第6話 覚醒
グルァァァァァァ!
竜の咆哮が止まらない洞窟を俺は逃げ惑っていた。
普段なら突っ込むところだが、この竜にはメテオスマッシュという状態異常攻撃があるのだ。すでに俺はこの技を一度食らい、防御力が1になっていた。
「シロナ!しっかりしろ!」
さらに、普通ならもっと全力で走り、隠れるなりしてやり過ごすのだが、シロナがボーッとしたまま動こうとしないのだ。
俺は仕方なくシロナを抱きかかえると、そのまま全力で走り、岩陰に身を隠した。そして、シロナを横たえると、ビンタした。
「痛い!」
シロナはすぐに飛び起きた。
「何があった?戦闘中にボーッとするなんてお前らしくないぞ?」
「ごめん……」
シロナが謝った!なんだと?そんな馬鹿な⁉︎
「本当に何があった⁉︎」
待てよ……こういうのラノベやギャルゲではフラグなんじゃないか?トラウマ克服イベント……それだ!
そういえば魔王が言ってたじゃないか!目的を果たせとかなんとかシロナに向かって……
「昔なにかあったのか?」
俺は究極の質問をする。
「!!」
シロナは顔全体で驚きを表していた。
「なんでお前がそれを知っている?」
「風の噂っていうやつだ」
俺は適当にごまかした。
そして畳み掛ける
「なんか悩みとかあるんなら、俺に相談してみろよ。役に立つぜ?」
「お前は頼りにならん」
俺は結構いい感じに言ったはずなんだが断られてしまった……仕方がない。奥の手を使うか。
「じゃあ言わせてもらう。今のお前であの竜が倒せるのか?言っておくが、今のお前は足手まといだ!だから俺が死なないためにも、お前の悩みを言ってくれ」
ズルいとはわかっているが、こうするしか方法がなかった。いつ竜にバレるか分からないからな。
「ぐっ……ッ!」
案の定シロナは悔しそうに歯噛みしながらもぽつぽつと語り出した。
10年前、シロナ宅、誕生日パーティーにて
「シロナ、お誕生日おめでとう!」
「「おめでとう!」」
「ありがとう!」
私は、今年で10歳になる。自分の誕生日パーティーに来てくれた友達と喋りながら、ケーキを食べていた。
私は今日をすごく楽しみにしていた。誕生日だからということもあるのだが、今日は、両親にプレゼントを買ってあるのだ。
少ない小遣いのほぼ全ての金を使って買った赤い花。私は両親にプレゼントを渡すタイミングを見計らっていた。
「ねえねえシロナ。なんでさっきからソワソワしてるの?」
勘のいい友達が私がソワソワしていることを見抜いて声を掛けてきた。
「ト、トイレだよ!トイレ!ずっと我慢してたんだ!行ってくるね!あはは……」
私は頑張ってごまかしながら、トイレに入った。便器に座ってタイミングを見計らっていると……
ズゥゥゥゥゥゥゥゥン
凄まじい音がした。何かが落ちてきたような音。
私はビックリしながらも、恐怖でその場を動けなかった。
しばらくして音が収まったので私はトイレを出ようとしたのだが、なぜか扉が開かない。仕方がないので、扉を蹴破る。
一応魔人なので脚力や腕力などは他の種族に比べだいぶ高い。
扉を出ると、そこにはこの世のものとは思えない光景があった。何もなかったのだ。あったのは瓦礫の山、そして人の形をした肉塊。
「え?何これ?さ、サプライズなのかな?」
私は声を震わせながら、肉塊に向かって歩き出す。
近付くと、その肉塊はなぜかさっき友達が着ていた服を着ていた。他にも、妹の服、お父さんの服、そしてお母さんの服……それぞれさっきまでみんなが着ていた服を着た肉塊が鎮座していた。
「嘘だよね?ママ?パパ?そうだ!今日はママとパパにプレゼントがあるんだ!そんな意地悪したらあげないよ!結構高かったんだから!だからさ……出てきてよ。出てきてよ。出てきてよー!お願いだよ!お願いだから!プレゼントあげるから!ねぇ。ねえ!ねえ………………………………」
私の手からプレゼントの赤い花がポトリと落ちた。
こんなのないよ。ありえない。
「誰がやったのか知りたいかい?」
私の後ろから急に声が聞こえた。男の声だ。
「知りたい!」
私は誰でも良かった。これをやった犯人が誰かを教えてくれるなら、誰でも良かった。
「知ってどうするんだい?」
どうする?こんなことをやった犯人は許せない。復讐してやる。
「殺す!」
私は即答した。
絶対に殺してやる。
「なるほど。それをやった犯人がさっきの竜だったんだな?」
俺はシロナの話を聞いて激怒していた。
シロナはいつの間にか涙を流していた。
「なら、殺してやろうぜ!あの竜を!シロナを苦しめたあの竜を!」
「無理だ!あんな奴に勝てるわけがない」
「やってみなくちゃわからないだろ?」
「分かるよ!クロア程度じゃどうしようもないんだよ!」
「なら!俺で足りない分だけお前が補え!シロナ!」
「無理だよ……」
それでもシロナは涙を流して無理だと連呼している。
「無理なんてことはない!なら俺がその常識を覆す!お前の痛みは……俺が断ち切る!」
シロナは俺の方を少し見ると、
「そんなこと言ってくれたのはお前が初めてだよ。クロア」
そして少しの間が空きシロナはついに決意した。
「やって見よう。無理かもしれないけどやって見よう!そして絶対生きて帰ろう!」
シロナは覚悟の言葉を口にした。
「それはフラグだぜ?まあいい。頑張ろう!」
「ああ」
突然、シロナの体が輝きだした。
シロナのウィンドウが書き直されていく。
名前 シロナ
LV35
性別 女 職業 剣士 属性 無
称号 バトルマスター(あらゆる武器を装備出来る) 覚醒者(スキル「覚醒」を覚えられる) 壁を越えたもの(スキル「超越体」を覚えられる)
基本ステータス
体力 1000
魔力 500
攻撃力 2500
守備力 900
スキル
武器の道(あらゆる武器の技が使える)
覚醒(1日に一度だけ使える。3分間のみ基本ステータス3倍)
超越体(自分よりレベルの高いモンスターとの戦闘時、基本ステータス2倍)重力操作LV1
武技
雪月花
ロスト・ゼロ
マジかよ!ここで覚醒か!
「勝てるぞ!」
「ああ!やってやろう!」
いまだに洞窟には竜の咆哮が轟いていた。
しかし、今は怖くはない。
俺は戦いが始まる高揚感に身を委ねた。
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