会いたい
傷つけたのは あたしなのに・・・。
会いたい だなんて思ってしまう自分がいる。
あなたに会う資格なんて あたしにはないのに・・・。
雪が降る寒さのなか。
あたしは 「佐伯」の表札がかかったままの空き家を見つめていた。
誰も居ない家を見て、あの人の姿を思い浮かべる。
「ばからし・・・。」
ぽつりとつぶやき、コートのポケットに両手を入れて、あたしは再び歩いた。
あの人がいなくなって3年。
この季節になると、あのときのことを思い出してしまう。
それは 罪悪感なのか、後悔なのか。
きっと どちらも・・・。
「寒すぎ・・・。」
あたし、松井優華は冬が嫌い。
この寒さを感じるとき、あの日のことを思い出してしまうから。
それに、今日のように 雪の降りしきるような日は特に嫌いだ。
「優華 ほっぺ真っ赤だー。 可愛い!」
自分のほっぺをさすりながら言う この子は、満永夢。
高校になってできた友達だけど、あたしの親友と呼べる存在。
「廊下 寒いもん。」
暖房設備がされている校舎内でも、廊下はやっぱり寒い。
早く教室に行きたいのに、今日は月に一度の集会。
講堂に集まろうと廊下を歩く生徒でたくさんだった。
「うわ~。優華と歩いてたら視線がすごいよ・・・。」
夢が言うには、あたしはこの学校では有名らしい。
夢も、初めてあたしと喋った時、すごく緊張した。って言ってた。
でも あたしは目立つ事がいい事だと思わない。
だって、目立ったりすると、女の先輩に目を付けられる対象になるから。
今だって鋭い視線がびりびり・・・。
あたしは その視線から逃れるように、早足で歩いた。
講堂に1,2,3年生が集まり、集会が始まった。
もうすぐ定年になる校長先生の長い長い前置きのあと、やっと本題に入った。
「えー、ということですが、今日は表彰したいと思います。バスケットボール部、前へ。」
この高校 バスケ強かったんだ・・・。
バスケ、か・・・。
そういえば あの人もバスケ部だったな。
なんて、今日はほんとにあの人のことをよく思い出す日だな・・・。
あたしは別のことを考えよう と、表彰されているバスケ部員のほうを見た。
よく見てみると、知った顔がいる。
たぶんあの人は、夢の彼氏かな。顔見知り程度だからはっきりとは分からないけど、
あたしの前に立っている夢の目がキラキラしてるから、やっぱり夢の彼氏だと思う。
夢の彼氏、すごく嬉しそう・・・。 毎日 練習がんばってたもんね。
そして、ひときわ背が高い、部長らしき人が賞状をもらって、みんな列へと戻っていった。
集会は終わって、教室へ戻ろうとする生徒で 廊下はあふれた。
「ね、見た見た?! 大樹 表彰されてたよ!!」
あ、やっぱり夢の彼氏の大樹君だった。
「よかったね! 今日、お祝いしてあげなよ。」
「え・・・でも今日は優華とカラオケ行くって約束してたし・・・。」
「そんなの また今度でもいいよ。
大樹君、今まで練習がんばってたんでしょ? だから、今日はデートしな?」
と、あたしが言うと、夢は目をうるうるとさせた。
「う~・・・ ありがと~。」
「うん。よしよし。」
夢、犬みたい。 トイプードル系だなぁ。
だなんて 心の中で思った。
キーンコーンカーンコーン・・・・
帰りのHRが終わって、夢とバイバイした。
ほんと 大樹君とラブラブだったなぁ・・・。
あたしは・・・好きな人と会うことさえできない。
夢がうらやましいよ。
でも、これはあたしが招いた結果だから・・・そんなこと思っちゃダメだ。
「一番線に電車が参ります・・・」
あ・・・電車、乗り過ごすところだった。
ぼーっとしすぎだな あたし。
プシュー・・・・。
と 電車の扉が開いた。
降りてくる人を優先させるために、あたしは体を横にずらし、
やっぱりこの時間帯は 学生が多いなーだなんて思いながら、降り行く人を見ていた。
すると・・・・・
どんなにたくさんの人がいても、あたしはその人を見つけてしまった。
「圭・・・斗・・・。」
あたしの見つめる先は、すぐに目の前。
小さくつぶやく程度の声だったのに、その人はあたしのほうへ振り向いた。
「・・・・優華。」
3年ぶりに聞いた あたしを呼ぶ声。
昔よりずっと低い声なのに、ひどく懐かしく思えた。
「・・・ひさしぶり。」
そう言ったのは 圭斗だった。
あたしは一瞬 言葉につまり、
「うん・・・。」
と言うのが精一杯だった。
そして お互い言葉が出てこなくて、沈黙が続いた。
電車はもう行ったばかりで、あまり人が多いといえない駅には、
あたしと圭斗と、数え切れるほどの人しかいなくて、それがさらにあたしを緊張させた。
「・・・元気だった?」
「え・・・うん・・・。」
これじゃ さっきと同じじゃん。 なにか言うこと・・・
「あ・・・圭斗は・・・? ・・・元気にしてた?」
思い浮かぶ言葉はこれしかない。 これは 本当に聞きたかったことだから・・・。
「おー。 まあな。」
「そっか・・・。 よかった。」
あたしと同じくらいだった背も、今は見上げるぐらい高くて、
オトコノコじゃなくて、オトコノヒトなんだって思った。
でも、なつかしさは変わらないまま。
「今・・・この辺に住んでるの?」
あたしがそう聞くと、圭斗の顔は強張った。
「まあ・・・な。」
あたしは何を浮かれているんだろう。
そんなこと聞く権利、ないじゃない。
「そ・・・なんだ。 あ、おじさんとおばさん・・・元気?」
とにかく あたしは話題を変えようと必死だった。
「元気すぎるぐらいで困ってる。」
と、圭斗はすこし笑って話してくれた。
それだけで あたしの心はほっとした。
ピューー・・・・。
冷たい風が体をつつみ、あたしは体をちぢ込ませた。
すると、自分の影と圭斗の影が近づいている。
上を見上げると、圭斗はあたしの首に黒いマフラーを巻いてくれた。
「え・・・いいよ! 圭斗が寒いでしょ?」
マフラーをはずそうとすると、圭斗の手がそれを阻止した。
「俺、寒いの強いから平気。 それに、そんな寒そうな顔してたら見てらんねぇし。」
そう言って、あたしの頬を指差し、
「真っ赤。」
と 微笑んだ。
今のは・・・反則だよ。
心臓がすごいドキドキいってる。
「ん、ありがと。」
「おー。 ・・・じゃあ 気を付けて帰れよ?」
「え・・・? 」
まだ 少ししかたってないのに もうさよならするの?
望んではいけないのは分かってる。
けど・・・もう少し一緒にいたいよ。
だって・・・今 別れたら、今度はもう会えないかもしれない。
こんな偶然、ないのかも知れない。
そんなの ヤだよ。
「ねぇ・・・もう少し話せない・・・?」
気づけばあたしは そう言っていた。
圭斗、動揺してる・・・。
「あ・・・ごめんね わがまま言って・・・。」
ぽん。と、
頭に圭斗の大きな手が乗った。
「送るよ。」
「え・・・?」
「もうすぐ暗くなるし 一人で帰せない。」
あたし 圭斗に無理させてる・・・。
「・・・大丈夫だよ。 一人で帰れるよ。」
「いーんだよ。 俺も・・・優華に話したいこと あったし。」
トクン・・・
圭斗・・・それは あの日のこと・・・?




