9話・ARE LOOKING
―――side空志
「所で、ログのおっさんはいねぇのか?」
服を着替えたリュウがアリアさんに尋ねる。
「あぁ、そうそう。なんか、魔窟の外に行ってるらしいわね。なんか、近くに妙な魔力の籠った土がどうとか、鉱石がどうとか言ってたよ」
「あの、魔道具オタクが・・・」
リュウは何故か疲れたような顔でそんなことを言う。
と言うか、魔物はこういう風に我が強い人が多いのか?こう、ゴーイングマイウェイ的な。確かにそんな人とばっかり知り合いだと疲れるね。
「・・・どうすっかな。武器借りねぇと、お袋うるさいからなぁ」
「優子さんかぁ~。・・・ドンマイ!」
アリアさんはものすごく他人事な態度でボク等に軽く言う。
まぁ、実際に他人事だけどさ・・・。
「どうする?魔窟の外に行くか?」
「・・・え?外って危なくない?」
確か、いろいろな人が襲ってくるとか何とか優子さんが・・・。
「・・・あぁ、魔獣のことか?」
「・・・ねぇねぇ、間君。魔獣と魔物ってどう違うの~?」
坂崎さんがリュウにそう聞いた。
確かに、魔獣と魔物ってどう違うんだろう?ボクとしてはどっちも似たようなものに感じる。
「全然違ぇよ」
そんなボクの表情が出ていたのか、リュウが少しだけ憤慨したように言う。
「魔獣ってのは、強すぎる魔力に充てられて凶暴化した動植物のことだ。好き勝手に暴れまくる。基本的にグロい見掛けで、ちゃんとした体になってくるほど力が強い」
「ちゃんとした体って?」
「魔獣はな、あんまりにもグロい生物で、ほとんどの場合で元が何の動物だったのか判断しづらいんだよ。けどな、強い魔物になるほど、元の動物が分かりやすくなってくるんだよ」
「おぉ~。間君、とってもわかりやすかったよ~!」
「へいへい。ありがとよ。逆にオレ達魔物は、その身にとても高い魔力を宿し、自分の意思で魔法を行使できる。確かに、オレ達は元々は魔獣で、そこから種が固定されてできたのかもって説もあるにはある」
「「へぇ~」」
ボクと坂崎さんが感心してリュウの話に聞きいる。
それをアリアさんは物珍しそうな目で見ていた。
「本当に、『向こう』の人間なんだね」
「あぁ。『テラ』には天然魔力がねぇのに、よくこんな力を持つやつがいたなって感心する」
「本当だね」
なんか専門的な話っぽいことをしている二人。ボク等は首をかしげるしかできない。
「で、ログさんなら大体どこに行くか聞いたけど?」
「マジか。・・・まぁ、魔獣ぐらいオレだけでなんとでもなるからな。おし、ちょっとだけ外に行くぞ」
「お外~?」
「・・・それって、魔窟の?」
「あぁ。つい最近は強い魔獣も確認されてねぇし、人間もここには入って来れねぇ」
「そうそう。龍造さんの魔法でここは関係ない人が踏み入ると、適当な出口近くに跳ばされまくるんだって。そしてここの周囲の森の名前が『迷いの森』なんて言われているんだから」
なんとまぁ、便利な魔法なことか。
「けど、それなら外に出たボク等も・・・」
「大丈夫だ。ここから外に行く分には全く問題がない。とにかく、ジジイの魔法は森の外から来る人間に対して非常に強力だ」
なるほど。確かにそれなら安心だ。
「おし、んじゃ行くぞ」
こうして、ボク等は再び町の外へと繰り出すことになった。
―――side追う者&追われる者
薄暗い、路地裏。酷い臭いの中をわざわざ・・・。
「はぁ・・・はぁ・・・」
後ろから迫ってくる。
逃げないと・・・。
もし追い付かれたら、アタシは・・・!
「・・・!」
後ろから女の人の怒号が聞こえてくる。
さらに氷の槍が次々に放たれ、アタシの横すれすれを弾丸のような速さで通り過ぎる。
もっと、スピードを出せば簡単に逃げ切れる。けどダメ・・・力が出ない。
最後に・・・飲んだのはいつだっけ?
