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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

夢の犯罪計画

作者: 奇羅

自己満足ですが、誰かが偶然読んで思うものがあったら嬉しいなと思います。

 学生の頃はほとんど毎日夢を見ていた。

 夢といっても、叶えたい望みの方の夢ではなく寝ているときに見る方の夢だ。いろんな夢を見ていたけど、いい夢を見たときの方が起きたときに理想とかけ離れた現実に直面して、少し苦しい思いになった。

 社会人になってしばらく経ってからはいつの間にかあまり夢を見た記憶がない。日々に追われて疲れているからなのかもしれないし、毎日急いで支度をして会社に向かうのに必死で起きた瞬間から夢を意識していないだけなのかもしれない。夢を見ていないのは熟睡している証だと言われているし、見ない方がいいんだろうけど少し寂しく感じてしまう。


 その日は珍しく夢を見た。

 珍しくはっきりと覚えている。

 行く先々で嫌いな人間を殺して、笑顔でいる自分だ。

 なぜ自分がこんな夢を見たのか心当たりはあった。昨晩望まない殺人をしてしまったからだ。



 ことの始まりは些細なことだった。

 夏の蒸し暑いある日、窓を開けて風を入れ替えているとタバコの匂いが鼻についた。

 一昔前でいうところのいわゆる「ホタル族」というやつだ。隣人がベランダでタバコを吸っているのだ。

 最初は仕方ないと思っていたのだが、何日もそれが続いて苛ついて

「死ね!」

 と大声で叫びながら自分の部屋の窓を蹴った。そうすると窓がガラガラと動く音が聞こえ匂いが収まった。気持ちよかった。


 それからは毎回タバコの匂いがするたびに窓を蹴ってタバコをやめさせていた。普段は全くしない威嚇行動をして少し興奮していた節はあったかもしれない。

 しかし、あるとき窓を蹴ってもタバコを辞めなかった。自分はそれが許せなかった。自分の家の窓は匂いがいかないように閉めてるのに他人の家には平気で副流煙を撒き散らす社会のゴミがこの僕に逆らうなんて、そんなことは許せるはずがない。僕が正義でアイツが悪なんだ。正義が優先されるべきなんだからとっとと申し訳無さそうにタバコをやめて、家の中に帰れ。イライラして仕方がなく何度も何度も窓を蹴って叫んだ。

 結局その日はしばらくタバコの匂いがしたまま変わらなかった。

 後半は自分の無力さを痛感して虚しくて悔しくなっていたが、今まで隣人とすれ違うこともなくどういう人間か知らない以上怖くてチャイムを鳴らすことができなかったし、自分は生まれてこの方殴り合いの喧嘩もしたことがないオタクなのだ。


 以降は何回蹴っても何回叫んでも相手にされることはなかった。完全にナメられているのを感じて発狂しそうになっていた。

 なんで正しいことをしているのにこんな苦しい思いをしないといけないんだ。僕の生活を脅かしやがって絶対許さない。と今思えば少し行き過ぎた感情にまで至っていた。

 憎悪だけが増し、どうやったら相手に嫌がらせができるかだけを延々と考えてストレスを発散していた。香害を受けているんだから相手のベランダにシュールストレミングでも投げ込んだりする妄想をして自分を慰めていた。


 しばらく経って、会社から家に帰るときに初めて家を出るところの隣人と出くわした。ちゃらそうな見た目をしていていかにもアホっぽいなっというのが自分の印象だった。隣には可愛い彼女らしい人物もいて、なんでこんなクズに幸せが舞い込むんだ。人生なんて不条理だ。という気分になりながら、会釈しながら横を通り過ぎて自分の家の中に入った。

 少しすると、隣人とその連れの笑い声がした。

「あれが叫んでたのかよ、ウケる」

 こっちに聞こえる程度のボリュームで自分を嘲笑う声だ。そこで自分はなにかの糸が切れてしまった。

 殺してやる。



 そう決めてからは毎日が楽しかった。

 毎日毎日、殺人方法について考えていた。

 それと同時にこんなまともで善良な自分があんなクズのために人生を棒に振るなんておかしいとかタバコを吸っていただけで殺すなんていいのかという疑問も浮かんだが、それよりもタバコの匂いがしない生活と隣人の死に様を思い浮かべる方が何億倍も幸せで一瞬の良心は好奇心ですべて塗り替えられていた。

