会長視点その1
「初凪イズミ。お主……生徒会に入らんか?」
そう私が口にすると、私の目の前で腰をかける未だその顔つきに僅かに幼さを残し、少し癖のある髪をした少年は、呆気に囚われるとは正にこのような状態の事を言うのだろう、実に愉快な表情を作る。
笑いを堪えるのが実に大変だの。
とはいえこうなるであろう事は予測して――いや、確信しておった。
そもそも生徒会というものは同じ学院生でありながら、ある種の特別な地位にある。さらにこの学院においては、生徒会とは一種のアイドルグループのような評価を受けておる。今朝の朝礼を見たであろう? いつもあんな感じだの。もっとも私の人気と比べると生徒会連中はいささか劣るがの。
そのような評価を受ける生徒会へと誘われれば、学院生ならこのような反応は至極当然というもの。よって――
「とはいうものの、すぐに返答は出せまい。今宵一晩じっくりと考え、明日のこの時間に返答を貰おうかの」
――このように続けるのも当初から折込済みだの。
その後初凪イズミはカクカクと頷くと、どこか頼りない足取りで生徒会室を出て行きおった……大丈夫かの、あやつ。
ふむー、と思考の1割程を回してその様なことを考える。
「それで会長ー、どうでした? まあ、あの様子だと当たりなんでしょうけどー」
先ほどまで、初凪イズミが退室した扉を見ていた高宮ツトムが、こちらへとくるりと向きなおし、私の思考の9割を占めている事柄についてやや間延びした口調で尋ねてきおる。
「そうですね、私もあの反応は間違いないと思います。現実味が薄いせいで、あのように返してきたと思えますし」
もう一人の生徒会役員、星空ミカも少しずれたのだろう、眼鏡をくいっと合わせながら、やわらかい声色で同意を示す。
「……そうだの」
私もそこについては2人に前面同意をしておる。
「会長にしては珍しく歯切れが悪いですね? どこか気になる点でもあったのですか?」
気になる点……それは確かにある。しかし生徒会勧誘は私の仕事ではあるが、それ以外はこやつらにまるっと任せておるしの。さて、どうしたものか。
ふむー、と再度唸る私を2人は頭にはてなマークを浮かべ首を傾げる。ミカはその容姿も相まって、首を傾げる様が実に可愛いの。
結局私は、私の仕事だけをし、残りはいつもの如く皆に放り投げることにした。本来ありえない事柄であれど、実際に起こりえたのならそれは事実であるし、こやつらがどう行動するのか楽しみだの。
にやり顔へと切り替えた私を見て、2人は怪訝そうな表情を浮かべる。
「それがの。あやつから一切……『コード』を感じなかったのだ」
「「…………え!?」」
私の言葉を受け、2人の表情は疑問から驚きへと瞬時に切り替わった。
それもそうだろう。今までの私達の通例では、そんなことはまずありえないのだからの。
しかし私と生徒会の面々は、ある種の常識の外側の存在であるし、常識というものは案外当てにならないことは知っている。
多少混乱した表情を見せる2人に視線を投げかけると、以前何度か私が口にした言葉を戸惑いながらも呟いた。
「……ありえないなんてことはー」「……ありえない」「そういうことだの」
しかし面白いことになってきおったの。
にやにやする私を尻目に、2人は頭をかかえる。私がこの事態を楽しんでいることと、これ以上は動くつもりがないことをわかってるのだろう。
さて、こやつらはどう動くのかと思っていると――
「高宮先輩、頼みがあるのですが」「……はいー?」
ミカがツトムにそう切り出す。現状、生徒会は学校関係の仕事は副会長である初凪チドリが中心に、それ以外はこの星空ミカが中心に立つことが多い。今回の件はミカが中心となるのであろう。チドリは今回の件には使えんしの。
しかし2人の他に後3人いる生徒会メンバーと、初凪イズミ……それに例のあやつら。どうやらこれから面白いことになりそうだの。
そう考えながら、先の事に私は心躍らせるのであった。
前回更新から日が開いてしまいました……。