15話・REQUEST
―――side空志
「昨夜、怪しい人影が出た?」
「はい」
「・・・ここには龍造君の結界が張ってあるんだよ?」
「・・・ソラを信用できないの?」
「リカちゃん!?ダメだよこんなところで鎌出しちゃ!?」
ここは理事長室。
ボクの目の前にいるのはサリナさんとカルネル先生だ。
「それにカザハの話だと彼のルームメイトも見てるらしいです」
「・・・椿ちゃん、何故に客を危険に?」
サリナさんはこっち側に立つ事務担当でボク等の世話をしてくれてる椿さんに言う。
「申し訳ございません」
「いや、ボクもたまたま起きてたからわかっただけです。寝てたらわかんなかったと思います」
「まぁ、三谷君が逃がすくらいだしね。相当な人だったんでしょう」
・・・何かすみません。
ただ単にボクの不幸体質が発動しただけなのに・・・。
「まぁ、警戒しとくわ。カル、他の先生に伝えといてそれと事務になくなった物品が無いかもチェック」
「わかりました」
そういうと内線電話でカルネル先生が話し出す。
「でも、何でそんな夜中まで起きてたの?」
「いや、ボクの属性の関係上、そろそろ『月』のストックが切れかかってたんで」
「?・・・まぁ、いいわ。ちょっと頼みがあるんだけどいい?」
「はぁ?」
・・・何故か死亡フラグな予感。
いやだなぁ~。
「頼みは護衛よ戦争のときに使ったあの場所まで」
どうもあのときに派手に暴れまわったから地盤がおかしいらしい。
実はあそこの森はこの学園から5キロほどのところにある。事が起こる前に何とかしようということみたいだね。
「まぁ、ここは平和だし何にもないと思うんだけどね。術者がそのときだけどうしても無防備になるからガードがいるのよ」
「でも、先生達がそうゆうのはやるんじゃないですか?」
「戦闘に慣れた先生が今は出払ってるのよ」
実はこの学園の半分の先生は戦闘がまったくできないらしい。
まぁ、普通はそうだよね。本来、ここの職員は教える人だし。
たぶん、実技の担当の先生でこっちに割ける人がいないんだね。それに昨夜の侵入者の件もあるからできるだけここのオトナを減らしたくないんだろう。
でも、ボクなら先生並どころか凌駕してるし護衛に最適。
サリナさんはこっちの事情も知ってるからボク等に頼んでるんだろうね。
「・・・どうする?」
「ソラがやるならついてく」
「わたしもどっちでもいいよ~」
「じゃ、特に断る理由も無いんでやります」
「助かるわ。じゃ、明日の授業は公欠にして、一限目が始まるころに校門に来て」
「そんなに時間がかかるんですか?」
「君の得意な魔法陣は本来こんなに時間がかかる方式なの」
へ~。魔法陣で地盤を直すのか。
「あ、そうそう。不安なら別に他の生徒を連れてってもいいわ」
「「「は~い」」」
そこでチャイムが鳴った。
ボク達は理事長室から出ると教室に向かった。
「まぁ、そんなことがあったんだ。と、言うわけで誰か手伝って」
ボクは理事長室でのことを教室にいるみんなに話した。
「俺はその日に再試がある」
「わたくしも補講ですわ」
「オレッチは居残り」
「再試!」
「補講と再試よ」
「・・・私は明日の小テストの勉強を」
「碌なのがいねぇ!?」
全員バカだった。
ロイ達も「明日はそんな暇は無い!!」とか言ってなんか魔導書片手に忙しそうだった。
今回はもしもの事があるから戦力はたくさんあるほうがいいと思ったんだけどな。
まぁ、無いものねだってもしょうがないしね。おとなしく諦めよう。
「あ、ああああああ、あの!」
何か急にボクの後ろに人がいた。
前髪をコレでもかってぐらいに伸ばしているショートカットの女子。
・・・前、見えるのかな?
「・・・何か用?」
「え、と・・・その・・・あ・・・」
「・・・この子誰?」
「俺達と同じクラスの四条奏。まぁ、見てわかるように極端に自信が無くていつもおどおどしてる。戦争のときはさすがに応援組みに入ってたな」
なるほど。
でも、そんな子がボクに何のよう?
