日本本土防衛線裏側篇 2 第1章 B-25襲来
みなさん、おはようございます、こんにちは、こんばんは、お疲れさまです。
統合省防衛局長官の村主葉子は、防衛局長官直轄部隊海上自衛隊旗艦[うねび]型イージス護衛艦[うねび]の士官予備室で、記者の取材を受けていた。
「連合国からの同時多発的な侵攻ですが、防衛局はどのような見解をしていますか?」
若い女性記者からの質問に、村主はコーヒーを飲みながら答えた。
「これだけの大規模な侵攻は、大日本帝国本土への大規模攻勢に出るための、陽動作戦と思われる」
「帝国本土への大規模侵攻ですか?ドーリットル隊による、東京空襲の事ですか?」
女性記者の言ったドーリットル隊の空襲とは、ジェイムズ・ハロルド・ドーリットル中佐率いるB-25[ミッチェル]16機が、航空母艦[ホーネット]から発進し、太平洋戦争で、初めて大日本帝国本土攻撃した空襲である。
[ヨークタウン]級航空母艦2隻[エンタープライズ]、[ホーネット]を基幹とするハルゼー提督指揮下のアメリカ海軍太平洋艦隊空母機動部隊が太平洋を横断し、日本列島(本州)東方海域に到着して、ジミー・ドーリットル中佐を指揮官として、B-25双発爆撃機16機は大日本帝国本土各地(東京、横須賀、横浜、名古屋、神戸等)に空襲を行った。
民間人に被害があったが、軍事的な戦果として、戦車工場、潜水母艦から航空母艦として改造中の[大鯨]が直撃弾で損傷し、アメリカ海軍空母機動部隊の駆逐艦、巡洋艦による砲撃で漁船を改造した特設監視艇隊に被害に出た程度だった。
しかし、大日本帝国軍民に与えた衝撃は、極めて大きかった。
そのため、陸軍が計画しているオーストラリアとアメリカ西海岸を結ぶ海上交通路遮断計画は一時停止され、ミッドウェー諸島攻略作戦が急遽立案された。
その後、ドーリットル隊は、中華民国の国民革命軍の支援を受け、大日本帝国本土爆撃を終えたB-25のうち15機が、中国に不時着し放棄された。
「その可能性は十分にあり得る。中国国民党と共産党は和睦した訳であるが、その後、いくつもの勢力に別れて、中国国内は大規模な内乱が発生している。完全な共産党の支配権になった満州に噴き出た原油は、国民党と、いくつもの勢力が支配権を獲得しようと武力攻撃を行っている。裏で連合国アメリカが支援している可能性もある」
村主は、給養員たちが作ったクッキーを1個摘み、口に運んだ。
「専門家たちの話では、光復軍による韓国(大韓共和国)侵攻の可能性もあると言われています。そのため、韓国(大韓市国)と大日本帝国との交通路を遮断するために対馬に侵攻するという話がありますが、その可能性は防衛局としては、いかがお考えですか?」
「その可能性は十分にある。対馬には山猫部隊の異名を持つ陸上自衛隊対馬警備隊と、帝国陸軍対馬要塞がある」
「ですが、対馬警備隊は歩兵で編成された歩兵部隊。良くても携行式対戦車火器と軽迫撃砲程度しか装備していません。これだけでは、敵が中戦車で侵攻してきたら、対処出来ないのではないですか?」
「その場合は、対馬警備隊は迎撃戦から遊撃戦に変更し、第8機動師団及び水陸機動団第3水陸機動連隊、第1空挺団第3普通科大隊からの統合編成された増援部隊が送られるまで時間を稼ぐ。それに帝国陸軍対馬要塞司令部には、歩兵隊だけでは無く、戦車隊もある。光復軍が中戦車で侵攻した場合も、十分な時間を稼ぐ事が出来る」
政治的な話が一段落したところで、記者は表情を和らげた。
「そう言えば、村主長官は、猫を飼っていると聞いています」
「ああ、飼っている」
村主は頷いた。
「そうなのですね。私も2匹飼っています」
「2匹か、それは賑やかなだな」
「最初は1匹だったのですが、1匹だけだと留守番させたとして寂しいではないかと思いまして、もう1匹飼う事にしました」
この件に付いては飼い主個人の考えであるが、本来猫は単体で行動する動物である。
しかし、同じ目的があるとか、1つの場所で留まっていたりすると、コミュニティを形成する場合がある。
あくまでも猫は単体で行動する肉食動物であり、特定の条件で集団を形成するだけである。
そのため、同じ部屋で何匹も猫を飼う事は、あまりオススメされていない。
しかし、飼い主個人の考えで、猫の多頭飼いが行われている。
猫自体が群れを形成する・・・では無く、その環境に素早く馴れているだけである。
群れを形成する猫のグループには、犬と同じくボス猫が存在する。
