魔物の神子 5
魔物の神子とドウロェアンの交流は続けられていった。
小さな小さな栗鼠の魔物――その存在と、強大な力を持つドウロェアンが親しくしているというのは、森の魔物たちにとっても不思議だったようだが、時を重ねるにつれて、魔物の神子とドウロェアンが親しいのは当たり前になっていく。
だけど、その交流は永遠に続いていくわけではない。
「きゅい……」
魔物の神子は、小さな栗鼠の魔物である。
その寿命も決して長いわけではない。
徐々に元気に走り回っていたその魔物は、老衰していく。
神子であるからこそ、病気などをせずに元気に生きてきた。森の魔物たちと共にのんびり過ごしながら、幸せに生きていた。
――だけど、その幸せな時間も、終わっていくことを魔物の神子は理解している。
もうすぐ自分は命を失うのだろうなというのが分かっている。それに悲観などはしていない。魔物の神子はこの生に満足している。
――満足しているからこそ、いつも通りの日常を送っている。
「きゅい、きゅい」
魔物の神子は、自分の死がもうすぐやってくるからこそ、今までの事を思い起こす。
――この森で生まれた時の事。
――物心を付いた時から傍にいてくれた魔物たちのこと。
――美味しい食べ物が周りに沢山あって幸せだったこと。
――山の上にいる自分の大きなお友達のこと。
「きゅい!!」
大切な魔物たちに挨拶をしよう。
もうすぐその命が失われるだろうと自覚したからこその、行動である。
魔物の神子は、馬の魔物に乗せてもらって、森の中を巡る。
この魔物が溢れる森は、魔物の神子にとっては庭のようなものだった。この広大な森全てが自分の家で、自分の大切な場所。
――その馬の魔物とは、栗鼠の魔物が小さなころからの仲である。とはいえ、その馬の魔物の寿命はまだ尽きない。栗鼠の魔物だからこそ、魔物の神子は寿命がそこまで長くないのだ。
その死期が近づいてきているのを分かっている。そのことに悲しんではいるものの、寿命は仕方がないものだと、周りも分かっている。
だからこそ、彼らのやることは魔物の神子の望みを叶えることである。
なので魔物の神子を乗せて、森の中を守る。
「きゅい」
「きゅいきゅい!!」
今までありがとう。
そんな意味を込めて、魔物の神子は元気よく鳴き続ける。
それと同時に今まで愛していた、大切だった場所も一緒に巡る。
――大切なこの場所が、ずっと素敵なままでありますように。
無意識に魔物の神子は、その穏やかな光景を目にし、その場所が大切だと思い、祈りを込める。
魔物の神子自身も、周りの魔物達もその魔物が神子などとは理解していない。だからこそ、そういう祈りが込められたらその先、此処がどうなっていくかもわかっていない。
ただ一人、その効果が分かっているのは、山頂から舞い降りてきたドウロェアンだけである。
ドスンという大きな音と共に、地面に降り立ったドウロェアン。
基本的に山頂から降りてこないドウロェアンがこうして降りてきたのは、魔物の神子の死期が近いことを察したからである。
――そして栗鼠の魔物がもう山頂に来れるほどの元気がないことも把握していたからこそだ。
「神子よ」
「きゅい!」
魔物の神子は、親しくしているドウロェンがやってきてくれて嬉しそうである。
「お前はもう死ぬのだな」
「きゅい!」
ドウロェアンの問いにも、全く持って気にした様子もなく元気に答えた。
魔物の神子は死を恐れない。――ただこうしてまたドウロェアンに出会えたことが嬉しかったようだ。
「きゅいきゅい!!」
魔物の神子は、嬉しそうにドウロェアンの足元により、すり寄る。そして元気よく声をあげている。
「お前はもう満足しているんだな。楽しかったか」
「きゅい!!」
満足そうにいつも通りに生活をしている。
――心残りなど一つもないと、その魔物の神子は訴えている。
それを見てドウロェアンは「そうか。俺も楽しかったぞ」と答えた。
――魔物の神子が亡くなっても、この森に魔物の神子の影響は強く残っていくことだろう。
それが分かっているのはドウロェアンだけである。
神子が望まぬ死を迎えた時、その後には悪い影響が残る。しかし、この目の前の魔物の神子は、満足して死を迎えることだろう。
そんな風に考えて、ドウロェアンは良かったと思った。この思考力も低い魔物の神子が幸せに生きてこれたことが。
ドウロェアンはしばらく魔物の神子と過ごしてから、山頂へと戻っていった。
――魔物の神子が息を引き取ったのは、それから一か月ほど後のことである。
安らかに、草の上に眠ったまま、息を引き取った。
その周りには多くの森の魔物達がいる。
その魔物の神子を愛し、慈しんでいた魔物達。
――この大切な森が栄えますように。
その神子の心の中の祈りは確かに聞き届けられる。
その森は、自然豊かに、果物や木の実が沢山実。
その森は、多くの魔物達が、暮らしている。
――神子の願いが聞き届けられ、その森は、周辺諸国の人々が足を踏み込めないような危険な森になったのである。
その魔物たちの楽園とも呼べる森に、神子の少女が村を作るのはそれからまた随分経った先のことである。
end
というわけで魔物の神子の願いにより、その森は魔物の多く生息する森になりました。




