厄介事がまた一つ
轟音が鳴り響き、それが目覚ましの合図だった。
「なんだにゃ!?」
飛び起きるとはまさにこのことだろう、滅多に体験できることではないが、こんなに心臓が高鳴る起き方はもう二度としたくはない。
「爆発?
それにしてもおっきすぎるにゃ」
普通の爆発ではこんな揺れまで感じることはない。強力な魔法だろうと思った矢先、またも轟音と揺れ、更には天井まで崩れだし少しばかり日が射し込んできた。
「こっちに地下があるぞ!」
先程までの騒ぎが嘘のように静かになると、大声と共にいくつかの足音が聞こえてくる。
聞いたことのない声に身を固くして相手を見定めようとすると、好青年といっていいだろう若者と美少女と呼ぶに相応しい二人が姿を現した。
「誰にゃ?
私に用かにゃ?」
「これは……お宝とは呼べない、か。
むしろ、厄介事か?」
青年が苦笑いするのがはっきりと分かった。
「でしょうね。
どうするの?」
美少女も苦笑いで返すと二人で私を見つめている。
「よし!
見なかったことにしよう!」
青年が顔を背け引き返そうとしている。
「ちょっと待つにゃあ!!」
「ちょっと待ってよ!!」
私と美少女の声が重なると流石に足を止め振り返る。
「助けてくれないにゃ!?」
「えっ?
なんで?
お宝じゃないしさ、どうみても厄介事に首を突っ込むだけになるだろ」
そうだろうけど、普通は助けてくれるものじゃないかと思う。
私は少女に訴えかけるよう黙って見つめると、目が合い頷いてくれた。
「そりゃそうかも知れないけど、助けてあげるのが普通でしょ?
私より可愛くないけどさ」
何か今、聞き捨てならないことが聞こえた気がする。違和感というかなんというか。
「ん、可愛さならどっちもどっちだなんだが。
まぁ、明日菜がそこまで言うなら。
仕方ない、助けるか」
あからさまに仕方ない感じで私に近づくと、腕を掴み手枷に剣先をあてがった。すると、金属音と共に両手が自由になり足枷も同じように外してくれた。
「あ、ありがとにゃ。
そうそう、わたしは――」
「待った!
オレは助けただけ!
名前なんざ聞きたくない。
あーーーー聞こえなーーい」
「にゃ!?」
名乗ろうとした瞬間の出来事だった。耳に手を当てそっぽを向いてしまっている。
「ちょっと、流騎!
名前ぐらいどうってことないでしょ!
ホント、あんたってば子供なんだから」
「ま、まぁまぁ、いいにゃ。
わたしは別に一人で大丈夫だし、恩を売るつもりでもないから」
立ち上がりアスナに笑みを返すと、困惑した表情を浮かべ私の周りを歩き出した。
「ねぇねぇ、これって本物?
人間じゃないんだ?」
「痛い!
本物にゃ。
わたしは亜人、人猫なの」
私より背の低いアスナは、物珍しそうに足の先から頭まで舐めるように見上げたりしている。
「ねぇ、流騎。
彼女から話聞いてみない?
亜人なんて珍しいしさ、悪い感じじゃないんだから少しくらいよくない?
お宝に繋がるかもよ」
「ほらな、そうなるだろ?
だから、行こうとしたんだよ。
珍しいからこそ、厄介な理由があったりするのによ」
「お願い流騎!
一生のお願い!」
「お前の一生は何回あるんだよ……
分かった分かった。
少しだけだぞ」
どうやら話は纏まったらしい。
朝食をご馳走してくれると言うと、既に外は安全だから行こうと誘ってくれた。
「んで、あんた名前はなんて言うんだ?」
「わたしはミィ。
人猫のミィにゃ」
日は登ったばかりらしく、朝陽がやけに眩しかった。




