神の娘の思う事 ①
フィトが『神子の騎士』になって少し経った後のフィト視点です
私は椅子に腰かけて、空を見上げる。
青い空と白い雲が広がっている。空を舞う小鳥の鳴き声が聞こえて来て、なんとも穏やかな空間が広がっている。
視線を向ければ、獣人やエルフたちが会話をしあっていて、子供達が遊んでいるのが見える。
――そして翼を持つ人が空を舞っている。そのすぐ近くにはグリフォンと呼ばれる魔物やドアネーアと呼ばれる竜の子がいる。
不思議な場所だ。
此処に私がいることも、この村の一員として私が受け入れられていることも――幾ら時間が経過してもふとした瞬間に夢なのではないかと思う事がある。
私の名前はフィト。
しばらく名前など呼ばれることなく、ただ”神の娘”として呼ばれ続けていた。
私の生まれた民族は、ミッガ王国でひっそりと生きていた。
過去に神の娘という特別な力を持つ者がいて、その存在がいたからこそ私たちの民族はあるのだとそういう逸話を本当に幼いころからずっと伝えられていた。
神の声を聞き、不思議な力を持っていた真なる神の娘。
私はその存在にあこがれを抱いていた。真なる神の娘だけではなく、その当時の神の娘にも憧れていた。
次代の神の娘として教育を行われる中で、私は真なる神の娘以外は、何の力も持たないただの少女であることも知ってしまった。そのことを初めて聞いた時は正直言ってショックだったけれども、それでも私の中の神の娘に対するあこがれはなくならなかった。
――私にとって力がなかったとしても、神の娘は神の娘だった。
寧ろその役割が重要なのだというのもわかっていた。ただ神の娘が存在しているというだけで、私たちは安定して暮らすことが出来たから。
誰もが私を名前で呼ばず、神の娘と呼ぶことも別にいいと思っていたのだ。思う事がなかったわけではない。でも私は神の娘であることを誇りに思っていて、私が神の娘であるからこそ救われることがあるのならばなんだってやろうと、そう確かに思っていたのだ。
――だけれど私たち民族はそのままではいられなかった。
転機が訪れてしまった。今まで過ごしていたミッガ王国から去らなければいけない事態になった。
今まで私たちは何だかんだ生存してこれた。それは真なる神の娘の力だとそう言われていた。私は漠然と、これまで通りに過ごせるはずだと思い込んでいた。そんな絶対的なことなどないのに。それでもそこにいられるはずだと、今まで通りに過ごせるはずだと――そんな甘い考えを持っていた。
それは私だけじゃなくて他の皆もそうだっただろう。今考えてみれば真なる神の娘の力があり、安定した暮らしを出来たからとはいって、私たちは考えがなさすぎた。
――私は神の娘として、戸惑いを見せるわけにはいかなかった。困惑も見せるわけにはなかった。ただ神の娘として彼らを導かなければならなかった。それがどれだけ私にとって負担だったとしても、私はそれをしなければならなかった。
私はこれからどうしたらいいのか、全く分からなくて、未来に対しての怖さを感じていた。
――私は真なる神の娘ではないから、皆を守れないとそれを実感してしまった。これだけ行き場のない不安を皆が抱えている中で、私は自分が何の力を持たないことを誰にも言う事などできなかった。私に縋るような目を向けてくる皆に対して、そんなことを言ってしまったら頑張ろうとしている皆の心が折れることぐらいわかっていた。
だからこそ私は弱音を吐くわけにもいかなくて、どうしたらいいのだろう。どんな風にしたらいいのだろうってずっとそればかり考えていた。
その中で出会ったのがレルンダたちだった。
――私の知らない所で民族たちが暴走をし、獣人の一人が亡くなってしまった。私は神の娘と呼ばれているのにも関わらずやっぱり力なんてもっていなくて、その問題を解消することさえもできなかった。
結局私は無力なのではないか。神の娘という名だけあってもどうしようもないのではないか。
――私は沢山の事を考えていた。
自分の無力感を感じている中で、レルンダを知ったのだ。
レルンダは不思議な力を持っていた。それこそ、真なる神の娘を思わせるような力が。
私は人質として村で暮らす中で、レルンダと沢山接した。その中で、レルンダはやっぱり特別な力を持つのだと思った。
だからこそ私は民族の、神の娘という肩書をなくしてもいいと思ったのだ。
……最も私はレルンダの祈りによって、『神子の騎士』という立場になった。皆からすれば真なる神の娘と同じ力を持つレルンダに認められた存在として結局私は皆の中で特別になった。
でもちゃんと皆私をフィトと名前で呼んでくれるようになった。それにレルンダやレイマー、ガイアスたちもいる。神子と呼ばれる特別な存在と、私と同じ『神子の騎士』と呼ばれる人たち。
私一人だけが特別じゃない空間というのは、居心地がよかった。