「・・・・・・あぅ・・・」
「・・・」
どうしよう。会話が続かない。
でも、四条さんが意を決したようで前髪で隠れて見えない目をボク等に向けると言った。
「あ、あたしもついていっていいりぇすか!?」
・・・噛んだ。
四条さんは顔を赤くしてち、ちが!?とかテンパってる。
「はぁ・・・四条さん?深呼吸~」
「え?は、はい!ひっひっふ~」
「違う!?何でそうなるの!?」
「・・・落ち着きました」
何とか法って呼吸で落ち着く人をはじめて見た。
まぁ、そんなことはいい。
「で、何で急に?」
「あ・・・・・・り、理由は言えないです。でも、行かなきゃダメなんです!」
目は見えないけど何か決意した感じでボク等に言う。
そんな彼女の姿が珍しいのかカザハたちはポカンとしてる。
「・・・でも、下手したら危険」
「そだよ~?できるだけがんばるけど怪我しちゃうかもよ~?」
「か、覚悟してます」
「・・・ソラが決めて」
「まぁ、正直戦力は欲しい。って言ってもただ単に死角が無いようにしただけだから実質戦うのはボク等三人だし・・・大丈夫じゃない?」
「な!?そんな簡単なのか!?」
いきなりカザハ達が立ち上がって言う。
・・・何でそんな問いただすみたいに言うの?
「オレッチ達は三谷がやるんならどうせ厄介ごとで実はウラがあると思ってたんだよね~」
「・・・待って、カザハ達は厄介ごとに巻き込まれたくないから拒否ったの?」
「「「「「「もちろん」」」」」
こいつら鬼だ!
「なら、俺達もやってやるよ。明日は堂々と学校を休める」
「明日はハイキングですわ」
「今からお菓子買いに行こう!」
「あそこの動物たちに何かおいしいものを持ってかなきゃ」
そういうとみんなは明日の支度をするためにどこかに行く。
ボクは半ば呆然としてその場にポカンとした表情で座っていた。
「・・・ドンマイだね~」
「そ、そんなに落ち込まないでください・・・」
「いつものことだよ」
「・・・あのさ、人間不信になりそうなんだけど?」
ものすごくむなしかった。
―――side奏
(よかった)
偶然にもあそこに行ける。
最初に聞いたときは驚いたけど・・・でも、あの三谷君なら大丈夫。
噂では例えどこかの国の軍隊がやってきても指先一つで一瞬のうちに倒せるんだもんね。
この人たちを騙すみたいで悪いけど・・・でも、しょうがない・・・と思う。
「大丈夫。ちゃんとあたしが何とかするから・・・」
あたしは誰にもとも無くつぶやく。
でも、あたしはわかってる。ちゃんと伝わってるから・・・。
―――side空志
『――お掛けになった番号は・・・』
ボクは通話の終了ボタンを押すとケータイを机に置く。
念のために龍造さんに明日のことを伝えようと思ったけど忙しいのか龍造さんはケータイに出てくれない。
他のみんなもそうだ。
・・・前のギルド関係かな?まぁ、しょうがない。
ボクは明日いりそうな物をカバンの魔術符に入れておく。
その時、ケータイがブルブルと震える。
ボクはすぐにケータイをとると通話ボタンを押す。
「龍造さん?今まで何かしてたの?」
『俺だ』
ブチッ。
さて、明日の用意っと。
一応、飲料水生成魔術符とか持ってくかな?のど渇いたらすぐに使えるし。
またまたケータイが震える。
しょうがないので出る。
「で、何のよう?今はホントに無理。ボクは時間の壁を越えられないからね」
『違うわバカ弟子』
ログさんだった。
何で今、来るかな?
