8話・UNKNOWN PAST
―――side空志
「いやぁ。珍しいもの見せてもらっちゃったね」
「そうですね」
「はいですぅ」
「リュウ君がデレる日が来てよかったよ~」
「デレてねぇ!?」
ボク等は救護室から出て、闘技場のベンチに向かってる。
アナウンス救護室の投影魔法ではまだ戦ってるっぽかった。
結構長引いてるんだね。
その時、ボクは見知った魔力を感知・・・というか視覚した。
「・・・ゴメン。トイレ行ってくる。先に行ってて」
「おう。さっさと来いよ」
リュウ達は先に行った。
・・・さて、と。
距離・・・これならいける。
「≪風火車輪≫!」
「・・・!?」
逃げようとした人影をボクは≪風火車輪≫の加速で相手の前に立って逃げ道を断つ。
「さて、どうする?鬼ごっこはボクの勝ちだと思うけど?」
「・・・あんた、性格悪いわよ」
「いやいやいや!?それを言うの!?しかも君が!?」
「・・・氷漬けにするわよ?」
「遠慮します。ま、少し話さない?・・・冬香」
目の前には黒髪のショートカットの似合う眼鏡のおねーさま。
数法術士、平地冬香がいた。
―――side茜
「優しいですね」
「え?」
その声は後から聞こえた。
振り向いた先にはピエロさんが何事も無かったかのように立っていた。
『おぉ~っと!?やられたと思ったピエロ選手がいきなり後から表れたぞ!?』
「あれ?確かエリアの水塊に・・・?」
「いやぁ、さっきのは危なかった当たる直前で君の水の鞭が緩んでね。それでまぁ、後はこういう風に」
ピエロさんはそういいながら手を手前から外に押し出すように動かす。
そして、一歩踏み出すと・・・消えた。
「え!?」
「ここだよ。ここ」
「!?」
今度は、あたしのすぐ後ろにいた。
・・・何が起きたの?
『さっきまでは本調子ではなかったのか!!さすがは『全てを具現化する者』!!』
「・・・よかった。これで驚いてくれなかったらどうしようかと」
「ま、魔法?」
「そうだ。これが私の一族に伝わる魔法だ」
そういうと、さっきと同じモーションを行うと今度はあたしから離れた位置に出現した。
何がどうなってるの!?
三谷君でもこんな風にできたっけ!?
・・・どっちかって言うと間君の魔法に近いけど・・・間君みたいに剣を持ってないし・・・詠唱もしてない・・・何で!?
「いい感じに混乱してるね~。じゃ、この隙に・・・」
「よし、考えるのはやめよう!!」
「・・・は?」
『えぇ~!?ここで茜選手が考えることを放棄した!?』
よく考えたらこれはあたしのキャラじゃない。
考えるのは三谷君担当だし。
そう思ったら何だかすっきりした。
「よ~し!エリア、あの人やっつけよう!」
『うん。えりあ、がんばる』
もう!かわいいなぁ!
「は!?そんな場合じゃなかった・・・でも、もうピンチっぽいしいいよね」
あたしは三谷君から貰った新作の魔術符を取り出す。
『お?茜選手は新しい魔術符を取り出しましたね。何をする気でしょう?』
そんなのあたしは知らない。
だって、三谷君に押し付けられたんだし。
試作品とか言ってたけど大丈夫だよね。
あたしは魔術符を起動させた。
「・・・あれ?」
『・・・どうしたんでしょう?魔術符が発動しないのか?』
「え~!?失敗作!?」
『・・・くる』
エリアがそうつぶやく。
あたしが聞こうとした瞬間、それは起きた。
魔術符から光が放たれる。
そして、いたるところの地面から水が間欠泉のように湧き出てきた。
「魔術符で!?」
水はとどまることを知らないみたいに間欠泉のように湧き出す。そして、足元を水でいっぱいにして、既に水嵩が足首ぐらいまである。
これじゃ濡れる!!