しかし、犬とは異なり、皆から選ばれた猫がボスになるのでは無く、力が強い猫や年功序列でボスが決定する。
因みに犬の場合は、狼と同じく強者がボスになるのはでは無く、民主的な方法で決定される。
皆から選ばれた犬が、ボスになるのである。
「私は、もう1匹飼うという考えは無いな。もう1匹飼うと猫に対する愛情が分散してしまう」
これも、飼い主個人の考えである。
多頭飼育が駄目という訳では無く、あくまでも飼い主個人の考えである。
2匹以上飼うと愛情が分散するという考えがあるが、実際はそうでない場合が多い。
2匹以上の多頭飼いを行った場合、飼い主は、きちんとそれぞれの猫に均等に愛情を注ぐ事になる。
猫の性質上、犬と異なり、あまりベタベタとされるのは嫌いである。
あくまでも自分の考えで行動するため、自分が甘えたい時だけに甘える動物である。
猫が、その気分で無い場合は、まったく飼い主に構う事は無い。
しかし、それは猫自身が飼い主を嫌いな訳では無い。
猫は、飼い主の事が、とても大好きである。
「うちの猫は、よその猫と違い。食い意地がすごい」
「そうですか、私の猫たちも同じですよ」
「いや、うちの猫は食い意地がすごい。私が食べているご飯を一緒に食べようとする」
「そうなのですか・・・」
「君の猫たちは、違うのか?」
「はい、私の猫たちは私が食べているご飯を、一緒に食べようとはしません」
これも、猫それぞれである。
猫によって、人間が食べているご飯やおやつに、まったく興味を示さない猫もいるが、その逆に人間が食べているご飯やおやつに興味を持ち、盗食する場合もある。
別に特別な事では無い・・・
その時、士官予備室のドアがノックされた。
「失礼します」
士官の1人が入室した。
「長官。緊急電であります。京都府と奈良県上空にアメリカ陸軍航空軍のB-25が襲来しました」
「何だと!?」
村主が、立ち上がった。
「それで、被害は?」
「はい、ビラを撒かれただけです」
「ビラだと・・・?」
村主は、直感した。
これは、ハワイ諸島占領作戦後に行われた菊水総隊航空自衛隊戦略攻撃航空隊B-52による。西海岸へのビラ撒きを、連合国アメリカが意趣返しとして報復した事になる。
「ビラの内容は?」
「不明です。そろそろ報告が上がる頃だと思います」
「わかった」
イージス護衛艦[うねび]のCICに移動した村主は、防衛局長官直轄部隊の統合運用部隊指揮官であり、麾下の艦隊司令も兼任している浅羽淳郷1等海佐がすでにいた。
「長官」
「状況は?」
「はい、先ほどB-25編隊が、呉基地に襲来したという情報が入りました」
「それで被害は?」
「呉基地には陸警隊の防空部隊が配置されていますから、基地上空に接近したB-25は、全機撃墜しました。しかし・・・」
「しかし、何だ?」
村主が、聞く。
「呉市街地に接近したB-25は、市街地に爆弾を投下しました。住宅街にも被害が及んでおり、各所で火災が発生しています」
「長官!隊司令!」
通信士が、報告した。
神戸、名古屋、大阪等の都市部にもB-25編隊が4機程度襲来し、爆弾を投下した。
「総務庁長官と、連絡を取ってくれ!」
村主は、通信士に告げた。
通信士が、コンソールを操作した。
ディスプレイの1つに、総務庁長官の香山省吾の顔が出た。
「防衛局長官。今は[うねび]か?」
「はい、[うねび]のCICで、空襲の詳細を聞いています。首都圏の被害は、いかがですか?」
「うむ。今のところ、東京府内に対する空襲は無い。総務庁消防本部長官の指揮下で、災害援助隊が編成された。東京府内を管轄している水神団から救助隊、救急隊、消火隊を引き抜き被災地域への救助、消火、救命活動を行うよう指示した」
「東京府が、空襲されていない・・・?」
「どうかしたか?」
「長官。恐らく連合国アメリカ軍は、東京府への大規模空襲を計画しています。水神団の全部隊の緊急出動態勢を整えて下さい」
「東京府への、大規模空襲だと・・・?」
「はい、アメリカ軍がここまで行って、東京府だけを見逃すはずがありません。必ず東京府への空襲の可能性があります!」
「うむむ・・・」
香山は、悩んだ。
「その根拠は?」
「私の勘です」
勘だけで、東京府内全域に非常事態宣言を出すというのは、非常に難しい事である。
だが、村主としては、他に言う事は出来ない。
「わかった。水神団全部隊に非常事態宣言を出すよう消防本部長官に指示を出そう。破軍集団自衛隊に災害派遣要請を出すが、よろしいか?」
