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第二十八話 聞き込み調査

 殺された魔術師の名前はガイ・シャッテン。冒険者ギルドに所属する上級冒険者。今朝早く、ティエフ橋の上で、頭部を切断された状態で発見された。頭部は橋の下に落下していたのが発見されている。遺体はティエフ橋に近い衛兵詰所で保管中。

 副司令からの情報はそれだけだった。これでは犯人逮捕どころではない。


「まずは情報を集めよう」


 ディランたちは手分けして調査を開始した。

 ディランは遺体の検分。リューリンクとヴィダルは遺体の発見現場で、ゾマーは冒険者ギルドでの聞き込み、という分担になった。




 数刻後。

 ディラン、ヴィダル、リューリンクは司令部に戻ってきていた。とりあえず情報交換をする。


 まず、ディランがガイの遺体を調べた結果を報告する。


「確かに、首を一刀両断だったな。切り口から言って、多分風の魔術とかじゃない。刃だ。相当な達人だな。そして、妙なことに遺体にはあまり血液が残っていなかった」

「ほへぇー。っつか、なんで魔術じゃないって分かるんです?」

「細かいことは色々あるが、まあ骨の欠け方とか切断面の細胞の潰れ具合だな。やはりどうやっても、刃で斬る方が『雑』になる」

「な、なるほど……」


 大陸の平均と比べれば帝都の治安は抜群に良い。

 それでも、刃傷沙汰にんじょうざたは日常茶飯事であるが……さすがにそこまで死体や傷口には詳しくない。淡々と語るディランに、リューリンクは感心と恐怖を感じていた。


「そっちはどうだった?」

「あ、はいっ。野菜売りが市場に行く途中で遺体を発見したみたいっすねぇー。でも大したことは聞けなかったっす」

「現場に犠牲者の血の跡はあったか?」

「へ? まあ、結構なもんでしたよ。……ただ、そうか。首を斬り落とされた人間一人分の血と考えたら、少なかったっす!」

「被害者が、殺されてから現場に移動させられた可能性はあるか?」

「ええと……血の跡の様子からいって、余所から運んできたってことはないと思うっす!」


 これで、殺人者が何らかの方法で犠牲者の血液を持ち去った可能性がでてきた。

 リューリンクは少し嬉しそうだった。自分が集めた情報をもとに新しい事実を見つけるという作業が、とても楽しかったのだ。これまでの上官は、自分が調べてきた情報に、ここまで興味を持ってくれなかった。


「へへっ」


 にやにやし始めたリューリンクに次いで、ヴィダルが報告をはじめる。


「……当日、ガイは冒険者仲間の戦士と、ティエフ橋付近の酒場で深夜まで飲んでいたらしい」

「酒場を出て、下町の自宅へ戻る途中に殺られた、ってことじゃないっすかね」

「ふむ……その戦士の話を聞きたいな」

「そういえば、姐さん帰ってこないっすねぇー」


 冒険者ギルドと衛兵は、微妙な協力関係にあるといってよい。

 お互いに、町中での冒険シティ・アドベンチャーや罪人の追跡の際に利用し合うからだ。一方で、冒険者などは割りと平気で法を破っていくので、トラブルになることもある。

 とはいえ、公務で聞き込みにきた衛兵と喧嘩をするほど冒険者も馬鹿でない……そう判断して、もっとも調査が苦手なゾマーに担当させた、のだが。


「姐さんのことっすから、想定外のトラブルを引き起こしても不思議はねぇーっす」

「……だな」

「あ、そう……」


 悪い予感しかしない野郎三人は、急いで冒険者ギルドへ向うことにした。




 冒険者ギルドの建物は正門前広場にある。四階建ての重厚な建築で、年季を感じさせる建物だ。


 冒険者とはそもそも何か?

 魔獣退治や賞金首の逮捕といった暴力活動全般や、ダンジョンや未踏破地の調査といった探検活動、さらに個人的な事件調査(まぁ、浮気とか家庭内の犯罪などだ)の手伝いなど様々な仕事を個人またはパーティで請け負う、何でも屋である。


 引退した一流冒険者たちが設立した冒険者ギルドでは、依頼を分類して適切なパーティに紹介し、依頼人から仲介料をとっている。

 冒険者を経験や実績に応じて、初級、中級、上級、超級にランク分けするのも冒険者ギルドの権限だ。

 ちなみに、初級は『訓練を受けた一般人』でしかないが、超級ともなれば『個人で一部隊に匹敵する』戦力とみなされる。当然ではあるが、現代では黒級に到達できるのは魔術師か魔術器アーク使いだけだ。




 ディランを先頭に、衛兵たちは冒険者ギルド本部にやってきた。


「この建物は昔と変わらんな……っと!?」


 ディランはのけぞった。目の前の扉をぶち破り、男が吹っ飛んできたからだ。


「ぎゃああっ!?」

「ぐえっ」


 男は不運なリューリンクを巻き込んで広場に転がった。二人とも完全に白目を剥いている。


「……何だ何だ?」


 ヴィダルにリューリンクを任せ、ディランはギルドの中に踏み込む。

 (今は片側しかないが)両開きの扉の奥は、冒険者が待機するロビーになっていた。その他、受付窓口や依頼を張り出すボード、簡単な食事を出す店などが揃っている。


 が、いまやそのロビーは戦場と化していた。


「やっちまぇ!」

「このアマぁ……ぐえっ!?」

「かかってきやがれクソどもがぁ!」


 テーブルや椅子がなぎ倒されたロビーで、ゾマーは十人以上の冒険者を相手に荒れ狂っていた。


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