「・・・あれ?濡れてない?」
「おい!?ずるいぞ!?こっちはずぶぬれだ!!」
「おぉ~三谷君の魔術符すごい!」
「あの子が造ったのか!?」
「うん。ログってドワーフの人の下で」
「ログ?・・・ログ・ラギスか!?」
あぁ~・・・。
そんな名前だった気がする。
そして何故か会場が騒ぎ出す。
『な、なんと!?あの魔道具技師の少年は天才魔道具職人、ログ・ラギスの弟子だった!?そして、その少女はその魔術符の使用者だった!?』
・・・でも、何がしたかったんだろう?
この魔術符の意図がよくわからない。
おかげで軽くフィールドが湖に・・・・・・。
「・・・エリア?」
『えりあ、できるよ』
「よし!やっちゃって!」
『うん!』
そういうとエリアが地面の水を操作。
前のミニサイズの水の龍を何体も生み出す。
それがピエロさんに向かっていった。
「な!?」
でも、よくわからない魔法でまた防御された。
ま、気にしない。
「≪水の槍≫!」
あたしは魔術符を起動した。
そして、水の槍が地面から飛び出て相手に攻撃する。
ピエロさんは予想外だったのか驚愕の表情を浮かべていた。
そして、槍がピエロさんにぶち当たって、ピエロさんは綺麗な放物線を描いて空を舞った。そして、水浸しの地面に叩きつけられる。
「がはぁ!?」
「エリア!」
『きゅ!』
あたしはエリアに指示を飛ばすと、エリアはすぐさま水を操作。
水がうごめき、ピエロさんは水の縄にがんじがらめにされる。
そして、あたしは特大の水の槍を空中に生成して、ピエロさんに向ける。
「あたしの勝ちです」
「・・・そのようだ。・・・参った」
『ここで決着!!激闘の末、勝利をつかんだのはルーキー、『夜明け』の多湖選手だ!!!』
司会者の言葉が響くと同時に観客が歓声を上げる。
・・・よかった。勝てた。
あたしは安堵からか水浸しの地面にぺたんと座り込んでしまった。
『ますた、だいじょうぶ?』
「うん。大丈夫だよ」
「やった~!茜ちゃんお疲れ~!」
声のしたほうを向くと、そこには坂崎さんがいた。
「もう大丈夫なの!?」
「うんうん。元気だよ~」
「・・・元気がありすぎて困ってるぐらいだ」
「茜、お疲れ」
「いやぁ、さすが委員長だね☆」
「・・・委員長は関係なくない?」
「大丈夫ですぅ?」
「体におかしいと感じることがあれば俺かシャンに言ってください」
口々にみんながねぎらいの言葉をかけてくれる。
・・・あれ?
「三谷君は?」
「あぁ・・・あいつはトイレだ」
「・・・応援してくれなかったんだ」
地味にショックだ。
こんな魔術符押し付けてそれは無いでしょう?
―――side空志
ここは闘技場前の広場。
今は闘技場のほうに人が行ってるのか結構人が少ない。
ま、ボク等には好都合だけど。
「で、何で逃げたの?」
「・・・」
「・・・じゃ、質問を変える。・・・二日前、いたでしょ?」
「・・・」
だんまりか・・・。
何だからしくない。
・・・二日前のときも。
~二日前~
噴水の広場。
インチョーとエリアでパフォーマンスをした後のこと。
リュウ達が何故か血相を変えてボク等にいった。
『冬香がいた』って。
「・・・で?」
「でって・・・なぁ・・・」
「最初から話したほうがいいと思うよ」
宇佐野さんはいつものようなふざけた態度じゃなかった。
・・・何があったんだ?
