第一話、魔法少女……脱げる
プロット無し、勢いだけの書下ろしです!
「説明しよう! 広告制魔法少女とは、企業からのスポンサードを受けてパレードに参加する少女たちのことである! 上は17歳まで、下は6歳から登録可能な健全、年齢制限なしの戦いを繰り広げる姿は視聴率抜群、世界中で大人気コンテンツなのだモン!」
「説明台詞過ぎだよ……」
おおっと、今日のミユキちゃんは少々ご機嫌斜めのようである。今朝の朝食があまり好きじゃないスクランブルエッグだったからか? それとも、苦手な算数の授業で当てられたからかな?
「それは仕方ないモンよミユキ。君はスポンサーが一社しかいなから、こうして広告台詞を入れないとノルマがこなせないんだよモン?」
「そうだけど……きゃああっ!?」
「来るよ、パレードの始まりだモン!」
とあるビルの物陰で、うつむき気味につぶやく姿もとってもキュートだけど今はそれどころじゃない。ここで生き残らないとまた報奨金が貰えないぞ、ミユキちゃん! っと、撮影を始めなきゃ。
悲鳴すらかき消すように、遠くから無数の光線が飛来する。それは赤、黄色、緑、ピンク、青に……ええい、数えるのも面倒なほどの光線がクラッカーから飛び出したように街に襲い掛かった。
「うわわわっ、始まっちゃったよモン君!」
「そんなことはわかってるから早く変身するモン!」
かろうじて無事だったビル……ビルだった物の影に隠れながら涙目のミユキちゃん。少し移動してその顔を拡大していくと……いいよ、いいよ。その泣き顔、グッドだね!おおっと、泣き顔がきりっとした物に変わったね……いよいよかな。
「ううう、もう、貧乏がいけないんだっ! ダグネルチキンの力を借りて、変……身っ!」
そこでその企業名か!?なんて思った動画視聴者の諸君、同情するならスポンサーになってあげてほしい。ミユキちゃんは広告制魔法少女、変身台詞にだってスポンサー枠があるのだ。フリーの状態であればランダムな企業名や商品名が口上に必要で、必ず変身することから全体で見ても広告料は高めなのだ。
つまりはそう、ミユキちゃんラブリーとか商品を作ってスポンサーになれば解決! え、違う? まあいいじゃないか、映像を彼女に戻そう。
小型ドローンの映像を戻した先では、ちょうど変身シーンが始まるところだった。ミユキちゃんは胸元に下げている小さなペンダントを手に、それに優しく口づけ。ちゅっなんて音が聞こえてきそうだけどそれは幻聴。今は映像に集中すべし!
ペンダントは実は魔法少女たちに共通して支給されている変身デバイスの一つで、本人認証のために口づけが必要だとかいうふざけた仕様だ。いいぞ、もっとやれ。
自分が撮影されていることに気が付いているからか、少し恥ずかしげな姿もポイントが高い。そうして彼女の足元に大好きだというイチゴ色の光があふれ、いわゆる魔法陣となる。そこから伸びた光の帯が彼女を包み……カジュアルな私服が溶けるように無くなっていく。ややスレンダーなその体に巻き付くようにして光は増え、ついには足から腰、そして胸元へと上がり……首を通って頭まで。一言で言うなら、いつもの謎の光に包まれている。
え、謎の光ってなんだって? 正式名称がある? 知るかそんなもん! 旧世紀のアニメを見てこい!……と、いかん。見逃すところだった。
体のほとんどを光に包まれたミユキちゃんだけど、一か所だけそうでない場所がある。そう、それはおへそ付近。良く見ると絆創膏サイズステッカーだ。そこには……高瀬服飾店、とある。そしてステッカーの周囲だけ微妙に肌のまま。そう、全身を包む謎の光だが、スポンサーがついて広告が出ている部分だけは光が無くなり、眩しくて広告が見えにくいよねという理由で広告回りは光が無い……お肌が見えるのだ!
馬鹿じゃないのか? これ考えた奴良く捕まらないな! え、裁判もあって解決してる? ありがとう、調べとくわ。
「今日も元気に一本飲もう? スクスク牛乳の提供でお送りします、マジカルミユキ!」
「変身完了だモン!」
びしっとポーズを決めたミユキちゃん。身長ぐらいあるステッキを構える姿はかっこかわいい。だけど内心恥ずかしさに震えてるのを私はよく知っている。そうだよね、毎回違う広告を叫ぶのも面倒だよね、今日はマシだけど……なんだっけ、胸が大きくなるって噂の……。
「むう……恥ずかしい話をしてる気がする……」
おおっと。危ない橋はこのぐらいにして……来るぞ、ミユキちゃん!
「始まってるモン!」
見上げた先で、光がたくさん。それらはぶつかり合い、時に光線を撃ち合い、戦っている。そう、魔法少女は1人ではないのである。パレードと呼ばれる定期的な試合のようなもの……で戦うのだ。それには色々な成績があり、それに応じたポイントで露出時間が違う。念のためだが、映像としての露出時間、だぞ?
