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ガラスの靴5

 小山の中腹、村までの道を雨に打たれながら駆け抜け、子どもはつい先ほどの体験を伝えようと口元を緩ませる。

 子どもの母親は近所のおばさんと家の前で話をしていた。小さな身体は母親の腰に抱きつき、驚いた母親は視線を子どもの頭に向けると、子どもの柔らかな髪を撫でた。

「お母さん!あのね、魔法見ちゃったよ!」

「まあ、本当」

「お墓でね、エマお姉ちゃんが座ってたの。エマお姉ちゃんの座ってたところがね、雪になってたの!エマお姉ちゃんは魔法を使うんだね」

「エマが?」

「魔法ってどういうことだい」

 おばさんは不審な顔で母親と目を合わせる。

 二人の様子に子どもは戸惑った。



 帰ってきたエマの姿にミーナは慌てて駆け寄った。

 雨粒は凍り、エマの髪や肩を冷やしている。

 ミーナはエマの頰に張り付いている氷の粒を払い、暖炉の側に座らせた。

「どこに行ってたの」

「お墓よ。でも、誰とも会っていないから大丈夫」

「それなら良かったけれど、気をつけなさいね」

「おばさん」

 キッチンへ向かおうとしたミーナの背に、エマは振り向き声をかける。

「ありがとう。おばさんとおじさんがこうして預かってくれなければ、私はいつまでもお父さんとお母さんのお墓に向かうなんて事は無かったかもしれないわ」

 口元を緩め、エマはありがとうと再び言うと頭を下げる。

「私たち、これからは家族じゃない。他人行儀に言わなくても良いのよ」

 ミーナは笑みを浮かべ、キッチンへ向かう。



 夜が更けてきた頃には雨脚はさらに強まり、夜が明けた今でも激しい音を立てながら降り続いている。

 薄暗い屋内で、ロウソクの火を灯しながらエルドとミーナ、エマは三人で朝食を摂っていた。

「今日は畑仕事は休みだな」

 銅でできたカップに並々注がれた温かな茶を飲みつつエルドは口を開いた。

「そうね」

「誰も外に出ないだろうし、エマ、一緒にエマの家の掃除でもするかい?ここに持って行きたい物を取るついでに」

「ええ、せっかくだから行くわ」

「よし、じゃあ早く朝食を済ませよう」

 食事の続きを摂っていると、戸を叩く音がして、ミーナは首を傾げながら戸の元へ向かう。

 顔見知りの人らが、そこには立っていた。

 話をよくする者、挨拶をそこそこ交わす者、その面々はバラバラである。

「何か用でしょうか?」

「エマはいるか?」

「ええ、居りますけど」

 ミーナが返事をするや、部屋へと押し入って来た。

「ちょっと、何ですか!?」

「エマは魔女だ、今の内に処刑をしなければならない」

 立ち上がっていたエルドは、エマの手を掴み、自身の背後に隠そうと移動させる。エマはエルドの衣服を掴み、人々の蔑むかのような視線を受け取ると俯いた。

「エマを寄越せ」

「それはできないな。なぜこの子が魔女だと言える」

 落ち着き払ったエルドの言葉に、声をかけた男は鼻で一笑する。

「墓場でエマが魔法を使ったと、見た子がいるんだ」

「あなた達は見ていないだろう。勘違いかもしれないな。エマは両親を失ってから、私たちと一緒に暮らしている。魔法なんてものを使った姿は見ていない」

「残念だが、お前たちの話は些か信用ならんのでな。洗脳されている可能性だってある」

「断る。洗脳などされていない!」

 エルドは服の裾を掴んでいたエマの手を剥がし、逃げろと叫ぶ。

 エマは躊躇う間も無く駆けていき、裏口の戸を開けると山へと向かう。

 逃げるエマを追おうと、数人が追いかける。身体の軽さから、エマは誰よりも速く樹々を縫い付けるように駆け抜け、腐った大木の洞に身を潜らせた。

 村人たちはこの山を熟知している。見つかるのは時間の問題だ。弾む息を整えながら腐葉土の香りを肺いっぱい吸い込みゆっくりと吐いていく。

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