「ついさっき、ちょっとしたごたごたがあったんだ」
「ごたごた?」
「この祭りのメインは闘技大会だ」
「あぁ~・・・。血の気が多い人が暴れたとか?」
「そう。で、絡まれたのが・・・」
そこにいた冬香だった、と。
そういうことか。
「でもそれが?」
「あぁ、冬香に・・・正確にはそこにいた冬香のギルドメンバーらしきヤツが絡まれたんだがな・・・」
「というか、絡まれたっていうより喧嘩を吹っかけたんだよね」
「・・・でだ。そいつは冬香に言ったんだよ『そいつを殺せ』ってな」
「・・・は?」
『殺せ』?
いや、でも冬香がそんなことを・・・。
「で、冬香っちは・・・相手を氷漬けにした」
「・・・嘘。・・・だって、平地さんは確かにがめついし、お金の亡者だけど!」
「そうだよ!確かに数字オタクだけど、冬香がそんなことするはず無い!!」
・・・何故だろう。
リカとインチョー、二人のフォローがまったくフォローになってない気がする。
「でも、幸いにも運営の人がすぐに来てくれたから何も無かったけど・・・」
「・・・なら、現場に行こう」
「・・・確かめるのか?」
「ボクにはその力がある」
≪月詠≫を使えばわかる・・・。冬香がした魔法なのかも。
「・・・こっちだ」
ボクは、リュウについていった。
「ここなんだね」
「あぁ」
ここは何の変哲も無いごく普通の通りだった。
ただ、通りの真ん中あたりに少しだけ氷が残ってる。
ボクは≪月詠≫を発動させる。
念のためにカラコンをつけているから周りから見てもボクが『闇夜の奇術師団』の『幻想術士』だとは気づかないと思う。
「・・・どうなの?」
「・・・」
「・・・ソラ」
「・・・ホントだった」
ボクがそういうとみんなのリュウと宇佐野さん以外の顔に驚愕の色が現れる。
・・・でも、ボクは信じたくない。
周りを見渡し、一つの屋台のおじさんに聞いてみる。
「へい、らっしゃい!」
「すみません。ここで平地冬香って数法術士が喧嘩して相手を半殺しにしたって聞いたんですけど?」
「ヒラチトウカ?誰だ?」
「黒髪のショートカットの眼鏡をかけた女の子です!」
インチョーがそういった途端、顔色を変えた。
「な!?お前、『魔氷狼』の知り合いか!?俺は何も知らない!!帰れ!!」
そういうとおじさんはボク等にあっちへ行けと手を振った。
・・・この人から聞くのは無理そうだ。
「・・・リュウ、『魔氷狼』って?」
「お前な、オレは魔法なら大抵のことは答えれる。が、人間社会のことはほとんど知らんぞ?」
・・・よし、情報魔の力を借りよう。
嫌だけど。
「宇佐野さん」
「・・・今回は事態が事態だからいい。ワタシが情報を集めたときに聞いた話だと、『魔氷狼』っていうのが傭兵ギルド、『災禍の焔』ってチームに所属してるらしいよ。で、そのギルドはものすごく強いらしいよ。何でも適当にここの大会に来れば必ず優勝してくみたい」
「・・・じゃ、今回はそのギルドが来てるの?」
「そういうこと。で、『魔氷狼』・・・おそらく、冬香っちは・・・話が本当なら後方職にもかかわらず一人で出ては得意の無敵艦隊で敵を殲滅する冷酷で一匹狼な氷の数法術士って言われてる」
「・・・無敵艦隊、コード≪巨人≫系のヤツか」
「たぶんね」
なるほど。
『魔氷狼』、ね。
「でも、冬香は冷酷なんかじゃない」
「・・・うん。冬香はアタシが討伐対象になっているのに、アタシが人間を襲わないってわかってくれたらやめてくれたんだよ?」
絶対に何か理由があるんだ。
一番怪しいのが・・・。
「・・・冬香のギルド」