つまりは強くて順位が高ければ魔法少女が長く映像が流され、スポンサーの広告も長く目に留まり、利益が上がり……そしてさらにスポンサーがつく、というわけだ。ランキング1位の子なんかは変身時に無数の広告が広がり、ほとんど謎の光はなく隙間から体が見えそうで見えないなんて状況らしい。
本当にこれで問題になってないの? 裁判に勝ったの? え、やりすぎた17歳クラスが審査中? やっぱりかあ……18歳で魔法少女引退なのも、ガチになっちゃうからだよね、うん。やっぱり健全、さわやかさが大事さ!って状況が動き出したぞ!
「無駄弾は撃てないモン」
「外したら広告にならないんだよね……エアガンで練習しておけばよかったかなあ」
ミユキちゃん、練習でもエアガンは人に向けて撃っちゃいけませんよ? このパレードだと保護があるから怪我はないんだけど……ね。ともあれ、こそこそとじゃないや、見事に瓦礫の隙間を移動するミユキちゃんの視線の先では他の魔法少女たちの戦いが激しさを増している。
パレードはいくつかルールがあるけれど、今日は乱戦、何でもありだ。言うなれば魔法少女のバトルロイヤルだね。なかなか決着がつかないことが多くて、その分魔法少女たちの汗と涙、そして……。
爆音、続けてその原因である光線が当たった魔法少女がふわりと空に浮く。その衣装は……ぼろぼろになっていた。いわゆるダメージ表現ってやつである。そのままだと謎の光が覆っていくのだが、スポンサーがあるとそこを隠してくれるってわけ。これを悪用してわざとダメージを受けて広告の露出を上げようとした子もいたらしいんだけど、すぐ首になったんだって。視聴者、そういうのにうるさいからね。
「ランキング3位のアキちゃんが……今日はみんな強そう」
「だいじょうぶだモン! ミユキちゃんのアレが当たれば!」
激しさを増す戦い、そんな中で被害を受けている格上の魔法少女の姿に小鹿のように震えるミユキちゃん。くーっ、可愛い、可愛いぞ! ラブリーミユキ!って実況しろ? そうだね、私もそう思う。
今は相変わらず瓦礫を縫うように進むミユキちゃん。ちなみにこの街は仮想現実と電気刺激を応用した電子の町並みなんだ。だから実際にはこんなに壊された街はないんだよね。視覚だけじゃなくてちゃんと足場になったりするんだから科学の進歩ってすげーよ。ま、一番すごいのは魔法少女システムだと私は思うけどね! 賛同者募集中! え、実況? はいはい。
さあてミユキちゃんはどこかなあ……って、おいおい。もう乱戦のすぐそばじゃん! え、どうしたのミユキちゃん。今日は正面から挑むの?ってああ……いつものね、安心した。
すぐ近くでたくさんの光線が立てる音や、魔法少女たちの声が聞こえる。運が悪ければすぐに見つかるような位置。だけどミユキちゃんは無事に射程距離まで来た。そう、射程距離だ。
「魔力隠蔽実行……チャージ……順調だモン」
「うう、これ支払いも高いんだよねえ」
後のことを考えると頭が痛いのか、構えながらもミユキちゃんは涙目だ。そんな彼女の手の中にあるのはおおよそ、魔法少女という言葉から連想されないであろう物……携行できるサイズでは最大口径の……バルカン砲である。わからない人はネットで調べてほしい。
当然のことながら実弾は撃てない。その代わりに、チャージされた魔力を使って光線弾、もう線なんだか弾なんだかわからないけど無数のそれをばらまくのである。その威力は強力無比、射程や範囲も無料武器の中では最大。開発メーカーが貸し出しは無料、諸経費は広告費から差っ引くという特殊な武器。勝てば黒字にはなるという点で、駆け出しの魔法少女が結構使うのである。二度と使わない子の方が多いのだが。
その理由は……。
「敵も服もはじけちゃえ! 水玉バルカン……発射ー!!」
恐らく、恐らくだけど上空では魔法少女たちの悲鳴が響いていたと思う。それでも地上からはほとんど聞こえない。なぜなら、水玉バルカンの発射音はすさまじく、ドローンのボリュームも下げておかないと苦情が殺到するほど。その代わりに威力は申し分なく、次々と打ち出された光線弾が魔法少女たちに着弾していくとポイントが次々とミユキちゃんに加算されていく。
魔法少女たちのコスチュームも穴だらけ、水玉模様になって広告を展開しながら落下していく姿はなんだかシュール。そして犯人でもあるミユキちゃんは……ほぼ素っ裸だった。もちろん、謎の光が包んでいるのだが……水玉バルカンのデメリット、威力がありすぎて反動により使用者の服が消し飛ぶのである。
「ミユキ、やったモン! このパレードの一位だモン!」
「使えば勝つけど脱げちゃう武器なんて魔法少女らしくないよぉ……うわああん!」
涙の理由は後から引かれる諸経費が高い故か、それともがりがり削られていそうな乙女の尊厳ゆえか……頑張れミユキちゃん! 視聴者のお兄さんお姉さんはミユキちゃんを応援しているぞ!
「うれしくなーい!」
再現された青空に……悲しき魔法少女の叫びがこだました。
続くかは未定!