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初凪(はつなぎ)家の朝

 そんなことがあった翌日、俺は自室のベッドで目覚めた。ぼーっとした頭で時計を確認すると……6時45分。うん、普段より15分ばかり早いようだ。

 今日は朝礼もあるし、遅刻するわけにもいかないからな……二度寝せず素直に起きるか。

 半分眠ったままの頭でその様に考えた後、頭を起床する方向へ切り替える。


 俺――初凪(はつなぎ)イズミの通う私立シャノン学院は、毎月最初の登校日に、3000人を超すであろう全校生徒を体育館へ集めて、朝礼が行われる。流石にそこに遅れて参加するだけの度胸は俺にはない。

 他所の高校はどうか知らないが、シャノン学院に通う生徒が朝礼に遅刻、欠席するということはほとんどない。故に遅刻などしようものなら目立ちまくる上、周りの視線も痛い。

 全校生徒は皆優秀で、教育者である先生の皆々様の教育の賜物……というわけではもちろんない。


 全校生徒の目的はあの人なんだよなー。そんなことを考えながら、のんびりとベッドから下り、部屋のカーテンを開けると朝の気持ちいい日差しが入ってくる。うん、今日もいい天気だ。


 朝日を浴びながら背伸びをした後、部屋を出て1階のリビングへと向かう。

 「おはようー、チドリ」

 リビングに入った俺は、台所で忙しそうに動く妹へと声をかける。

 「兄さん!? お、おはよう。……珍しいね、この時間に起きてるだなんて」

 妹の初凪(はつなぎ)チドリから驚いた様子で返事が返ってくる。

 「なんか目が覚めてなー。しかしお前……なんで不満そうなんだよ」

 声をかけた直後こそ驚いた表情をしていたのだが、チドリはみるみる不満そうな表情へと変えていったのである。

 「だって……だって! せっかく兄さんの寝顔を堪能出来ると思ってご飯とお弁当の準備を頑張っていたのに! 出来上がる前にまさかのご褒美おあずけのお知らせってどういうことっ!」


 妹のチドリは身内である俺の目から見ても、かなりの美少女だと思う。くりっとした大きな瞳を軸に整った顔立ち。綺麗な黒髪を腰程の長さまで伸ばしている。身長は160cm程で細身ですらっとした体型をしている。

 頭の方も良く、中学時代には全国模試で一桁の順位を取ったりしていた。体を動かすのも得意で、今は部活は行ってないが短距離走の優秀なアスリートという面もある。

 文武両道、眉目秀麗の大和撫子だと良く言われるし、俺もそのように思う……これさえなければ。


 「兄さんは今すぐ部屋に戻って寝なおして! そして起こしに来た私を優しく抱きしめて、そのまま兄さんのお布団で、兄さんと兄さんの香りに抱かれたまま私は……私は……」

 頬を赤く染めながらもじもじとするチドリは、世の男性諸君の目には悶絶しそうなぐらい可愛くうつることだろう。

 しかし俺からしてみれば妹のその言動は……ドン引きである。

 この言動からしてわかって頂けると思うが、妹は残念なことに俗に言う……ブラコンなのだ、しかも度の過ぎた。


 どうやら妄想は加速しているようで、チドリはくねくねいやーんと実にきもt……やかましい。

 「いいかげん、帰って……こいっ!」

 くねくねするチドリの頭を振りかぶった右腕でスパーンッと叩く。うん、いい音が出た。

 「い、痛い……なにするのよ兄さん」

 俺は妄想から無事帰還したチドリに涙目で睨まれる。だが暴走したチドリを止めるにはこれが一番効果的なのだ。もちろん加減もしてるし。

 「まったく、兄さんは私の頭をパカパカパカパカ叩いて。学校でも人様の頭をパカパカしてたりしないよね?」

 「……お前以外にするわけないだろ」

 「っ……わ、私だけ特別!? そんなこと言われたら私……兄さんから受ける痛みも快感に……」

 「……もう一発いっとくか?」

 そう言って俺はチドリの頭部をギロリと見据えて、右腕を再度振りかぶる。

 「さ、兄さん。朝食にするから先に顔を洗ってきて」

 そう言ってチドリは、何事もなかったかのように朝食の準備に取り掛かる。やれやれ。

 俺はリビングを後にすると、顔を洗う為洗面所へと向かった。




 チドリと2人、食卓で朝食を頂く。我が初凪家は父はアメリカへ単身赴任、母はこの春チドリが高校へと進学したのを期に父の元へと行ってしまったため、2人で暮らしている。仕送りは毎月しっかり多めに振り込んでくれるし、俺もチドリも家事は一通りこなせるので問題はほとんどない。

 朝食を取りながら、テレビからは朝のニュースが流れてくる。


 「――この様に、商店の店先は大きく変形しており、事故の衝撃を物語っております」


 テレビに映されているのは昨日の商店街の映像と、大きく歪んだ店先の前で事故について解説するキャスターだ。

 「ほんと、最初聞いた時はびっくりしたよ。商店街で車が事故を起こして、しかも兄さんが巻き込まれたって聞いた時は。……でも何ともなくてほんとによかった」

 ニュースを見ながらチドリは昨日警察から連絡を受けた時のことを思い出したのだろう、不安と悲しみを混ぜ込んだように表情を曇らせるが、俺へと視線を移すと安堵した表情を浮かべる。


 昨日、あの後俺は目を覚ますと病院のベッドで寝ていた。目を覚ましたことに気づいたチドリは俺に抱きつくと「兄さん、兄さん」と何度も俺を呼んで号泣した。

 検査の結果、体に異常は何もなく、即日退院帰宅することが出来た。

 病院でも説明を受けたのだが、商店街にいた俺は事故の際に転倒、気を失っていただけだという。目撃者も多数いたとの事だ。


 ――そんな馬鹿なと思った。俺は何故か人が誰もいない商店街で、馬鹿でかいデッサン人形に襲われ、桜色の髪の少女に助けられて、キ……。


 昨日のキスを思い出し、動揺して思わず自分の唇に触れる。兄さん? とチドリが首をかしげ疑問を投げかけてくるも、なんでもないとお茶を濁して朝食の残りに取り掛かる。

 どういうわけかはわからないが昨日の出来事は、車による交通事故ということになっているようだ。

 妹であるチドリはもちろん、ニュースでもそう報道されている。破壊されたデッサン人形なんて目立つものをニュースが取り上げないわけはない。正直、現実味が無さ過ぎて事故のショックで夢でもみていたのではないか、そう思えてくる。


 俺がどっちが正しい現実なのかぐるぐる頭を悩ませていると――

 「兄さんが無事だったからよかったものの、何かあったら加害者に数十年にわたって生まれてきた事を後悔させてやる」

 「頼むから止めてくれ」

 ――チドリの黒い発言が一気に現実へと戻してくれた。

ブラコン美少女妹っていいですよね!ちょっとヤンデレ気味なのもいいですよね!!……。

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