00~始まりの物語~
Shalckです。
楽しんで書けたらいいと思っています
伝承。それは数多の人々が知る、世界を救った英雄の話 。
英雄の残した様々な偉業を、後の人々に語る文献としての伝承。
そして、英雄自身のことを伝承と呼ぶ。
多くの者は伝承になるために努力し、その身をその道だけに費やした。だが最後の伝承が出たのは500年以上昔の話だ。次第に伝承を目指す者は減って行き、いつしか伝承よりもその血を継ぐ者を重要視していった。
伝承を継ぐ者──伝承継承者を。
伝承の血は有能であり、その全てが同等とはいかないものの才能を継いでいた。
それ故に国で重宝され、見つかればまず騎士団に入団させられる。その後はその才覚を出していき、騎士の中でも有数の権力を持つ者となるのだ。
それ故に次々と名乗りを上げていく……わけではなかった。
才能があるからと言って、戦うだけが全てではない。伝承継承者は自ら名乗りを上げることを禁忌とし、その名を伏せて暮らしていた。
伝承を目指した者は継承者を求めるようになり、いつしかその存在すら伝説の存在となっていく。
故にもしもこの本を呼んだ伝承継承者がいるのならば、名乗りをあげて欲しい。私は伝承を、求めているのだから。この混沌とした世界を、救ってくれる勇者を。
読んでいた本を閉じて、私は笑みを浮かべた。
「伝承継承者。彼らを探さないといけないわね」
世界を救えるのは伝承継承者以外にいないだろう。今この世界は、多くの災害にあっている。その原因は、どこかにあると言われる特異点の封印が弱まっているからだ。
かつてこの世界は、今のように災害に飲み込まれていた。だけどそれを止めたのが、伝承である剣聖アルヴィド様だ。
アルヴィド様はその力を込めて特異点に災厄を封印し、もう二度と災厄が世界に現れないようにした。
だけど今、その封印が弱まってきているらしい。これが人為的なものなのか、自然の何かが関係しているのかはわからない。
ただそのせいで、この国の民が傷ついているのは明白だった。
「ラウラお嬢様、お時間でございます」
「わかっているわ。ピースクラフト」
自分が持っていた伝承継承者の本と、魔術について書かれた本を持ってから、私は部屋を出た。
そこには私の執事をしている初老の男、ピースクラフトがいて挨拶をしてくる。
「おはようございますお嬢様。本日の予定ですが──」
「もちろん把握しているわ。変更点があったら言ってちょうだい」
変更点はないのだろう。黙ったピースクラフトと共に、教室に入った。教室と言っても教わるのは私だけで、講師も一人だ。
「お願いします、先生」
「では、今回はおさらいから入りましょう。魔術を使う仕組みについてです」
魔術。それは戦いなどで使用される異能の力だ。戦い以外にも使用される例は多いが、今は戦いのためのものを習っているからそれでいいでしょう。
魔術とは体内に存在する魔力を自分の考えた形に変形させることで、使うことができる。この魔術を使用するには高い魔力と、高い創造力があるほど強くなる。
だけどどうして私がその魔術を習っているのか。これでも私は国王の娘。次期王女としての王位継承権を持っているの。
でも今の世の中はさっき言った通り危険な状態。凶暴化した魔物がいつ襲ってくるかわからないのに、自衛の手段を一つも持たないのは危ないでしょ?
