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朝礼

 昇降口でチドリと別れ、俺とカイは2階に位置する自分たちの教室へと向かった。

教室に入り、クラスメイトへ適当に挨拶をしながら自分の席へと移動する。机にかばんを置き、教室内を見渡すと、普段のこの時間帯と比較すると明らかに人数が足りない。既に半数以上のクラスメイトは朝礼が行われる体育館へと移動しているようだ。

 俺と同様、手ぶらになったカイと2人で体育館へと向かう為、教室を後にする。教室を出ると、多くの生徒が談笑を交えながら体育館へと移動しており、その流れへと混じった。


 当学院の体育館は、かなりの大きさを誇っている為出入り口の数も多く、その為大して時間をかけず中へと入る事が出来た。

 体育館へと入ると、自分らのクラスに割り振られている指定の位置まで移動する。各クラス指定の位置にさえいれば、特に個々の位置までは決められていないので、俺とカイは適当な位置についた。

 「しっかし、朝礼の日ともなると皆さん朝っぱらから元気ですな~」

 周りを見渡しながら、カイが話しかけてくる。確かに毎度の事ながら、全員とは言わないまでも、大多数の生徒のテンションはいつも以上に高ぶっていることだろう。

 「そういうお前だって、始まったら毎回キモ……うるさいじゃないか」

 「お前今キモイって言いかけなかったっ!? 数少ない友人の一人である俺に対して酷くない!? 」

 数少ない友人の一人というのは正しいが、キモイのも事実だ。お前の聞き間違いじゃないか? と適当に返答し、その後もあれこれ文句を言ってくるカイを相手にしながら朝礼開始までの時間を潰した。


 キーンという甲高い、マイクをスピーカーに通した際に生じる音が体育館全体に響き渡ると、先ほどまでがやがやと賑やかだった体育館が一瞬にして静寂に包まれる。

 それから5秒程してからだろうか、先ほどまで誰もいなかった壇上に人影が現れる――生徒会副会長である妹のチドリだ。

 チドリは壇上脇で立ち止まり、マイクを通して体育館全体へと凛とした声で告げる。


 「長らくお待たせし、申し訳ありません。これより5月度全校朝礼を始めさせて頂きたいと思います」


 本来の開始予定時刻より10分押しての開始の合図だった。今か今かと待ちわびたであろう、周りを見渡すとそんな表情が見て取れる生徒が多くいる。


 「それでは会長、お願いします」

 

 チドリがそう言い終るのとほぼ時を同じくして――空気が割れた。

 雷が落ちたかと錯覚するほどの、凄まじい轟音が俺の三半規管を揺らす。何も本当に雷が落ちは訳ではなく……これ、歓声なんだぜ。

 凄まじい音の正体は、周りの生徒達の凄まじい歓声だった。


 「うおおおおおおおおおお!」「会長おおおおおおおおおお!」「ぃぃいやっほおおおおおおおおおお!」「絶対少女きたああああああああああ!」「チドリちゃんぺろぺろおおおおおおおおおお!」「みなぎってきったああああああああああ!」「しゃああああらああああああああああ!」「会ちょおおおお俺だああああああああああ!」「ぶるああああああああああ!」


 概ねこんな感じの歓声だった。つか「チドリちゃんぺろぺろ」って言ったのどこの馬鹿だ!? 後でぶっとば…………女子じゃねぇか。……見なかった事にしよう。

 隣で「会長! 会長はよおおおおおおおおおお!」とうるさい馬鹿を軽く殴ることで、このなんとも言えない気持ちを押さえ込んだ。この馬鹿は馬鹿で、殴られても会長コールを止めない。

 この体育館全体を揺るがすほどの歓声は、以前行ったアイドルのコンサートと同等、もしくはそれ以上なのではないか。そういつも思うのだった。


 会長コールに答えて……かどうかはわからないが、歓声が上がってしばらくした後、チドリの脇を抜けて人影が現れた。その人影は立ち止まることなく、真っ直ぐ壇上の中央へと足を進める。壇上に現れてからというもの、歓声はますます勢いをまし、壇上中央へと進むにつれて徐々に歓声は大きくなり、壇上中央へと到達し、くるりとこちらへ向き直ると、歓声はピークへと達した。

