ガラスの靴1
xx年前
廃城サンドリヨン。
建てられた際に王妃の名が付けられ、王と王妃は幸せに暮らしたと言う。
中は埃が気にはなるが、それ以外は全て城らしい立派な佇まいである。
男と女は、ひと気が無い事を確認すると、足音を立てて喋りながら散策を始めた。
「お宝なんてあるのか」
「この城は一代で終わったし、その後も泥棒は入っているでしょうね」
「じゃあ無いだろうね」
階段を上がり、沢山ある部屋を覗き込みながら移動を繰り返す。
女は一際広く、天蓋付きのベッドの部屋に入った。外の景色を一望できる窓があり、月夜が部屋を明るく照らした。
化粧台の上に飾られてある氷細工のような靴を見つけ、吸い寄せられるかのようにその靴の元へと向かう。
水晶の台座に誇りを被った別珍のクッション。その上の透明な靴に触れる。
指先の熱が奪われ、女は手を離す。
再び、手を伸ばし靴を手にした。すんなりと手の上に乗る靴は、氷に触れたかのように冷たい。
小さな足の持ち主だったのだろうか、女は履いていたブーツを脱ぎ、透明な靴が合うかどうか、足を入れる。
きつくて履けそうにもない。
「何しているんだ?」
「ああ、この靴、綺麗だから」
いきなり声をかけられ、驚いた女は慌ててブーツを履き直す。
「持ち帰れば良い」
「そうね。…何かあった?」
「銀食器はあったぞ、売れるかな」
「良かったじゃない」
女は麻の袋を広げ、台座と靴を入れていく。
「そろそろ出るか」
「うん」
…
xx年前
新しく、家族が増えた。小さな女の子だ。
女の子の成長と共に、住んでいる村の盗賊家業は無くなりつつある。
女の子の名前はエマと言う。
愛らしい顔立ちはころころと表情が変わり、よく笑い、よく泣くエマに家族は沢山の愛情を与えた。
エマは物置部屋の中の靴が気になっていて、両親によく問うていた。
「あのきれいな靴、はかないの?」
「エマ、あの靴はね、ママのママのママがお城から持ってきたの」
「ママのママのママ?」
「ひいおばあちゃんね」
「ひいおばあちゃん居ないよ?あ、エマがもらっても良い?」
「ええ。大きくなったらね」
エマは小さな身体で大きい喜びを表現する。その姿にエマの母は笑みを浮かべて見つめている。
エマが大人に近づいて来た頃、両親は揃って出かける準備をしていた。
「パパ、ママ、どこに行くの」
「あの大聖堂のある街に行くんだ」
この村にもある教会の本部だろう。
何度か商売を手伝うのに向かったことがあるが、道行く人々の敬虔さにエマは好んで行くような場所ではないと思っている。
「大聖堂の方から手紙を貰ったの。お土産買ってくるから、留守番お願いね」
「うん、二人とも、気を付けて行って来てね」
父親が大きな手のひらでエマの頭を撫でる。いくら大きくなっていても、頭を撫でられるのは照れ臭いし、嬉しい。エマは口元を緩めて父親を見上げた。
それから数日経っても、両親がこの家に帰って来ることはなかった。