表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/7

放課後の生徒会室

 放課後までの時間は、普段より遥かに長く感じた。

 朝礼の後、講義には全く集中出来なかった。全校生徒の名前と顔を全て覚えているという会長の噂は知っており、俺の名前を呼び視線を向けたことに驚きはしなかった。

 しかし、俺の知る限り朝礼等の多くの生徒が集まる中、会長直々に名指しで呼び出しが行われた事など無かった。

 もちろん、周りの生徒らもそう思ったのだろう。そのため、俺に好奇の目が集まるのは必然と言えた。

 体育館から教室へと戻る最中、目に入る全ての生徒からじろじろと見られ、教室の中でもクラスメイトの目に晒され、休み時間の度に他所のクラスからわざわざやってくる奴までいた。

 講義の最中ですら、クラス中には何とも言えない空気が漂い、放課後まで気の休まる暇は無かった。


 今回の件はおそらく突発的なものだと推察出来る。前もってわかっていたのなら、生徒会副会長であるチドリが教えてくれていたはずだ。

 しかし朝、別れるまで一切そんなそぶりはなかった。もし会長の個人的な案件であればチドリが知らなかったのも致し方ないが、その場合は朝礼後すぐにでもチドリが押しかけてきそうなものである。

 カイによると、壇上の会長からの呼び出しがかかった際、同じく壇上にいたチドリは特にリアクションは無かったという。事前に聞かされていなければ何かしらのリアクションを取ったはずだ。ちなみに俺は放心しており、その辺りの記憶は一切無かった。

 以上のことから今回の件は朝礼の始まる直前にチドリへと通達があったと考えられる。

 ゆえに突発的なものであり、そしておそらく生徒会に関係した内容だと推測した……多少無理やりではあるが。


 気の休まらない1日の中で気を紛らわす為に始めた推測ではあったが、俺が出来たのはここまでだった。




 そして放課後、俺は生徒会室前へとやってきた。ここまでやってくるだけで、既にかなり疲弊していた。どいつもこいつも遠慮無しにじろじろ見過ぎだろ……。

 しかし、生徒会室に入るというのは職員室に入るのとはある種違った緊張感がある。普段馴染みの無い場所ということもあるし、何よりあの会長の本陣なのだ。

「……気持ちは討ち入り気分だな」

 声に出してみたが何の慰めにもならなかった。せめて妹のチドリがいることを願おう。


「2-B、初凪(はつなぎ)イズミです」

 意を決し、生徒会室の扉を2度ノックすると、扉へと向かって声をかける。

「はい、お入り下さい」

 すぐに返答があり、俺は扉を引いて開けると「失礼します」と添えてから生徒会室へと入った。


 生徒会室の間取りは、俺が入ってきた出入り口から両脇に長いデスクがそれぞれ部屋の奥へと向かって配置されており、そこにそれぞれ1人ずつ、生徒がいた。

 俺から見て左側のデスクについていた女子生徒は俺へと目を合わせるとにこりと優しく微笑み「ようこそいらっしゃいました」と声をかけてきた。声の感じからすると、入室の際に返答してくれたのもこの人なのだろう。

 当学院の制服は男女共にネクタイが指定されており、その色により学年を判断出来るようになっている。

 そしてネクタイの色から判断するにこの女子生徒は俺と同じく2年生のようだ。

「よう」と右側のデスクについていた生徒から、続いて声をかけられる。視線を向けると、右手を軽く上げ感じのいい笑みを浮かべる男子生徒がいた。どうやらこちらは3年の先輩のようだ。

 そしてどちらも朝礼等で見覚えのある、生徒会役員であった。役職までは覚えてないけど。

 2人に会釈をして軽く挨拶をし、入り口正面奥に構える威厳あり気なデスク、そこで待ち構える人に目を向ける。


「応、来たな初凪イズミ」


 愛らしい顔に似合わない不敵な笑みを浮かべ、腕を組み覇気をまとわせた人物――俺を呼び出した張本人がそこにいた…………織田信長公を前にした足軽ってこんな気分だったんだろうな。




