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エルフ族の領域

「……道具袋を置いてきてしまったようだ」


 草原地帯から徐々に木々の生い茂る森へとやってきた時……レイミールは、ふと自分の手荷物が無い事に気が付いた。


「え? 大丈夫ですか?何が入っていたんですか?」


「ん、王から受け取った武器や貨幣などが入れてあったのだ。……仕方がない。取りに戻るからお前たちは少しここで待っていろ」


 そう言うなり一人で元来た道を引き返していくレイミール。そんな彼女の背中に少しの間呆けていたレシアムは慌てて声をかける。一人で行かせては危険ではないだろうか?


「え? 一緒に戻って探しますよ!?」


「いや、お前達に無駄な体力を使わせることもあるまい……道具袋を忘れた場所もだいたい見当が付いているからな……」


 振り返りもしないで答えるレイミールにレシアム達はそれ以上何も言えなかった。




***




「申し上げます!! 里付近に数名の人間がおります。どうやらこの里へ向かってきているようでありまして……」


 突然やってきたエルフの若い戦士の言葉にその場にいたエルフ達は顔を青ざめた。その容姿は、様々ではあるがほとんど人と変わらない。ただ、笹の葉のように長い耳が髪の間から突き出ている事を除けば。

 ここはエルフの里の中心地。ここでは今、皆一様に着飾った貴族達が舞踏会を開いていた最中であったのだ。しかし突然やってきたその知らせによって和やかなパーティーはにぎやかさを失い、奇妙な静けさに包まれている。


「なぜ、今更人間がこの里にやってくるんだ!?」


 貴族らしい煌びやかな衣装に身を包んだ男のエルフが端麗な顔を恐怖に歪ませて半分悲鳴のような声でそう叫んだのを皮切りに……騒めき出すエルフ達。もはやパーティーどころではない。あちらこちらで不安げなエルフ達の囁き声、小さな悲鳴が聞こえる。

 

 突如、……カーン……と杖で床を叩くような、小気味の良い音が混乱に包まれた会場に響き渡った。

 

 その音で、それまで騒いでいたエルフ達は我を取り戻したのか、口をつぐみ、音の方へと一斉に目を向けた。会場には先ほどと違った静寂が訪れる。


 この場にいたエルフ達の視線の先、先程の音を出した張本人である人物は、一人の老エルフ。座っていた大きな椅子から、手に持っていた長い木の棒を支えに骨のように細い腕でに力を込めて立ち上がると、静寂の中、彼はゆっくりと口を開く。


「皆の者……慌てるでない。この地は(いにしえ)の時代より我らを守りし大いなる森じゃ……人間がいかに恐ろしい物であっても、この森が我らを守ってくれるじゃろう……」


 老エルフの言葉が終わると、感化されたのかそれまでの静寂を破るようにあちこちから威勢の良い声が上がる。


「に、人間どもがなんだ!! 我々にはこの森が力を与えてくれる!!」


「先祖の恨み!! ここで晴らしてくれるわっ!!」


 徐々に上がる声の数が増えていく。それは段々とその場にいるエルフ達全員を鼓舞し、それまでその場を包んでいた暗い雰囲気を消し飛ばすことになった。今歓声を上げているエルフ達が、先程までの不安げな様子を見せていた者達とはとても思えない。

 

 もはや、エルフ達の目からは不安の色はすっかりと消え去っていた。


「大公様、万歳!! エルフ族万歳!!」


 あちこちで上がる歓声に老エルフはうっすらと目を細めると辺りの歓声にも掻き消されないほど大きな声で言い放った。


「野蛮なる人族どもに、この神聖な森に近づいた事を後悔させてやるのじゃ!!」




***




「それにしても……エルフ族の里を突っ切るなんて……あの勇者様も大胆なことを考えるわねぇ……」


 少しばかり呆れたような口調でティアはそんな事を言った。エルフと人間は遥か昔から仲が悪いと相場が決まっている。なぜなのか、そう言ったことに興味のないティアは知らないが……とにかく気をつけていないといつ殺されてしまうか分かった物ではない。


「確かにそうですが……仕方ないでしょう。それにしても、この道……誰も利用してないせいか荒れ果ててますね」


 ティアの言葉に苦笑いしながら口を開いたレシアムが疑問を口にする。地図にはしっかりと道が記されていたのだが、現実は小さな獣道程度のものがかすかに残っているばかり。とてもじゃないがこんなところ人が通って良い道だとは思わない。思えないと言った方が良いか……


「しょうがないじゃない……エルフの里が近いんだから」


「……ですが、まだここはエルフの里よりも距離はある方ですよ? だと言うのに、こんなに荒れているのは……少しばかりおかしくないですか?」


 首を捻るレシアムに、ティアが何をそんなに不思議がることがあるのかと聞き返そうと口を開きかけた時だ。突如マリアの悲鳴が辺りに響く。慌ててそちらに顔を向ければ、茶色に薄汚れたフードをかぶった何者かに捉えられたマリアの姿が目に入った。首には短剣が付きつけられている。


「……っ……油断しました」


 レシアムは自分の不甲斐なさに顔をゆがめた。近いと言ってもまだまだエルフの里から離れていると思っていた彼は自分の間抜けなさに腹が立っていた。恐らくあのフードをかぶっている人物はエルフだろう。やはり話に聞いていた通り恐ろしい戦闘狂の種族だ。…………あわよくば戦闘を避けてエルフの里を抜けられないかと考えていた自分の浅はかさを怨む。


「……御同行願おうか?」


 フードをかぶった何者かが小さく呟いた。

 直後、ティアとレシアムの背後に音も無く現れたエルフ達によって襲われたレシアムとティアは意識を失ってその場に崩れ落ちる。


「そんなっ!! ティアさん!!レシアムさん!!」


 拘束されたマリアは必死になって目の前で倒れるティアとレシアムに声をかけた。しかし彼らはピクリとも反応を見せない。完全に気を失っているのだろう。マリアの視界が涙でぼやけてくる。


「ふん、人間……お前も少しの間静かにしていろっ」


「いやあっ!! 助けてっ勇者様!!」


 悲鳴も空しく彼女の視界は暗転した。


 ……弱っ!!

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