もう、本当に昔のような気がする。掟がどうだとか思っていたけど、こうなるんならちゃんと守っておけばよかった。
「―――≪―――≫!」
かなり近い所で声が聞こえる。
はっと気づき、急いで後ろを向くけど、そこには既に氷の槍が目の前に。
「っく!」
とっさに体をひねり、体のバランスを崩しながらも避ける。
けど、右の二の腕に氷の槍がかすり、そこから鮮血が散る。
あまりの痛みに、一瞬だけ意識が飛びそうになる。そしてその隙を相手は逃してくれなかった。突然アタシの足元が凍りつき始め、地面もろとも足を氷漬けにされる。
「しまっ!」
「やっと、捕まえたわよ」
目の前には、ショートカットに眼鏡をかけた、どちらかと言えば凛々しい雰囲気の女の子がいた。年齢的にはアタシと同じか、それより少し上なんだと思う。
「・・・んじゃ、そろそろ観念してもらおうかしら?」
そう言いながら、アタシに右手をかざす。さっきの氷の槍で、アタシにとどめを刺すつもりなんだ。
けどアタシは、まだ・・・。
「・・・死にたく、ない!」
全身の力を振り絞り、無理やりに氷を地面から引き剥がす。
「なっ!?・・・まだ、そんな力を」
アタシを追ってきた女の子が何かを言う。けど、関係ない。今は逃げる。そうしないと、死んじゃう。さっきまでとは比べ物にならないスピードで、全力で走る。後のことなんて考えずに。すると、目の前に川が見えてきた。・・・流れが速い。アタシは、それを見ると、迷うことなく・・・。
その川に身を投げた。
―――side旅人
「・・・ここが、『迷いの森』ですか」
案外、普通ですね。
ここはどういう原理でか、絶対に奥にたどり着けない不思議な森。まっすぐに進んでいてもいつの間にかあらぬ方向に跳ばされている森だそうです。
私は魔力が変な風に作用して、空間に歪みが生じているせいだと思いましたが、それなら魔獣がたくさんいるはずです。ですが、目の前に広がるのはそんなこととは無縁そうなのどかな森。
「・・・本当に、こんな所にあるんでしょうか?」
私はとある薬草目当てにここに立ち寄りました。
その薬草は人工での養殖が難しく、かなり厳しい条件を満たさないと生えてきません。そしてその一つの条件が天然魔力が適度にあふれていないとダメなようです。
多すぎても、少なすぎてもダメで、頭を悩ませていると、知り合いの少女・・・。
『私達は恋人同士ですぅ!』
・・・脳内で変な口調の言葉が再生されましたが、気のせいです。
えぇ、確かに私も好きですよ?ですがそれとこれとは色々と違うと言うか、何と言いますか・・・。とにかく、その少女からここら辺の魔力なら大丈夫と太鼓判を貰ったのですが・・・。
「・・・迷って、二度と出れないと言うことはありませんよね?」
正直、少し不安です。もしもちゃんと戻らないと、彼女が突撃してくる気がします。・・・森の木々を薙ぎ倒しながら。
それだけは阻止しないといけませんね。森林保護団体から猛烈なクレームが届きます。ついでに樹の精霊あたりからもクレームがきます。なまじ、種族が近いために・・・。
「・・・まぁ、なるようにはなるでしょう」
私は『迷いの森』という、名前にそぐわない魔境に乗り込みました。
―――side空志
あの後、ボク等は一旦リュウの家に戻って準備をしてきた。
特にボクは念には念を重ね、カバンに『サルでもわかる魔導書』を詰めてきた。
これがあれば魔法を使えるし。いや、ほとんど覚えてしまったボクに必要なのかどうかは疑問だけど。
「なんか、案外普通の森だね」
「当たり前だろ。無意味におどろおどろしくしてどうすんだよ」
「でも、奇麗な所だね~」
「みゃ~」
ボク等が今いるのは魔窟の外、『迷いの森』。なんだかよくわからない魔王様の『無敵ぱわー』で森全体に転移の魔法陣的なものが罠よろしく設置されているようで、魔窟に辿り着けないようになっているらしい。
そしてその森はと言えば、ごくごく普通の森。たくさんの木があって、木漏れ日が森をほんのりと明るく照らしている。そしてちゃんと整備されているのか、簡単に地面を均した跡もある。それをリュウに話すと、簡単に説明してくれた。
「まぁな。魔獣が時たま出るかもって話はさっき聞いたろ?だから、『門番』や『警備隊』が適度に見回るために周辺の道は均してある。まぁ、それもこの辺だけだけどな。さらに森の外近くは、入り組んだ森の地形に強いエルフとか、獣人族に頼んでいる」
「へぇ~」
色々と考えているんだね。
ここの魔物達は、自分の特性に合った仕事をしているのか。まさに適材適所だ。
「なんだか不思議なお花とか、草がいっぱいだね~」
「みゃ~」
坂崎さんとレオはいつの間にかすごく仲良くなっていて、坂崎さんがレオを両手で、胸の間に抱いている。レオもなんだか言葉が通じているかのように受け答えしてるし。