「ツトム、椅子を頼む」と会長が男子生徒の方へ声をかけると、先輩は「了解でーす」と言ってすぐに椅子を用意した。

 会長は「まあ、まずはそこに座れ」と言って俺に着席を促し、素直に従った。しかしなんといいますか、その場所がすごく……居心地が悪い。

 先輩が用意してくれた椅子の位置は会長のデスクの正面であり、生徒会室両脇の長いデスクに挟まれた位置にあった。

 つまり、3人の役員から正面と左右を抑えられている形になる。しかも室内に他に人影はなく、チドリも不在のようだった。

 俺が緊張した面持ちで椅子に腰をかけると、会長が再び口を開いた。

「まずは当学院の生徒会室へようこそ、と言っておこう。ここへ来るのは初めてか?」

「……はい。そうですね。今まで俺には縁がなかった場所なので」

「そうかそうか。まあ、その様に緊張するな。今回は取って食うつもりもないしな!」

 可憐な外見には似合わない豪快な笑いを交えながら会長はそのように言う。しかし緊張するなとは無理な話だ。完璧アウェーの空間で、あの会長を前にしているのだ。

 しかも「今回は」って! 俺、その内取って食われるの?! 一部の人にはご褒美です! 俺は違うけど!!

 緊張のせいで一部思考が暴走気味である。せめてチドリが戻ってきてくれれば――


「その内取って食うかもなあ。ちなみにお主の妹には所用を言い渡しとる。しばらくは戻ってこんぞ」


 ――にやりと笑いながらそのように告げる会長の言葉で、俺の淡い希望は脆くも崩れ去った…………出来たら心を読まないでほしい。善処しようと会長から返事があった。


「と、ところで今日は何でここに呼ばれたんですかね俺? しかも朝礼の場で……何かまずいことでもしました?」

 こうなれば自棄だと思い、俺のほうから切り出してみた。

「何かまずいこと……にでも心当たりがあるのか? すまん、すまん冗談だ。仮にまずいことがあったとした場合、呼び出すのは教師側であるし、場所も生徒指導室や職員室になるだろうさ」

 どうやら不祥事で呼び出されたわけではないらしい。俺はほっとして胸を撫で下ろす。しかしそうすると俺は結局何故呼び出されたのだろう?

「お主の疑問への回答――つまりは今回呼び出した本題だがそこに入る前に1つ質問があるのだが良いか?」

 雰囲気的に拒否権が無い質問である。会長もわかって言っているのだろうが、一応は確認を取るようだ。

 俺がどうぞと答えると「悪いな」と返ってきた。賭けてもいい、会長はそんなこと思ってないと――ひぃ! 睨まれた……。

「お主、昨日の商店街の事故に巻き込まれたらしいな。これは事実で間違いないな?」

 まさかそのことを聞かれるとは思わなかった。学校側の対策か何かの参考にでもするのだろうか。

 隠す理由もないので「はい。そうです」と答える。

「ふむ。ではもう1つ聞くが……」

 1つでは無かったのかと思ってしまったが、特に睨まれる事もなかった。セーフ。そう安堵しかけたのだが――

「……その事故。本当に交通事故だったか?」

 ――この質問で一気にぶっ飛んだ。

 俺の頭には馬鹿でかいデッサン人形、そいつに襲われ破壊された商店街、死にかけた俺を救ってくれた桜色の髪の少女が次々に浮かんだ。しかし――

「え、えっと……ニュースとかでは交通事故だと言ってます……よね? 俺も、目を覚ました病院でそう聞きましたし」

 ――その事実はあまりにも現実離れし過ぎていた。俺の妄想なのではないか? その疑問が拭いされず、俺はその様に返答してしまった。

 俺の返答を受けて、会長は「……そうか」と答えると「……えて……ール、しか……値が……」と視線を落としぶつぶつと思考にふけってしまった。

 30秒程経った頃だろうか、会長は再び視線をこちらへと向けた。

「いや、すまん。それは災難だったな、息災でなによりだ。……さてそろそろ本題に入るとするか」

 ここで本題に入るのか! と思い、一気に身構える。正直この会長のことだ、今まで以上の想像もつかないようなことがその口から飛び出るに違いない。



「初凪イズミ。お主……生徒会に入らんか?」



 あー、こういう状態のことを頭が真っ白になるって言うんだな。上手いこと言ったもんだ。

会長がイズミを生徒会へと誘う理由とは!

次回「貴様の敗因は初手の歩だ」をお送りする予定です。嘘です。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