 ゲームをしたり漫画を読んでいてこんな充実を感じたことはなく、今まで経験したことのない充実感を得ていた。早く帰って、犯罪計画を練りたいと思っていると仕事にも身が入り周囲からも褒められて人生が楽しかった。灰色の世界に色がついたようだ。

 今まで自分のことをそこらへんにいる凡人だと思っていたけど、実はシリアルキラーの才能があるのかもしれないなと誇りさえ持っていた。

 そう思う気持ちが大きくなるにつれて、やっぱりあんなクズのためにこの素晴らしい才能をもった自分の人生を棒に振るのは嫌だから完全犯罪がしたいと思う気持ちが強くなっていた。


 完全犯罪の定義とはなにか。Wikipediaのトップページいわく、「犯行の手口が社会的に露見せずに犯人が捕まらない犯罪を指す」らしい。

 今回においては、別に手口自体は露見してもいいので、要は犯人が不明の迷宮入りの事件のことだと自分の中で解釈した。

 自分が犯人だとバレないようにするその方法はいくつか思いついている。

 その中で一番有効だと考えたのは火だ。

 警察の捜査で最も恐れているのは科学捜査だ。正直自分みたいな素人には今の科学捜査のレベルがどれくらいなのかがわからない。

 しかし、日々のニュースを見ていて確実なことが一つある。科学捜査は火に弱いということだ。人間という科学捜査を最もされてきたであろう対象ですら、焼死体になったら身元が突き止められない。それほどに火は証拠を焼き切ってしまうはず。これは確信している。

 タバコを吸っているクズが火で焼け死ぬという皮肉的な死に方という点も芸術点が高いんじゃないかと笑顔になってしまう。

 あぁ、楽しい。犯罪計画を練り始めてからというもの、隣人トラブルを察知されないようにというのもあるけど、タバコの匂いがしても窓を蹴って威嚇する気にすらならなかった。楽しすぎてそんなこと気にならなかった。


 自分が立てた計画は簡単に言うと、寝てる間に簡単にいうとこうだ。

 隣人が寝ているところに、事故に見せかけて火をつけて殺す。

 このための準備を明日から決行日までにコツコツとやっていこう。


 まずは自分の家の前に隠しカメラを設置して、対象の行動パターンを徹底的に洗った。どうやら相手は学生かフリーターなのか、毎週ほとんど曜日ごとに決まった時間に家を出ていることがわかった。帰ってくる時間はまちまちだが、水曜日はいつも遅めの時間に帰宅している。部屋に侵入するなら水曜日が狙い目だ。

 実際に一度尾行してみたところ、大学へ行っていたので学生だったということだろう。


 水曜日が狙い目だとわかったので、水曜日に有給を取り相手がでかけたことをカメラで確認してしばらくしてから人目に隠れてベランダを移動して相手の部屋の内装を見た。火が起こりそうなのはキッチンくらいか。それは少し都合が悪い。寝ている間にキッチンが着火することは少し現実的じゃないから他殺を疑われてしまいそうだ。

 ストーブとかから着火して死ぬとかが一番自然なイメージがあった。まだ秋も始まったばかりだから、準備期間も考えれば冬がちょうどいいし出来たらストーブを導入させたい。

 何か方法はないかと思いながら懸賞とか応募してないかという僅かな希望を持って郵便受けを漁る。特殊なことをしなくても普通に郵便受けを漁れてしまう世界は本当に平和だと思うと同時に改めて自分が既に一線を余裕で踏み出してしまっていることに気付かされる。

 まだ法的には後戻りできる段階だが、もう精神はもっと先にいた。自分の中で隣人は死ぬことは予定とか計画ではなく事実として認識していた。


 郵便受けを漁っていると母親と思しき人物からの郵便があった。今更手紙なんて古風だなと思ったが住所が東北の田舎だったのを見て、少し納得した。

 内容は体調を心配しているのと一年以上返事がなくて寂しいという趣旨のものだった。

 可哀想な母親だなぁと思うと同時にこれは天啓だと感じた。ご都合主義とも言えるが、こいつは全く親に返事をしないタイプだということがわかった。

 これなら親の住所からストーブを送りつければ受け取るだけで礼を言わずに終わる可能性が高いということだ。礼を言うタイプなら親が違和感を感じて事件後に警察に何かいう可能性もあるが、それを排他できる。

