シュネの日記1
心優しい魔女がおりました。
ある時は小さな青い鳥を子供たちの元へ、
ある時はお姫様を運命の人に出会えるように眠りにつく針を作り、
ある時はお妃さまの依頼に応えて、毒の入ったリンゴを作り、
ある時は陸の王子様との恋を夢見る人魚に脚を作る薬を与え、
ある時は迷子の子供たちにお菓子作りの道具を与えてお菓子の家を一緒に作り、
ある時は豊穣の祈りを込めてダンスシューズを作り、
ある時は乙女の夢が叶うようにガラスの靴を作り、
…
そんな魔女に恐れを抱いた人が居りました。
魔女が行った魔法や制作物の数々は、全て悪魔の所業である。魔女は悪魔に魂を売った売女である。
あんなに心優しい魔女を慕っていた人々まで、彼女を憎悪の目で見るようになったのです。
そんな彼女は、丸太に巻き付けられ、たくさんの人々に石をぶつけられます。
彼女の足元にある木の皮、おがくずに火が灯され、魔女の身体はたちまち燃え上がる火の中。
お前等を呪ってやる。
望み通り、魂を悪魔に売って、末代まで呪ってやる。
魔女は血涙を流し、すべてを呪います。
その怨恨が、魔女の作った道具たちにも取付きました。
それを恐れたある人は、魔女はペテンだ、こんなもの、神の御力には些末なこと。と仰います。
ある人のお言葉により、魔女の煤けた身体はばらばらに解体され、各地に隠されました。
ーこれは私が魔女について聞いた話をまとめたものだ。
私は数多存在する魔女の制作物のうち、妃に依頼されて作ったと言われるリンゴを手に入れた。さすがに食す勇気なぞないが…
見た目も、触れてみても、嗅いだ香りもリンゴそのものだ。
小さな口で齧った跡があり、瑞々しい。だが、その果実の色が紫色だ。
ただ、そのリンゴは腐る事なく人ひとりの人生以上、年月が経っていると聞く。
ーーシュネの日記より抜粋