魔物の神子 4
「ぐるるるぅう」
「きぃぃいいい」
「きゅい!!」
魔物の声が、その場に響いている。
魔物の神子が姿を消していたこと――ドウロェアンの元へといっていたことに対して、心配をされているのである。
栗鼠の魔物は、神子であるがゆえに周りの魔物を惹きつける。この森の中で生活をしている魔物たちは魔物の神子の事を大切に思っている。
大切に思っているからこそ――、何処に行っていたんだと心配そうに声をあげている。とはいえ、魔物の神子は、呑気な性格をしていて、「大丈夫」とでもいうように声をあげていた。
魔物の神子からしてみれば、なんでそんな風に心配そうに声をかけてくるのか分からない。魔物の神子からしてみれば、この森は危険など一つもない場所という認識である。それだけその神子が危険に陥ったことがないからといえるだろう。
「きゅいきゅいきゅい」
愛らしい声をあげながら、魔物の神子は何処に行っていたかを説明する。
神子の説明に、周りの魔物たちは驚きと恐怖に固まる。――それだけ山頂に存在しているドウロェアンという竜はこの森にとって特別な存在である。森に住まう魔物たちは山頂にまでいかない。何故なら、ドウロェアンに対して怯えているからである。
ドウロェアンという存在は、それだけ強大な力を持っている。魔力を垂れ流している恐ろしい魔物。その魔物に怯えないのは、神子だからこそである。
「ぐるぐるぐるるるるる!!」
「きゅい、きゅい、きゅいいいいいいいい」
もう行くなと周りは口にする。
だけれども、魔物の神子は嫌だと拒否の声をあげる。
結局のところ、周りが幾ら反対をしたとしてもその魔物が望んでいることなら、反対出来るはずもない。
魔物の神子というのは、自分の自分の意思を貫き、自分の思うままに生きる。それは人ではないからこそ、といえるだろうか。
人でない神子の魔物は、あまり深く物事を考えない。
「きゅいっ」
そんなわけでまた魔物の神子はドウロェアンの元へ行くことを決意していた。周りの魔物たちは、一人でそこに向かうことを心配して共にドウロェアンの元へ向かうことを申し出る。
そんなわけで魔物の神子とドウロェアンの二度目の邂逅の時には他の魔物も一緒だった。
その犬の姿をした魔物は、魔物の神子と共に山を登った。しかし神子である栗鼠の魔物はともかくとして、犬の魔物は普通の魔物である。
山頂へと向かうことは共についてきた魔物については辛いことだった。
「きゅい?」
魔物の神子には、どうしてそんなに大変そうなのか分からない。それはその魔物が神子であるからだが、自分が特別だとか、自分が神子だとか、そんなことは分かっていない。自覚もなしに、ただ魔物の神子は、神に愛され、好きなように生きている。
「がう……」
「きゅいきゅい」
疲れた様子の犬の魔物に、魔物の神子は木の実などを持ってきて食べさせる。何だかんだよく一緒にいる魔物なので、こうして元気がなさそうだと流石に魔物の神子も気になるのである。
そして時折休憩をしながら、彼らはまたドウロェアンの元へとたどり着いた。
「また来たのか。今度は他の魔物もか」
「きゅいきゅい!!」
「が……う」
魔物の神子はともかくとして、普通の犬の魔物は、ドウロェアンに声をかけられ怯えたようにへたりこむ。
普通ならばその態度が正しい。――長い時を生きてきた竜の魔物というのは、それだけ恐ろしい力を持っているのだ。
「きゅい?」
「がう……」
「きゅいきゅいきゅい!!」
なんでそんな風にへたり込んでいるのかと魔物の神子は不思議そうである。
「まぁ、そういうではない。俺の前に立って、それだけいつも通りであるお前の方がおかしいんだからな」
「きゅい?」
ドウロェアンの言葉に不思議そうな声を出して、ドウロェアンを見上げる。
魔物の神子にとっては、ドウロェアンは大きくて、巨大な魔力を持っている。――それでも嫌な予感は全くしない。ただ目の前の存在は、見た事ないぐらい大きくて、面白いとそう思っているだけである。
じっとドウロェアンさんに視線を向けられ続けた犬の魔物はそのまま意識を失う。
「きゅい?」
「寝かしておくといい。俺の魔力にあてられただけだ」
「きゅい」
ドウロェアンの言葉に、魔物の神子は頷く。
頷き、魔物の神子はまたドウロェアンの傍にとてとてとよってくる。
放っておけばいいというドウロェアンの言葉を信じ、頭から気絶している犬の魔物に対する関心はないらしい。どこまでも、その魔物は自由であり、我が道を行く。
それから魔物の神子は、犬の魔物が目覚めるまでのんびりと過ごした。
さて、そんなことがあったわけで、結局それから魔物の神子がドウロェアンの元へ行く時は、ただ一匹で向かうことになったのであった。
それからちょくちょく、魔物の神子はドウロェアンの元へ行くことになるのである。
ドウロェアンは魔物の神子がくるたびに、その存在を受け入れた。