「けど、ログさんって人・・・魔物はこんなとこに何の用?」
「さぁな・・・」
リュウはそう言いながらも考えている。
鉱石がどうとかアリアさんは言ってたけど、こんな所にそんなのあるの?だって、見渡す限り木、木、木。なんかそれっぽい鉱石なんてものは見つからない。
「てか、なんかこの森変じゃない?」
「・・・どこがだよ?ここは、ジジイの魔法陣トラップがある以外には、普通の森となんの変わりもない」
「けど、なんか嫌に視界がチカチカするんだけど?」
なんだか目がしぱしぱしてきた。
アレだよ。・・・パソコンとか、テレビゲームとかやりすぎるとなるあの感じ。
「三谷君、大丈夫~?」
「みゃぁ?」
「・・・いや、正直わかんない」
つい最近、ボクの視界がなんか光が乱反射したかのような感じになっているって言うのはちらりと説明したと思う。けど向こうからこっち、つまりは『テラ』から『ヴェルデ』にやってきてからその症状がひどくなっている気がする。
するとそんなボクの視界の隅で、何かがちらりと光る。
「・・・なんだろう?」
「どうした?」
ボクが漏らした声にリュウが反応してくれた。
そしてその間も、何かがチカチカと光る。・・・て言うか、なんか森の木を貫通して光っているように見えるんだけど?
「・・・ヤバい。幽霊かも」
「・・・・・・寝言は、寝てから言え」
「え?三谷君は幽霊さんとお話ができるの~!?」
「・・・みゃ」
なんかいろいろと突っ込みどころ満載だった。
とりあえず、リュウにできる限り詳しく説明してみる。
「・・・とりあえず、眼科に行こう。オレが親父に頼んでやる」
「いいよ!て言うか、リュウの家って医者だったの!?」
「いや、違う。けど、親父が『治癒』属性使えんだ。だから、後で親父に頼んでやる。ありがたく思え」
「いや、全然ありがたくないよね!?何、リュウは親友の言葉も信じてくれないの!?」
「あぁ。それと、お前は親友じゃねぇ。ただの悪友だ」
「うるさいよ!そんなこと、自分が一番よくわかってたし!」
「流石親友だね~!息がぴったりだよ~!」
「「親友じゃない!!」」
「みゃぁ」
まるでレオにまで『仲いいな』と言われたみたいだ。
てか、なんか地味にリュウがむかつく。
「じゃぁ、とりあえず、何かないか行ってみようよ!そしたら、ボクの目が変じゃないことがわかるね!」
「上等だ。こんな心優しいオレの気遣いを蹴るお前にヤキ入れてやる」
そう言って、ボクとリュウは森の奥に進んでいった。
「・・・やっぱり、二人とも仲いいね~」
「みゃぁ」
歩くこと数分。
完全に小道から外れて歩いている為、足場が酷く悪い。コケないよう、慎重に道なき道を突き進む。
「・・・オイ、マジでこっちになんかあったのかよ?」
「見えたんだって!・・・しかも現在進行形で」
ボクは草の根掻き分けながら前に進む。
坂崎さんは意外に体力があるのか、鼻歌交じりにレオを抱きかかえて歩いてくる。
「・・・こんなとこ、オレでも来たことねぇよ。つか、こんなとこ来たやついんのか?」
どうも、ボクが進む方向は全く人の手が、というか魔物の手がつけられていないらしい。さっきまでのように木はまばらに生え、なんだかうっそうとした雰囲気になってきた。なんかあるって言った本人だけど、正直うんざりしてきた。
すると、目の前に日の光が見えてきた。
「・・・この先は、森が開けてるのか?」
「行ってみたらわかるよ~」
「みゃ」
リュウの言葉に、坂崎さんとレオが軽く答える。
もう、この一人と一匹は完全にピクニック気分だ。というか、本当にお気楽過ぎる。けど、そんなに気負い過ぎてもアレだし、ということでそのまま突き進む。
「・・・おぉ~!湖だ~!」
坂崎さんが興奮したようにそう言った。
目の前に広がるのは、小さいながらも、周囲にいろいろな花が咲き乱れる奇麗な湖だった。水も澄んでいて、底が見える。
「ねぇねぇ、飲んでみても大丈夫かな~?」
「こういうところの水は、お腹壊すらしいよ?」
「・・・むぅ~」
「・・・みゃぁ」
坂崎さんとレオは何故か悲しそうな表情だ。
けど、流石にこれはねぇ・・・・・・。
「で、お前が見つけたのはこれか?」
「・・・あぁ」
自分もこの光景に見惚れていたのか、元々の目的を忘れていた。
「・・・違う、この光じゃない」
リュウが『はぁ?』といい加減うんざりしたような声で言うけど、それを無視してボクは周りを見渡す。すると、ほど近い場所にそれは見えた。
湖の周りにある緑に、それは酷く浮いていた。
それはぱっと見で、雪のように真っ白だった。なんだろうと思いつつ傍に寄って行くと、だんだんわかってきた。だとすると、非常にまずい・・・!
