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ネコ耳ばすた~ず The Bridge 弐  作者: 七海玲也
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悲しき境地の旅人

「これは……一体なんだにゃ!?」


 目の前に見える大きな結晶体の中に女性が佇んでいる。身に纏うというより、完全に覆われ包み込まれていた。


「そうだ、これを見てもらいたかった。

 これを見て何を感じた?」


 何をと言われても、何故このような状態になったのか不思議でならない。

 しかし、感じると言われれば相当な魔力の波動が伝わって来ている。


「もしかして、これって魔法でなったにゃ?

 だとすると、ものすごい魔力で作り上げたことになるけど……」


 こんな結晶体を作り上げるなら、数人の魔力をもってやっとのはず。


「分かるのはそれだけか?

 なら、これならどうだ?

 明日菜(ア ス ナ)、少しやってくれ」


「いいけど、少しだよ?

 ヤバそうなら止めるから」


 明日菜が結晶体に近づくと右手で触れた――刹那、結晶体は目映いばかりの光りを放ち、明日菜の伸ばした腕を伝っていく。


「うそっ!?

 まさか、この結晶体って!」


 私の驚きで悟ったのか、流騎 (ル キ)が明日菜を引き離した。

 その場に座り込む明日菜は息も荒く疲れきっているように見えるが、私に目で訴えかけてきた。


「これは、この人自身の魔力で作り上げられてるにゃ!

 でも、どうして……

 明日菜は大丈夫かにゃ?」


「私は平気よ。

 やっぱり流騎の思ってた通りね」


「悪いな、明日菜。

 ミィ、間違いないんだな?」


 私は頷き、一つの質問を返す。


「今ので少し分かったけど、明日菜は魔力を吸収出来るのかにゃ?」


「うん、そういうことよ。

 体質というか、何かを唱える訳でもなくね」


 魔物との戦いと魔力の流れで分かったことだが、私たち亜人に近い体質なのかも知れない。


「それでだ、これからこの人を出す方法はあるのかを知りたい。

 明日菜の魔力吸収では出来なかった。

 だからオレ達は、その方法を探している」


 ようやく全てが繋がった。しかし、方法となると私には答えが見つからない。


「どっちにしろ、吸収するのは止めた方がいいにゃ。

 この人から出てる以上、ただ、傷つけてるだけにゃ」


「そうだな。

 それが分からなかったから試していたが、やはり破壊する方法しかないのか」


 それしかないのか、この女性自身から出ているのに破壊すら出来るのかも怪しいと思う。


「破壊って言っても、どうしてこの人はこんなことになってるにゃ?」


「それは……」


 話したくないのか、急に流騎が口ごもってしまった。


「流騎が話さないなら、私が話すわ」


「明日菜!」


「だって、そうでしょ!

 今まで旅をしてきて分かったことはなに!?

 もう私達だけの手じゃ無理よ!

 魔力、魔法に詳しい亜人なら何かしらの手掛かりが掴めるかも知れない。

 だったら全て話してみよう。

 それで駄目なら仕方ないじゃない」


 明日菜の強い姿勢にただ黙って見ているしかなかった。

 彼らの旅も大変だったのが容易に感じ取れるが、それほどまでに彼女を出そうとしている理由は見当もつかない。


「この人は自分の魔力でこれを作ってるのに、なんで出したいにゃ?

 悪いことでも企んでるにゃ?」


 この二人がそんなことをするとは思っていないが、それくらいしかもう分からなかった。

 しかし、言った言葉が悪かったのか、流騎が怒りに満ちた表情で私の胸ぐらに掴みかかってきた。

 

「彼女が、彼女が何をしたって言うんだ!

 オレは!」


「流騎!

 止めなさいよ!

 ミィは何も知らないのよ!

 貴方のことも、彼女の事情も」


 私と流騎の間に割って入ろうと、明日菜が涙を浮かべながら必死に訴えている。

 その言葉が届いたのか、私を掴む手は徐々に力を失っていく。


「悪い、ミィ。

 乱暴にしたな」


「いいにゃ、いいにゃ。

 思ってもないことを口にしたわたしも悪いにゃ」


「ごめんね、ミィ。

 彼女はね、ルキのお姉さんなんだ。

 だから、是が非でも助けてあげたいのよ」


 そんなこととは露知らず、軽く言ってしまったことには反省した。

 ここに来てまでも、私と同様に家族の間で悲しい目に合っている人と出会うとは、なんという廻り合わせなのか。

 

 流騎は私に背を向けゆっくりと姉に近づくと、結晶体に手を差し伸べた。


「オレの……家族の問題だから。

 ミィには関わって欲しくなかったんだ。

 だが、もう何年経とうが何もかわらない。

 今は少しでも手段の手掛かりが欲しい。

 聞いてくれるか?」


「うん、そういう時の猫耳バスターズにゃ。」


 流騎の背中に笑顔で応えると、明日菜は私の手を優しく握ってきた。

 何か私に出来ることがあるか分からない不安は、それによって小さくなっていった。





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