薬師は少女たちの未来を思う。
レルンダに唯一優しかったおじいさんの目線です
わしの村は、少しおかしいことになっている。
それは――、アリスとレルンダという二人の双子が生まれてからだった。
美しい金色の髪と、青い瞳を持つアリス。
親にそっくりな茶色の髪と、茶色の瞳を持つレルンダ。
髪や瞳の色も、顔立ちさえも違う双子。
両親に似ていないアリスと、両親に似ているレルンダ。
小さな村で双子というだけでも目立つのに、似ていない双子と言う事で注目を浴びていた。
そして口さがないものたちは、面白がってアリスとは血が繋がってないのではないかと言っていたものだ。
そのことで若い二人の夫婦は、アリスの事を可愛がっていた。最初の頃はまだレルンダの面倒も見ていた。けど、徐々にレルンダの事を見る事がなくなっていった。
普通なら、そこでレルンダには助けが必要なはずだった。だけど不思議なことにレルンダは助けがいらない子供だった。普通なら助けがいるところで、どうしてか無事に生きている。
放っておかれていても何処からか食べ物を手に入れて生きている。まるで世界が祝福しているかのように、レルンダがお腹を空かせたら食べ物が落ちてきたりしていたのだ。
親たちがアリスに構い、アリスが特別だと告げ、アリスを大切にしている間、ずっとレルンダは放っておかれ、でも生きていた。
わしはそれを放ってはおけなかった。だからわしはレルンダの世話をやいた。
双子の両親にも放っておいてはいけない。ちゃんと育てるべきだと告げたが、彼らはアリスの事に夢中で聞いてくれなかった。
レルンダは……自分が親に放っておかれることをなんとも思っていなかった。悲しい状況だとも分かっていなかった。レルンダにとって物心ついた時からそうだったからだ。
次第に美しく育つアリスの事をこの村は特別に扱い始めた。
アリスは誰よりも特別で可愛い存在なのだと。誰よりも優先しなければならないと。
そんな風に優先することは異常なことだった。
「――レルンダもアリスも同じように扱うべきだ。少なくとも両親であるお前たちは」
「アリスのおかげで私は生きているの。それにレルンダは放っておいても生きているもの」
「その子はおかしくて不気味な子だ」
彼らはわしの話を聞かなかった。
そしてアリスの事を特別視して、妄信するようにアリスを可愛がった。
逆にレルンダは放っておいても生きていて、誰かが手を出そうとしてもそれは阻止されていた。だから不気味だと言われた。
皆はアリスを特別だといったけれど、わしにはアリスよりもレルンダの方が特別に見えた。
アリスの見た目が村では珍しい、まるで貴族のような容姿をしている。だから目立つだろう。だけどじっと見ていればレルンダの方が普通ではないことは分かる。
一般的な子供なら、親に放っておかれていきていけるはずがない。
そして……甘やかされ続けているアリスはまるで自分がお姫様か何かと思い込んでしまっている。
あれではアリスも将来的にこの村の外に出た時にやっていけないと思った。
自分の言う事を誰もが聞くのが当たり前だと信じ切っているのだ。ただの村人であるはずなのに。
この村の現状は異常だ。
アリスは自分を特別と思い、生きている。
レルンダは人と関わらずに、生きている。
二人とも普通の村人ではない環境を生きていて、この二人の少女たちが今後どんな風に生きていくあと考えると心配になった。
わしももう年だ。
もっとわしが若ければ、アリスとレルンダのために力を尽くすことができたかもしれない。だけど、彼女たちが大きくなるころにはわしはもういない。
わしにどれだけの事が出来るのかは分からないが、出来る限りあの二人の双子の未来のために働きかけようと決めた。
ただアリスには中々近づく事が出来なかった。アリスの周りには沢山の村人たちがいた。近づけても周りに甘やかされ続けていたアリスはわしの言葉を聞こうともしなかった。
それでもアリスに近づこうとしたが、中々近づけなかった。
レルンダには近づく事が出来、出来うる限りレルンダのために話しかけていた。
「レルンダ、これは……」
レルンダはあまりしゃべらない子だった。ただわしが声をかけるようになってから、「うん」とか簡単な言葉は発するようになってくれた。
レルンダに話しかける事で、少しでもレルンダのためになっていればいいとわしは願った。
――わしはもっとアリスやレルンダのために働きかけるつもりだった。
だけど、わしの寿命は思ったよりも短かった。
わしは寒い冬の日、倒れてしまった。
ああ、もうわしの命は消えるのだ。
そう理解した。
子も孫もいないわしは……双子の事を最期に思った。
少女たちの未来がどうなるか分からないが、少しでも明るくあればいいと、そう願った。