だから私はいつか来るかもしれないその時のために、自分の技術を学び続けている。お父様はあまり必要ないと言ってるけどね。
「魔術は体内に存在する魔力、通称マナを媒介として自分の空想を具現化するものです。創造力が高い程確実に、魔力が高い程強い魔術を使うことができます。しかし新たな魔術を考えるのはたいへん難しく、それ相応の創造力を持っていなければなりません」
「その通りですね。では、今日はラウラお嬢様の得意な風魔術についてさらに高めましょう」
「確か、五つの属性を考えることによって威力が上がるというものでしたよね?」
「そうです。五つの属性、即ち火、水、土、風、雷の中でも風は土に強く雷に弱い性質を持っています」
つまりそう言うことだ。属性の強弱が魔術を強くする。他にも合成魔術を使用する時はその割合を変えることで、威力や新しい属性を作ることができる。
こういう割合とかが重要だからこそ、色々なことを考えないとならない。魔術とは割と難しいの。
魔術の授業が終わったら、次は槍術の訓練がある。槍術の才能は結構あるみたいで、割と頑張ってるけどそんなに簡単にうまくなれる訳が無い。日々の積み重ねが重要だ。
そんなわけでやってるけど、もう先生も倒して免許皆伝だって。だから自分でその技を磨きながら訓練してる。
魔術と槍術。この2つが今の私の生き残るための武器だ。それだけで生き残ることができるのかと聞かれたら微妙かも知れないけど。
生きるためには力が必要。だから私はもっともっと自分を高めなきゃダメだと思う。
そんなある日のことだった。
私がいつも通り槍の訓練をしていると、お父様の声が聞こえてきた。
「あの町ももうダメか……」
「はい。グスタンフィアの近くにあった火山が噴火。町を呑み込む土石流で町の人口のほぼ全員が死亡。生き残っている人々を救出しようにも、地殻変動によって島のようになってしまっていて海を通るしか……」
「我が軍の海軍は既にカロスの救援の為に出払っておる。救うことはまず無理か……」
「陛下、お気を落とさないでください。陛下のせいではありません。今世界は、混沌の時代へと向かっております。どれほど栄華を誇った町であろうと、自然の力に抗うことはできません。それに、既に10万人の人々を王都に招いているせいで王都も食料難となり始めています。これ以上、この町の人々を苦しめることはできません」
知らなかった。いつか世界を救うために伝承継承者を集めなければならないとは思っていた。けれど、現実は非情だ。
私は結局思っていただけで、動こうとはしていなかった。
その結果がこれだ。既に国は満身創痍で、これ以上無いほどにズタボロだった。なのに私はまだ大丈夫と一人稽古を続け、王族らしい嗜みを行い、満足のいく食事を食べていた。
私はどれほど愚かで、浅はかな人間なのだろう。
「今すぐでも探さなきゃ……」
私は槍術の訓練を繰り上げてやめると、すぐに自分の部屋に戻った。お父様達にバレるわけには行かない。バレれば連れ戻されてしまうのは明らかだからだ。
部屋の中を探し、師匠から免許皆伝で貰った槍を袋で包み服を軽装の防具に変える。
そして袋に荷物を入れてから問題が発生した。
「どうやって城の外に出よう……」
馬鹿だった。何一つ考えていなかった。
「お嬢様、少しよろしいですかな?」
ビクンと体が震えるのが分かった。ピースクラフトだ。
「え、えぇ。どうぞ?」
入ってきたピースクラフトは、焦げ茶色のローブを持っていた。それを見てなんで持っているのだろうという感覚に陥った私は普通なはずだ。
「お嬢様。お嬢様が旅に出ようとしていたことは、わかっていました」
「えっ?」
「お嬢様は責任感が強いお方です。いつか民を救うために旅に出ようとし、その為に力をつけようとしていたことは察しがついていました。長年執事をしているのでね」
少し笑みを浮かべているピースクラフトは、まるで我が子を見るかのように私にローブを差し出した。
「このローブは一時間だけ透明になることができるローブでございます。行商人から仕入れました。魔装具の使い方はお分かりになりますね?」
「ピースクラフトあなた……」
「お嬢様と一緒にいる時間、とても楽しくございました。再び出会うその日まで、お嬢様の代わりにこの王宮は守りましょう。ですから、安心してお旅立ちください」
ピースクラフトの言葉に私は頷いた。ピースクラフトの実力は私も知っている。私が一度も勝ったことが無いほど強い。
「私は必ずこの国を、世界を救って見せるわ」
「はい」
笑顔で答えたピースクラフトを見てから、私は走り出した。必要な荷物は全て持った。あの部屋にはもう物は殆ど無価値なものばかりだ。
「魔装具発動」
魔装具の発動方法は簡単だ。魔力を通して発動と念じるだけ。だけど言葉にした方が発動はしやすい。今回は相手からの見られ方なので、自分からは発動してるかがわからない。だから、私は声に出して確実に発動できるようにした。
だけど発動しているかは、相手の反応を見なければならない。
近くを通った兵士を一瞥したけど、私に気付いた感じはなかった。見向きもしなかったし。
「よし」
門番をくぐり抜けて、私は外に出た。魔装具の透明化を解除してから、ローブのまま辺りを探す。これからどうするのか決めないと。
「まずはグスタンフィア方面かな……。でも私だけじゃ力不足だし……」
そのまま私は歩き出した。
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