表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

「懐刀は温めますか?」【2000文字】

作者: 有梨束

「冒険の書を温めますか?」

「…はいっ?」

制服を身に纏った笑顔を貼り付けているお姉さんが目の前にいる。

え、…っと、どういう状況?

「魔王城までの地図は温めますか?」

お姉さんは俺を待つことなく、次の質問をしてくる。

「あのー…」

「いざという時の懐刀は温めますか?」

ダメだ、こっちの様子なんて伺ってない。

この人、仕事をするだけの人だ…!

いや、よく見たら腕のところに線が見えるから、精巧なアンドロイドなのかもしれない。

その前にさ、ここがどこか教えてもらってもいい?

「あの、こちらはどちらです…」

「懐刀は熱々にするのがおすすめです」

「…わかりました、あっためてください」

「かしこまりました」

お姉さんは一礼すると、どこかに引っ込んだ。

なんなんだ?

どこだ、ここ…、なんだこの真っ白な空間…。

なぜか受付台だけある。

俺の他には誰もいない。

夢の中か…?

「お待たせいたしました。お熱いのでお気をつけください」

刃の部分が真っ赤になっている短剣を差し出された。

火傷しそう…。

「これは、どうやって持ったら…」

「こちらのケースに入れていただくと、熱々のまま保つことができます」

刃をしまう形のケースを添えられた。

「ケースにしまえば、運ぶ際は熱くありません」

「はあ…」

「それでは、魔王殺しに行ってらっしゃいませ」

「…はあ!?」

お姉さんが笑っていない笑顔で手を振ると、たちまち場所が変わった。

もういかにもダンジョンですみたいな背景になった。

…夢だ。

冒険者になる夢でも見ているらしい。

その割には渡された刀の感触がちゃんとある気がするが。

こんな場面転換、夢だろ。

懐刀なんだっけ、と服の隙間にさしておく。

冒険の書と地図だっけ、温めなかったからか貰ってないな。

わかりやすく親切に壁に矢印が書いてあるから、そっちに歩いていく。

足元が悪いなあ、暗いのもあってちょっと歩きにくい。

さっきの人の指示通りなら、魔王をやっつけてくればいいのかな。

そうは言ったって、現代日本人の俺には、魔王どころか、誰かを倒す術なんて持ってないんだけどなあ。

道なりをずっと歩いてくると、大きな扉が現れた。

「ここかな…」

夢の中なら、縦横無尽に戦えるだろうか。

異世界転生願望はないけど、本当に戦えるのか1回くらい試してみたい欲はある。

冒険者になるのは命が惜しいから、そういう主人公たちはすごいなと思うけど、今は自分がまるでそれみたいで気分はいい。

「行くか」

特に気負いもせず、扉を開けた。

ゴオオオオ…。

体が馬鹿デカい角の生えている人が玉座に座っていた。

「おおお…、本物みたいじゃん」

「ここまで来るとは、お主もなかなかのようだ。だがしかし、私には敵わんよ」

「おおお、本物だあ!」

魔王は不敵に笑うと、立ち上がった。

ドスン、ドスン、と近づいてくる。

全然、足が震えた。

逃げたいかも…!

「のこのこ来たのが運の尽きだ!死ね人間!」

爪の尖った手が伸びてきて、グッと首を掴まれた。

「ぐえっ」

つ、冷たい!

ドライアイスみたいで痛いっ…!

ダメだ、頭がキリキリする、息がやばい…。

戦うどころじゃなかった、逃げられもしなかった。

どうしよう!


『懐刀は温めますか?』


あの声が聞こえた気がして、俺は手探りでそれを見つけ出した。

なんとかケースを開けて、そのまま魔王に目にブッ刺した。

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ」

刺した瞬間は固かったのに、その周りがどんどん柔らかくなっていく。

こう、保冷剤が溶けたときみたいな。

俺は無我夢中で色んな箇所を刺しまくった。

カツン、ぶに、カツン、ぶに。

肉が解凍されていく勢いで硬さがなくなる。

「と、溶けるっ、やめろおおおお!」

魔王が俺から手を離したから、もっとグサグサと刺していった。

みるみるうちに、魔王はスライムのような塊になっていった。

「倒した、でいいのか…?」

「お疲れ様でした」

最初のお姉さんだった。

「えっと…」

「魔王を温めますか?」

「…え、じゃあ」

「かしこまりました」

まじで、なんだったんだ?

咳を込みながら喉を触ると、爪で引っ掻かれたのか、血が出ていた。

「お待たせいたしました。どうぞお召し上がりください」

「えっ」

こんがり焼き色のついた肉塊となったそれと、フォークを差し出された。

俺は、おずおずと口へ運んだ。

「…旨い」

「それではチュートリアルは以上です。合格おめでとうございます」

「チュ、ご、え?」

「貴方はこちらの世界への適合者とみなします」

よくわからないこと告げられているうちに、周りが歪み始めた。

これ、また場所が変わるんだな!?

「なんの合格!?」

「異世界転移でございます」

「はいっ!?な、何したらいいんですか!」

「異世界人として生きてもらいます」

「不合格だったらどうなってたんですか!?」

やばいやばい、もうどこかに置いてかれる…!

「その場合は、私が殺処分しておりました」

「…へ」

「こちらの世界に相応しくありませんので」

気づくと、丘の上に放り出されていた。

「では、よい異世界ライフを」



毎日投稿24日目。お読みくださりありがとうございました!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