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通学路

 支度を終え、俺とチドリは一緒に家を出る。俺は私立シャノン学院の2年で、妹のチドリは1年なのだ。

 「お弁当も持ったし、戸締りもよし……兄さーん、忘れ物はない?」

 俺に確認を取るチドリに対し、頭の中で本日の講義で必要なものやらを確認して、問題ないと答える。

 「しかしお前、今日は朝礼だっていうのに、こんなにゆっくりでいいのか?」

 朝礼がある日、チドリは決まって、俺よりも大分早めに登校するのが普通だった。

 「んー、今日は事前準備が必要なことは少ないし、大体の準備は休み前にやっちゃってるから大丈夫なんだよね。壇上で実際に喋るのは会長だし」

 玄関の鍵をかけながら、チドリはそう答える。


 実はチドリは学院の生徒会に所属しており、しかも1年ながら異例の生徒会副会長を務めている。シャノン学院は生徒の自主性を重んじており、自然と生徒会の学校へ対する影響力も大きくなる。

 本来そのような生徒会への参加は、厳選に厳選を重ねるのが通常だとは思うが、シャノン学院の場合は違う。生徒会メンバーは全て会長に一任されているのだ。

 しかも任命時期はまばらで、時々「会長・副会長・会計・書記・庶務」以外の役職が設けられることもあるという。

 そのため、入学して間もないチドリでも生徒会へ参加することは可能ではあるのだが、何故会長は新入生から、しかも副会長を選んだのかという疑問が残る。

 以前そのことをチドリに聞いたことがあったが、「私の外面が良いからって言ってたよー。色んな意味で」という。

 確かにチドリは容姿は文句なしだし、家ではあんなだが外では人当たりが良く、男女問わず、1年から3年の生徒、さらには教師陣からも好感を得ているという、平凡な高校生と代表である兄としては、少々チート過ぎやしないか? と思う。


 家から学院までは歩いて30分程の距離にある。チドリと特に内容もない話をしながら登校していると、後ろから声を掛けられた。

 「うぉーい、イズミ。 はよーっす!」

 声に反応して振り返ると、声の主はクラスメイトであり、俺の数少ない友人である坂巻(さかまき)カイであった。

 カイは同性の俺から見てもかっこいいと言えるだけの容姿をしており、運動神経も抜群ということもあり女性受けしそうな奴……そう思っていた時期が俺にもありました。

 「うーっす」「おはようございます、先輩」

 カイの挨拶に俺とチドリがそれぞれ返す。

 それを受けて何を思ったのかカイは突然、チドリの前で片膝をつき、まるで西洋騎士が王族に対してとるような姿勢をとる。

 「ご機嫌麗しゅうございます。本日も実にお美しい……チドリ姫様」

 あー、うん。まるでじゃなく、騎士そのものになりきってるなこいつ。流石のチドリも頬が少し引きつっている。


 坂巻カイ、これこそがこいつの残念な理由である。

 人づてに聞いた話だが、チドリが生徒会へ参加することが決まってすぐのこと、シャノン学院の一部生徒の間でチドリこと副会長派と、会長派とに別れあわや戦争になりかけたことがあるらしい。なんだよ戦争って……と思った。今も思う。

 その際、両派閥の間に入ったのが坂巻カイだった。

 「何故あなた達は争うだ! 神はこの学院に2人の天使を使わした……しかしっ! それが何故争う理由になる! 我々はどちらかを選ぶ必要があるのか? 否っ! 断じて否であるっ! 神はこう仰られているのだ……汝等全てを愛せよ……と」

 俺にその時の様子を語ってくれた奴は言った――そう言ったカイの後ろに、サムズアップをした神を見た――と。眼科行けと言っておいた。

 そんなこともあり今では派閥は統合、「シャノン学院天使を愛でる会」――通称SECとなり、カイはメンバーから教祖として慕われているらしい……何で俺、こいつと友人なんだろう。多少の自己嫌悪を覚えた。


 「さ、坂巻先輩……恥ずかしいので止めて頂けると……」

 「チドリ、こういう時ははっきり迷惑だ、通報しますと言っておいたほうが本人の為だぞ」

 「ひでーな、イズミ……」

 酷いのはお前の行動と頭の中だと返すと、はいはいと流しながらカイは立ち上がる。

 「チドリちゃん、ごめん。ついつい」

 「……つい、じゃありませんよ。……そういうことは会長にだけして下さい」

 表面上は申し訳なさそうに謝罪するカイに対して、やれやれといった感じで対応するチドリ。実はこの流れ、登校中に俺、チドリ、カイが揃った際のお馴染みの流れとなりつつあるのだ……残念なことに。

 このやり取り以降、SECの教祖といっても、カイは基本的にはチドリに対して至極普通に接する。こんな奴ではあるが、一応は場をわきまえた行動を取る奴なのである。


 「そういえばイズミ、お前昨日の商店街の事故に巻き込まれたんだってな。なんともなさそうで良かったぜ」

 気を取り直し、歩き出してしばらくした頃にカイがそのように振ってくる。

 「……そうらしいんだけど、昨日ファミレスで別れた後、商店街辺りからの記憶が曖昧なんだよな。」

 昨日、ファミレスで一緒に宿題を片付けた友人の内の1人がカイなのである。

 「おいおい、大丈夫かよそれ?」

 俺の様子を伺いながら、心配そうに尋ねてくる。例の残念な部分さえ除けば基本的にはいい奴なのだ。

 俺とカイの会話を聞いて、……ずは精神的に……くりゆっくり……後悔……、とチドリの方からぶつぶつと不吉な気配を感じる。

 「……ほんと、何ともないといいな」

 「……そうだな」

 チドリの黒い発言を耳にしながら2人してげんなりと顔を見合わせる。

 こうして俺達は朝から賑やか? に学校へと向かうのだった。

変態紳士役登場です。そして引きが前回と一緒……

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