 壇上中央の人物は歓声轟く体育館全体をぐるりと見渡し、満足そうに笑みを浮かべ――


 「応!!」


――と凄まじい歓声すら割る、力強い一声を放った。その一声はまるで歓声を全て飲み込むように体育館中を巡り、後には再び静寂が残った。

 再度、体育館全体を見渡すと笑みを浮かべる。


 その登場に多くの生徒、及び一部教師まで歓喜し、歓声全てを飲み込む彼女こそ――身長は140cm程と小柄で、ウェーブのかかったゆるふわな銀髪を腰の長さ程までたずさえ、一見愛らしくも見えるその容姿は、力強い眼光と絶対的強者である気迫をその身にまとい、かの北欧の戦女神を彷彿とさせる美しく気高き存在、SEC曰く舞い降りた天使『絶対少女』――私立シャノン学院会長、その人だ。


 会長は見た目同様の美しい声色と、片や小柄な体格からは想像もつかない声量で、マイクも使わずに全生徒へと語りかける。


 「応! 皆、息災なようだな。どれ……まずは恒例となった挨拶から行う。まずは男子諸君っ!!」


 そう言って会長は、体育館を再び見渡す。

 「「「応! おはようございます会長!」」」

 それに返して、全校生徒の内男子生徒が答える。もちろん俺もである。

 全男子生徒の挨拶を受けた会長は、不満そうに表情を崩す。

 「声が小さいぞ男子諸君! 思春期ゆえ、夜中までエロい妄想に滾って寝不足だと言い訳でもするつもりか?! 保護者一同には黙っておいてやる、腹からしっかり声をだせ!」

 「「「応!! おはようございます会長!!」」」

 「……まあ、いいだろう。続いて女子諸君っ!!」

 会長に叱咤され、腹から声を出すとなんとか合格を頂く。そして次に女子生徒へと切り替わる。

 「「「応! おはようございます会長!」」」

 先ほどまでの男子生徒特有のむさ苦しい挨拶とはうって変わり、女子生徒特有の黄色い挨拶が体育館をこだまする。

 「どうした女子諸君! まさかとは思うが朝食を抜いてきたりしてはいないだろうな? 朝食を抜いてきた者には後ほど私から厳しい罰を与える、そうでない者はしっかり声をだせ!」

 「「「応!! おはようございます会長!!」」」

 「……まあまあ、いいだろう。それでは最後に全員でだ! 皆腹からしっかり声をだせ!!」

 「「「「「「応!!! おはようございます会長!!!」」」」」」

 「応! 皆、おはよう!」

 会長がそう答えにやりと笑う。これこそ、我が校の朝礼での恒例「会長と朝の挨拶」である。


 その後は至極普通に朝礼が進んだ。今月の行事の簡単な説明や注意事項、また例の交通事故についても触れられたが、気をつけるよう通達があったのみだった。実際、他にどうしようもないしな。

 会長が「今月の朝礼はこれにて終了だ!」と宣言すると、再度壇上の会長へ向けて、会長コールがなり響く。

 会長は片頬をつり上げにやりと笑うと、壇上を後に……しようとしたところで、何かを思い出し再度体育館を見渡す。

 「応、忘れておった……」

 会長の言葉を受け、再び静まりかえる。静寂の中響き渡った会長の言葉の内容は、驚愕するものだった。


 「2-Bの初凪(はつなぎ)イズミ。放課後、私のとこまで来い。おそらく生徒会室にいるとは思うがな」


 …………はい?

 今、会長の口から俺の名前が出たような。まさか気のせいだよな……壇上の会長と目が合った。

 会長は驚愕する俺の目を真っ直ぐ見据えて笑うと、壇上を後にした。

 周りの生徒から好奇の眼差しで注目を浴び、カイからは「お前! 会長から直接お呼び出しとか羨ましいぞこらあああああ!」と制服の胸をつかまれガクガクと揺すられるが、呆然とし全く耳に入っていない俺は、


 「………………マジですか」


 そう呟くのが精一杯だった。

会長登場です。カリスマ性溢れる少女を書きたかったのですが……難しい。

1話と同様、よく呆然とする主人公。

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