「だけどな、オレ達にはどうしようもない。ギルド同士の交流は基本的に無い。あったとしても、オレ達みたいな弱小ギルドの相手をしてくれると思うのか?相手はこの大会の強豪だぞ?」
「・・・なら、別の方法で確かめる」
「・・・お前、アホだろ?」
「いくら方法が無いからって・・・」
「ソラが壊れた!!」
「・・・いっそのこと死んでくれ」
「・・・田中っちサイテー」
外野がうるさいけど無視しよう。
ボクはバカ騒ぎして回りに迷惑をかけながら通りを進む一人の青年に目を向ける。
「ホントにあの人なんだね?」
「あぁ」
「間違いないよ」
よし。じゃ、作戦実行だ。
ボクだけで青年のほうに歩いていく。
そして、思い切り肩をぶつける。
「あぁ!?お前!!どこ見て歩いてんだよ!!」
・・・ものすごくガラが悪い青年がボクにブチギレる。
第一段階完了。
周りの人がものすごく慌てている。
たぶん、この人の悪名は相当なんだろう。
「・・・そっちこそ」
「んだと!?ガキの分際で!!」
「じゃ、あなたはガキ相手にブチギレる大人気ない人ですか?」
「・・・てめぇ、死にたいようだな。・・・冬香!」
よし来た!!
これがボクが考えた作戦。
てか、さっきの半殺しの事件をボクが再現するってだけ。
「・・・って、あいつそういや大会の登録に行ってたか」
「・・・へ?」
「はぁ・・・。なら、オレサマ直々に潰す!」
「・・・マジで!?」
ボクは急いでリュウ達を見る。
・・・いい笑顔でグッドラック!ってされた。
「すみませんでした!!≪風火車輪≫!!」
ボクは魔法を展開して逃走。
後のガラの悪い人は怒号を上げてボクに魔法を放つ。
そして、ボクは思った。
「今度からはちゃんと確認してからにしよう」
特に相手がいるかどうか。
「・・・あんたバカ?」
「いやぁ・・・その時は焦っててさ」
冬香はかわいそうなものを見るような目でボクを見てきた。
・・・実際にボクもそう思う。
「で、どうなの?」
「・・・はいはい。確かにあの時いたわ」
「じゃ、何でボクがあんなことしたのかもわかる?」
「・・・大体は。あんた、ものすごいお人好しだから」
「で、どうなの?」
ボクは再度冬香に聞く。
冬香の顔からは特に何もうかがうことができない。
「・・・わたしがした。命令されて」
「・・・そう。わかった」
ボクはそれだけを確認すると立ち上がる。
そしてそのまま会場に向かう。
「聞かないの?」
「聞く必要があるの?」
「わたしは、相手を半殺しにしたのよ?」
「・・・冬香、一つ言っとくけどさ。例え、冬香が脱税しようが銀行強盗しようが横領しようが・・・・・・信じてるから」
「・・・全部お金方面の犯罪なのは気にしないでおくわ」
冬香が呆れた表情でボクに言う。
ボクは冬香ににやっと笑ってやると、会場の中に入っていった。
さて、宇佐野さんの力を使うかな。
とにかく突き止めてやる。
作 「と、言うわけで『知られざる過去』をお送りしました」
樹 「私の出番が無いのですが?」
作 「ゲストには現在、全力で空気のシュウにきてもらいました」
樹 「・・・」
作 「ま、この章は冬香中心に回っていくんで」
樹 「ですが、冬香さんはあまり出てませんよね」
作 「まぁまぁまぁ。そのうちスーパー冬香ちゃんタイムが発生するから」
樹 「はぁ」
作 「ま、そんなわけで次回!・・・は、ボケ倒します」
樹 「常にボケ倒してませんか?」
作 「え?そう?」
樹 「自覚してください」
作 「次回はぶっちゃけ無くてもいい気がしてるんだよね」
樹 「・・・何をしてるんですか?」
作 「次回もよろしく!」
樹 「・・・」