 礼を言うか言わないかは多少運任せになってしまうのは認識してるが、こんな運命とも言える状況になってしまうと浮かれてしまうのが人間だ。これで行くしかないという確信を得て石油ストーブを買いに行き、その場で手紙を同封して住所を偽装して隣人に送りつけた。送り主の住所を確認しないところも郵便受けの話と同じで悪用される可能性を無視した、社会を信用しているからこその脆弱性を感じる。


 これで準備はほぼ完璧だ。

 あとは睡眠薬を飲ませることと、寝ている間にバレずに部屋に入ることができれば実行できる。ワクワクが止まらない。


 睡眠薬は割と簡単に手に入れることができた。少し会社で残業を多めにしたあとに社内カウンセリングにかかったら精神医療を勧められて、そこで不眠を訴えて強めのものを手に入れることができた。インターネットで今の睡眠薬は溶かすと色が付くという記事を見たことがあったが、ただの脅しで実際は色がつかない薬もあるようだったので、インターネットで見つけた薬を手に入れるためにジェネリックを希望したら難なく手に入れることができた。

 効果も自分で多めに飲んだあとに大音量流して試したが、全く起きることなく15時間ほど寝てしまったので、多めに飲ませれば安泰だろう。飲ませるのは冷蔵庫の中にある飲み物に入れておけば飲むはず。


 あとは部屋に入る方法だが、一個いいのを考えていた。

 鍵穴に徐々に砂とかのゴミを詰めて、鍵が入りにくくなってることを意識させて当日の朝に完全に開かない状態にすることで、鍵がはいらなくても不可解に感じることなく仕方ないと思うという心理的なトリックだ。あとはそれをテストの時期にやれば一旦諦めて学校に行くはずだ。テストの時期は既に把握しているので、準備は万端だ。



 予定日の前日になった。2日前からずっと会社には風邪で有給を出している。事件当日だけ偶然有給を取っていると怪しまれるから念の為、あとしっかりと2日前の時点では水を浴びまくって本当に風邪を引いて医者にもかかっているので、嘘を疑われることはないだろう。

 石油ストーブがセットされているのも確認したし、さっき鍵穴に砂を詰めて鍵が入らなくなったのも確認した。実行が楽しみで仕方がない。正直に告白すると、毎日のようにタバコを吸ってゲラゲラ笑う隣人のことなんて最早憎くもなんともなかった。むしろこの幸せを与えてくれて感謝していると同時に、終わりが近づいていることがさみしく、愛情のようなものすら感じていた。

 殺人は最大の愛情なんて言葉は本当の憎しみを知らない安っぽいバカがいうセリフだと思っていたけど、そうとも限らないのかもしれない。なんてすこし感傷に浸っている。

 燃やしたらどうしよう。殺すことに専念しすぎて、家を燃やしたあとのことは考えていなかった。まぁあまり考えすぎて行動していても疑われてしまうので、これでいいか。とかずっと考えているうちに朝になっていた。


 カメラをつかって隣人が出ていくのを待つ。

 そろそろ出るはず……。

 出た。

 鍵が……入ってないな。よし。

 ちゃんとそのまま駅まで行くか一応後を追おう。


 電車に乗ったことを確認して家に戻った。

「よしよし、作戦通りだ。」

 思わず声が漏れてしまう。


 手袋をしっかりとはめて家に潜入した。

 冷蔵庫の中身を確認して、都合よく中身の空いたペットボトルがあることを確認、これにいれておけば間違いないだろうと睡眠薬を溶かして入れた。

 一応他の飲料にもいれておいて……と。

 次に石油ストーブがちゃんと付くかの確認だ。これを火種にするからちゃんと確かめておかないとな。

 スイッチを押してちゃんと起動するのを確認した。

 他は特にないかな。あぁ夜が楽しみだ。とっとと帰ろう。



 昨日楽しみで寝られなかったせいか、気付いたらもう深夜になっていた。こんな大事な日に何してんだ僕は!と思いながら壁に耳をあてる。いつも聞こえていた声は聞こえないので寝ていることを確信した。

 緊張で胸を高鳴らせながら火をつけるためのライターと石油を準備する。あぁ、やっと念願の日がきたんだ。もう殺したい理由は忘れてしまったけど、やっと殺せるんだ……長かったなぁ。