「リュウ!人だ!」
「はぁ!?こんなとこにいるわけ・・・」
リュウの言葉は次第に尻すぼみに小さくなっていく。ボクが駆け出した方向を見れば、そこには真っ白な人影があった。
ボクは水にぬれるのにもかかわらず、半ば湖の水につかった人影を岸に上げる。その人影は少女だった。色白の肌に、腰まである長くて白い髪。顔立ちもとても整っていて、神秘的な雰囲気を纏っている。
一応抱き起してみるけど意識がなく、ぐったりとしたままだ。
とりあえず、首の下に指を当てて脈を簡単に測ってみる。
体内時計で十秒。その間におよそ8~9回ぐらい。大体正常。唇が青く、たぶん結構な間水に浸かっていたことがうかがえる。
「・・・こんな水浴びにはちょっと早すぎるね」
「三谷君、何でそんなに手慣れているの~?」
「「・・・」」
坂崎さんのしごくまともな疑問に、ボクと似たようなことを何回かしているリュウも眼を逸らす。
・・・別に、できたくてできるようになったわけじゃない。ただ、なんかできるようになってただけなんだよ。
するとレオが何かに気付いたのか、ボクの袖をくいくい引く。
レオの示すところ、右の二の腕には傷があり、そこから結構な量の血が流れていた。
「そうか、怪我して水につかったからこんなに血の気がなかったんだ・・・」
水に怪我した部分をつけると、血が固まらずにどんどん流れていってしまう。しかも彼女の怪我は結構深い。こんな状態になるのも当たり前だ。
「リュウ、なんか布」
「はいよ」
阿吽の呼吸をここで見せるリュウ。
ボクは特に驚きもせずに布を受け取り、傷口をきつく縛る。
「まぁ、今できるのはこれぐらいかなぁ?」
「そうだな。できりゃ温めてやりたいが、オレ達じゃな・・・」
「そうだね~・・・。わたしは『逆』で間君が『闇』、三谷君は『天空』だもんね~」
「いや、確か・・・」
「・・・おいソラ、お前何をしてるんだよ?」
いきなりカバンをあさり始めたボクにリュウが疑問の声を上げる。
そして目当ての物を取り出す。
『サルでもわかる魔導書』。これにはボクの『天空』に関係する魔法陣がたくさん描かれている。
そして、一個だけこの魔導書には描いてある。魔法陣の描かれたページに手を置き、精神を集中。
「魔法陣展開」
ボクの掌に魔法陣が出現した。
それは赤い魔法陣。ボクが唯一使うことができる、『天空』の『火』、あるいは『熱』の要素を持つ魔法。
「≪灯火≫」
魔法陣の上に小さな、だけど温かい炎が灯る。
とりあえず、これで暖をとれる。
「・・・お前、そんな魔法も使えたのか?」
「・・・うん、一個だけね。注意書きには明りの為と、温かくするためって描いてあった」
「おぉ~!なんだかすごいね!」
一回も使ったことがないから、念のために魔導書を使ったけど、実際には『抽象展開』できる気がしなくもない。何でこんな自信が出てくるのかわからないけど。
とりあえず、ボクが生み出した魔法の火を近づけて、温める。
「まぁ、眼がさめるまでは待つしかないね」
「だな。つか、ログのおっさんはどうするんだよ・・・」
・・・今は、目の前にある人命の方が重要だ。うん。
作 「というわけで『探し物』をお送りしました!」
空 「なんだか、雲行きが怪しくなってきたね」
作 「この小説は、バトルありのファンタジーものです」
空 「・・・」
作 「たまにグロい表現があります」
空 「・・・え?何、そのフラグ?」
作 「というわけで次回!」
空 「話はまだ終わって・・・」
作 「祝☆初戦闘」
空 「聞きたくなかった!」
作 「次回もよろしく!」