「はい、破軍集団陸上自衛隊第1師団の普通科部隊に、被災者や避難者の救助及び避難誘導を行うよう指示します」
村主としては、自分の勘が間違っているとは考えていない。
自分の勘は、よく当たるだけでは無く、こう言った場合の勘は悪い意味で良く当たるのである。
彼女が破軍集団陸上自衛隊普通科部隊に被災者の救助及び避難者の避難誘導を指示したのは、これからの東京府への攻撃は、航空機による空襲であると予想しているからだ。
そうなった場合、普通科の装備では対処出来ない。
主に高射特科部隊が主体となって、爆撃機に対処しなければならない。
「では、お互い仕事があるようだから、お互いに頑張る事にしよう」
そう言って香山は、テレビ通信を切った。
「長官」
「何だ?」
「少し気分を変えましょう」
浅羽の言葉に、村主は腕時計を確認した。
「そうだな。今のうちに食事をすませておこう」
「艦長。夜食の準備だ」
浅羽の指示で、給養員長に夜食の準備にとりかかるよう指示が出された。
こんな状況下で、戦闘状態になったら、緊張や不安等で乗組員たちがまともに戦う事が出来ない。
[うねび]の士官予備室では、報道各社から派遣された記者たちが詰めていた。
『配食はじめ』
アナウンスで、食事の時間を知らせる放送が流れた。
「うん。飯か・・・?」
「何が、起こっているのでしょう?」
村主に取材を行った、若い女性記者がつぶやいた。
「決まっているだろう。戦闘が差し迫っているんだよ」
「戦闘が差し迫っている?」
「そうだ。夜食としては時間が早い。通常、海上自衛隊の給食は1日3食だ。夜食というのは特別な事情がある時に配食される」
「そうなんですか・・・」
「そうだ」
「じゃあ、帝国本土が攻撃を受けているんですね・・・?」
「そうだろうな」
「この[うねび]も、戦闘をするんですね・・・」
「だとしたら、スクープだ」
コンコンと士官予備室のドアからノック音がした。
「失礼します。夜食の時間です」
広報の士官が、現れた。
「おっと、待っていました!」
記者の1人が、笑顔で応じた。
「夜食はカレーライスです」
「豪勢ですね」
記者が、つぶやく。
2人の記者の前に、カレーライスが乗せられたトレイが置かれる。
「あれ、具が無い・・・?」
男性記者がぼやく。
「これってレトルトカレーですね・・・?」
女性記者が、つぶやく。
「すみません。戦闘が差し迫っているので、レトルト食品で我慢してください。これから、しばらくは食事が出来ませんから」
広報の士官が、申し訳なさそうにつぶやく。
「まあ、定番な味を楽しむのもいいかな」
男性記者が、スプーンを持つ。
夜食のメニューは、レトルトカレーと中華スープである。
「うん。美味い」
記者は、豪快にカレーとご飯を絡ませて、食べている。
「レトルト食品でもカレーはカレーだ。それなりに美味い」
女性記者も、カレーをスプーンで口に運ぶ。
「定番な味ですが、こういうのもいいですね」
「そうでしょう。[うねび]で作られるカレーも最高ですが、たまにはこういった定番な味もいいんですよ」
話によれば乗組員たちは、[うねび]で作られる料理も最高であるが戦闘配食の缶飯やレトルト食品だけでは無く、おにぎりも人気である。
特に戦いで疲れた時に出る塩おむすびは、最高である。
疲れがとれ、次も頑張ろうという気持ちになる。
「自衛隊のレトルト食品は安物と聞いていたけど・・・これは、かなりいいものを使っているな。さすが、海上自衛隊は予算がある。陸上自衛隊とは違う」
記者の言葉に、広報の士官が苦笑する。
「その言葉はありがたいんですが、このレトルト食品は、同じ食品会社から購入していますから、陸自、海自、空自もまったく同じ味付けですよ」
「そうなの?こんなに美味しいのに?」
「それは、一種の思い込みによるプラシーボ効果のような物かと思います」
「ま、まさか、俺はカレーの味にはうるさい方だから、カレーの味はわかるんだよ。このレトルトカレーは少し高い物を使っている。賭けてもいい」
記者は、自信満々に告げた。
一方の女性記者は、黙ってカレーを食べていた。
これがレトルト食品の、どのレベルかと言うのはどうでもいい。
「でも、やっぱり、カレーはレトルトよりも手間暇をかけて作った手作りの方がいいですね」
「あ、わかります。自分も、そうなんですよ」
広報士官が、うんうんと頷きながら、同意する。
日本本土防衛線裏側篇2 第1章をお読みいただきありがとうございます。
誤字脱字があったと思いますが、ご了承ください。