 音を立てないように自室の扉を出た。

 隣室の鍵がかかっていないことを確認して、念の為こっそりと少しずつドアノブを回しながらドアを押し進める。万が一起きていそうならダッシュで逃げられるように後ろを振り返りながら歩を進める。

 そしてゆっくりゆっくり家の中にはいっていった。

 物音もせず起きた様子もない。

 足音を忍ばして寝室へはいっていく。

 そして石油を辺りに撒こうとした瞬間、違和感に気付いた。

 まだ石油を撒いていないのに床がなにかベタベタしている。

 粘性の何かを暗闇の中目を凝らしてみると、それはあたり一面に広がっているように見えた。指で触ってみるとなんとなくそれがなにかわかった。

「あなたには殺させませんよ。私のものなんですから。」

 後ろから声がして反射的に寝室の方に飛び込んでしまう。

 状況が理解できずに慌てふためきながら、声が下方向を見ると女性がたっていた。

 あのときすれちがった彼女らしき女性だった。

 片手に持ったナイフと部屋から漂う鉄の匂いを感じて、隣人がこの人に殺された。ということだけがわかった。


 その瞬間、全てがどうでもよくなった。今までこんなに努力してきたのがパーになってしまってただただ悔しくて絶望して涙が溢れそうだった。


 女性は自分はこの部屋にカメラを仕掛けて彼氏を観察していた!とかあなたも殺そうとしていたのは知ってた!とかこの人は私が殺すの!とか喚いていた。正直どうでもいい。俺はこいつを殺すためだけに数ヶ月をすごしてきたんだ。人生で一番楽しかった、楽しみにしていたことを奪われた怒りやあるいは、殺したい相手を殺されてしまった嫉妬で狂いそうだった。


 その瞬間からは記憶が曖昧だ。たしかその場から普通に彼女に向かっていって顔面を殴りつけた気がする。その後は男女の肉体的な差で一方的だった。包丁を奪って息絶えるまで刺し続けた。


 もう動かなくなったそれをみて、ため息をついて家に帰ってきた。

 血でベトベトになってたので、とりあえずシャワーを浴びた。

 シャワーを浴びてる間は特に何も考えず、出た後もぼーっとして気付いたら寝ていた。


 そして夢を見た。

 行く先々で嫌いな人間を殺して、笑顔でいる自分だ。

 起きてその夢を思い出して悲しくなる。別に嫌いでもない人間をやりたくもないタイミングで殺してしまった。素人なりに一種の美学を持っていたのに、全てがパーだ。最悪だ。

 夢が現実であったならどれだけよかっただろうか。


 昼過ぎまで放心状態のまま、過ごしていたが、一応やっとくかと思い隣の部屋に石油を撒いて火をつけた。

 そのまま外に出て映画を見たりぶらぶらした。前なら面白かっただろう映画もどこか退屈な感じがして物足りなかった。


 夜になって家に変えると家が真っ黒になっていて、よくみるKEEPOUTのテープで囲われていた。

 それを眺めていると大家さんが近づいてきた。

「大丈夫!?隣の部屋で火災があったのよ!」

 と心配そうに話しかけてきたので

「え、そうなんですか」

 と上の空でかえした。

 大家さんは自分が現実を受け入れられずにいかれていると思ったのか少しフォローして近所のおばさん同士の会話に戻っていった。

 しばらくすると警察が来て、事情聴取の任意同行を求められた。



 その後のことはどうでもいいことばっかりだった。

 当然警察は隣人が死んでいたのと火事のときに都合よく外に出ていた自分を疑っていたが、わからないですと答えていたら、計画通りに火がすべてを焼き尽くしてくれたのか証拠不十分で開放された。

 家が燃えたのと警察に疑われていたのも相まって、会社にも行きにくかったので辞めて火災保険のお金で別の場所に引っ越した。

 無職としてぼーっとアニメを見る生活が続いてまた夏になった。

 いい加減暑さが限界に達したのでずっと閉じていたカーテンと窓をあけた。


 あぁ、タバコの匂いがする。



 終わり

あとがきなので、ここまで読んでくれた人がいるのかもしれないですね。ありがとうございました。

なるべく人に恨まれないように一緒に八方美人で生きていきましょう。あるいは人を殺すという発想に至らないように気をつけましょう。

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