雑草とエリート
同棲中の達也がスポーツニュースを見ながら興奮した様子で私に話しかける。
「香織、見てみろよ! 凄いぜ!銀足農業高校が甲子園の決勝に進出したんだ! みんな、地元の選手なんだって! 全国から集めて来た寄せ集めチームの大阪桐陽なんかに負けて欲しいくねーよな!」
私はそれを窘めた。
「こらこら、銀足を応援するのはいいけど、桐陽を悪く言うのはダメだよ」
「だって全国から凄い選手集めて来たんなら強いのは当たり前じゃん」
「強さに当たり前なんてないんだよ。あの子らも中学三年の時はいい選手だったかも知れないけど、そのままで通用する程高校野球は甘くないよ。あの子たちもまた、いや甲子園出場を目標としてる高校の多い中、甲子園優勝を目標にしてる彼ら以上に汗を流した球児もあまりいないだろうね」
しかし、達也は少し言い淀んだが、続けて言い返して来た。
「でもさ〜、順当に優勝しても面白くないじゃん」
「見てる私達からしたら面白いで片付くけど、彼らも三年間を賭けてるの順当でもいいでしょ」
「銀足農業は地元のチームって感じて応援したくなるんだよなぁ」
「まぁ、それも分かるけど、アンタが中学生の頃を考えてみなさい。地元を離れて知らない土地で三年間1つのことに打ち込むのよ? それも身の回りの事も自分でやりつつね。それはとても覚悟のいることだわ。私はそんな覚悟を決めて野球に三年間取り組んだ子たちを寄せ集めやズルいとは思わないわ」
「そして、それだけ頑張っても報われないかもしれない、恐怖と戦って今あそこに立っている。立てなかった子の分までね。立てなかった子は地元を離れて親元を離れ、それでも届かずにメガホンを握ってチームメイトを応援してるの、想像できる?」
流石にここまで言うと達也は少し引いていた。
「お前、何もんだよ」
「しがない元マネージャーよ」
どっちも頑張れ。
日本だけなのか分かりませんけど、エリート集団は嫌われてますよね。
でも、高校スポーツにとってエリート集団も彼らなりに自分達が高校生の時と比べたらとんでもない覚悟を持ってやってるんですよね。
だから、高校球児って大人びて見えるのかな?