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《一方その頃》

 とある世界の東端にある魔王領から、巨大な川を超え、鬱蒼とした森林帯を抜けたところに一つの屋敷がある。その屋敷で一人の幼い少女が小さく呟いた。


「……暇だ」


 少女は艶やかな金の髪を持ち、それを後ろに二つにまとめて尻尾のように垂らしている。服は彼女の髪色とは真逆の、漆黒。しかし、あちこちにフワフワと柔らかそうなフリルが付いているため、幼い彼女には良く似合っている。

 この少女、実はレイミールの実妹で名をソフィアという魔王族の第三王女にあたる姫なのだ。……ただし、レイミールとは腹違いの姉妹であるため半分しか血はつながっていない。そのせいで容姿について言えばレイミールとは似ても似つかないのだが、彼女の持つその独特の雰囲気はレイミールと同じようなモノを感じさせた。

 ソフィアはしばらく髪と同じその金色の瞳を閉じ、どうしたものだろうかと考える。と、少しして彼女の頭に妙案が浮かびあがった。


「そうだ……お姉さまに会いに行こう」


 幸いにレイミールとソフィアの屋敷はそれほど離れているわけではない。今から出だせばそう遅くない時間にたどり着くことができるだろう。

 本来、魔王族の兄弟が顔を合わせることは何か特別な催しを除いて、まずない。魔王族の兄弟は生まれる前から王位継承争いという逃れることのできない宿命を背負わされているのだ。ただ自分一人が魔王になるため……他の兄弟を喰い潰していく……それが宿命。しかしそれを完全に無視したのが、第二王女であるソフィアの姉。黒衣の冷徹王女と呼ばれるレイミールであった。嘘か本当か知らないが、多くの有力魔族が集まったパーティーで王位になど興味がないとまで言い放ったと言う。まったく、妹ながら彼女の行動には驚かされる。


 以前、ソフィアも自分が魔王になるためにレイミールを喰い潰そうとした。しかし、こっぴどく返り討ちにあってしまう。普通ならそこで殺されていたのだろうが……レイミールは許した。

 

 “妹だから”という理由だけで。

 正直言って馬鹿ではないだろうかと思った。負けた直後は、いずれもっと力を付けて今度こそ喰い潰してやろうと思っていた。だが、……いつの間にかそんな感情が消えてしまっている。 いつからだろう……姉といるのが楽しいと感じるようになったのは……

 

 さて……まぁ、何の前触れもなく、突然姉の屋敷を訪れたとしてもあのお人好しの姉の事だ……薄い笑みを浮かべながら紅茶を出してくれるだろう。持っていく手土産は何にしようか……紅茶に良く合うケーキでも持っていけば姉は喜ぶだろうか……




***




 ソフィアの護衛をするのは巨大な岩を組み合わせた異形の魔物。その魔物の肩に乗ってソフィアは姉の屋敷へと訪れていた。小さな箱に入れたチョコレートケーキを持って。

 彼女を出迎えたのは姉の護衛を任されている魔物。確か名をエミリアといっただろうか。やけに落ち着きがない様子である。


「? どうした、落ち着きがないぞ」


 ソフィアの言葉にエミリアは顔色を悪くする。この護衛がこんな表情を浮かべるのを見たのは初めてだ。余程何か良くないことがあったのだろうか?


「な、何でもございません」


 ……ふうん


「そうか、で、お姉さまはどこにいるのだ?」


「きょ、今日は御気分がすぐれないと休んでいらっしゃいます」


 怪しい。目の前の魔物をじっと見つめるとわずかにだが眼が泳いでいる。怪しすぎるっ!!そもそもあの姉が気分が悪いことなどあるのか? 黒衣の冷徹王女と呼ばれるほどのものが何が原因で気分が悪くなるというのか? 


「そうかそれは残念だな……では、見舞いとして顔だけでも見て帰ろう(・・・・・・・・・・)


「っ!!そ、それはっ!!」


 ソフィアの行く手をさえぎるエミリア。その表情は明らかに悪い。絶対に何かを隠している。ソフィアは、後ろで控えている自分の護衛を呼ぶと幼いながらも魔王族の貫録を感じさせる言葉をエミリアへとかける。


「別にこの機会にお姉さまに争いをしかけようとは思っていない。……ただ顔を見たいだけだ。何か問題があるのか?」


「…………御座いません」


「そうだろうな……で、何を隠しているのだ? 内密にしてやるから話してみろ」


 表情の暗いエミリアはしばらくどうしたものかと迷っていたようだったが、結局はソフィアに事情を話した。





「ゆ、行方不明だと!?」


 客間に通されたソフィアは口に入れた紅茶を吹き出しそうになるのを必死にこらえてエミリアへと顔を向ける。これは一大事だ。それに護衛をしているエミリアも事がばれれば唯では済まないだろう。


「こ、心当たりは無いのか?」


「……確か昨日は、バルジャック様がお開きになった茶会へと出席なされたのですが、お帰りになられた際はあまり御機嫌がよろしく無さそうでございました」


「バルジャック? ……ああ、あのトカゲ頭の事か」


 そこで何かあったのだろうか?しかし……あんなヤツは小物も小物……何かできるとも考えられない。ソフィアは小さくため息を吐く。


「全く、仕方ない……不本意だが、協力してやる」


 腰に手を当てた姉の後姿が、ソフィアの頭の中に浮かぶ。その肩には太文字で「家出中、探すな!!」と書き殴られたタスキが掛けられている。いっぺん頭を殴ってやろうかとソフィアは一人ごちた。


 元の世界ではレイミールを探してますよーって話です。

 こっちの世界の話はほとんど書きません。複雑になりますし、初めの趣旨と変わってしまいますしね。あくまで異世界の方がメインです。

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