいで、私の家にいるということは知っているけれど私はアレをよく知らない。
でもまぁ、お母さんとお父さんが私の傍に相応しくないと思っている存在なら気に掛ける必要もない。
「アリス様、このお花どうぞ」
「今日はこの色の気分じゃないわ!!」
男の子がくれたお花を私は叩き落とす。
今日は赤の気分じゃなかった。というより、昨日と同じ花を持ってくるなんて許せないと思ってしまう。確かに昨日は赤で良かったけれど、私に持ってくるのならばもっと違うものを持ってきなさいよ!
男の子は私の言葉に顔を青ざめて、「ごめんなさい。アリス様。違うのを持ってきます」と当たり前のことをいって、その場を去っていった。
私が機嫌を悪くしていることを知った周りは、私にいつも以上に物をくれた。私が特別なのだと、それを何度も何度も口にする。
私が特別で綺麗な顔をしているのは当然のことだけど、こうして口に出されて気分が良くならないわけはない。
私はすぐに男の子に花を取りにいかせたことも忘れて、他の子供たちと一緒におままごとをするのであった。私はもちろんお姫様である。寧ろ遊びだろうとも私が他の役をやるはずがない。お母さんとお父さんも私にはお姫様が相応しいって言ってた。
私は特別だから、ずっと幸せな暮らしをし続ける。
私は特別だから、いつか特別な人と結婚する。
そんな風にお母さんは私にいつも言っていた。もしかしたら王子様が迎えにくるかもしれないとも、お母さんは言っていた。
「アリス様」
「今日も美しいですね」
「これをどうぞ」
皆が私を囲むのが当然で、皆が私の言う事を聞くのが当然で。
私は私の言う事を聞いてくれる人に囲まれながら、満足しているのだった。