『龍造から伝言だ』
「先にそれを言ってよ」
『お前が切ったんだろうが!?』
「ログさんの普段の無茶振りかと思ったんだよ」
『・・・まぁ、いい。ヤツはガキ共とどこかに出かけてる。どうも別の魔王領で不穏な動きがあるらしい。お前のほうも気をつけるようにらしいぞ?』
やっぱり忙しかったんだね。
「わかった。わざわざありがとう」
『おう。それとポケットの魔術符の媒介だが、そっちにそろそろつくはずだ。適当に作ってテストしといてくれ』
「おい。だから何でここまで来て」
『ツーツーツー・・・』
・・・一方的に切られた。
ケータイを仕舞うとタイミングよくノックの音が聞こえる。
「どうぞ~」
「ソラ?魔窟から届け物だって」
リカが小さな小包をボクに渡してくる。
ボクはとりあえず受け取って包装を綺麗に取ってたたむ。
中の箱からは例によって月、鈴、龍、雪の結晶、葉っぱ、コウモリの意匠が施された腕輪が入っていた。
要するにボク等がテスターになれってコトらしい。
ボクはため息を一つつくとカバンの魔術符の中から魔導書『サルでもわかる大魔導書』を取り出す。ここにメモしてあるポケットの魔法陣のページを開く。メンドイから今回はここから使おう。
ボクはそのページに手を置くと魔力を込める。
「魔法陣、展開」
すると、いつものように魔法陣が空中に現れる。
ボクは続けてコマンド。
「魔術導入」
すると、魔法陣が端から解けて腕輪にインストールされていく。
コレを繰り返すとボクはコウモリの腕輪をリカに渡す。
「はい。新作のポケットの魔、じゃなくて腕輪。使い方はこれ見て」
ボクはカバンの魔術符からメモを取り出すとリカに渡す。
「へ~・・・今回は腕輪なんだ」
「まぁね。魔術符だといちいち出さなきゃ使えないからね」
ボクはカバンの魔術符から中のものを取り出す。
盤に補助用魔術符、普段よく使うものだけをポケットに移し変える。
でも、盤でかなりの要領を使ってしまった。でも、まだまだ入る。
「まぁ、こんなもんでしょ」
「ね~ね~。一回やってよ。実演」
「別にいいよ?来い、盤」
そういうとボクの目の前に盤が出現。ボクが戻れと言うと今度は消失した。
「おぉ~スゴイ!さすがソラ!」
「・・・・・・所構わず抱きつくのはやめて」
ボクは何とかリカを引き剥がす。
「まぁ、ある程度ならコレは大丈夫だから。よく使うのをこっちに移し変えとくといいと思うよ」
「ん。じゃ、そうする」
そういうとリカは自分の魔術符を取り出すと中身を床にぶちまけ・・・。
「そういうのは男子の目の前でしちゃダメだ!!」
やっぱり女子だからかリカは荷物が多い。櫛とか女の子が使いそうなアイテムがある。
一瞬、視界の隅に入った旅行カバンから白い例のブツが見えた気がするけどアレは気のせいだ。大丈夫だ。問題ない。
「え?別にいいじゃん。減るもんじゃないし。それにソラもしてたじゃん」
「ボクの精神的な何かが確実に減ってる。それにボクはリカみたいに中身を全部さらけ出してない!!」
「あたしは気にしないよ?」
「気にして!?」
「あ、カバンからパンツはみ出てた」
「ぶっ!?だからボクの目の前でそんなこと言わないで!?」
「見る?」
「いい加減にやめなさい!!」
ボクはこのままではリカが暴走して大変なことになると思ってリカの魔術符に旅行カバンを突っ込むためにリカの手の魔術符をひったくる。
リカはボクの手の魔術符を取り返そうとする。
「てか何で!?」
「ここで色仕掛けでもしないとソラは気づかないもん!!・・・あ」
「!?」
そこでリカがバランスを崩してボクのほうに倒れる。
ボクは反射的にリカを衝撃から守るために自分が下になる。
「ふぅ・・・大丈、夫?」
「う、うん」
・・・まぁ、アレですよ。
互いの顔が近いっす。
そこでボクは突然だけど暴走してリカにいろいろ言われたときのことを思い出す。
確かあの時、ボクはリカとの距離がやばくてじいちゃんが来なかったら・・・・・・。
ボクはそのことを思い出して顔の温度が上昇するのがわかる。
リカのほうもトマトみたいに赤くなってる。
でも、何故か動けな・・・。
「ゴハンだよ~!!」
「みゃ~」
スズとレオがゴハンを教えに来てくれた。
「「・・・あ」」
ボクとリカの状況は言わずもがな。
リカがボクを押し倒してるように見える。
「・・・ゴメンね~お邪魔だったね~」
スズとレオはそそくさと退散していった。
「待って!!誤解だぁぁぁぁぁあああああああ!!!!!」
「・・・ソラのバカ」
ボクはスズとレオの誤解を解くべく部屋を飛び出した。
リカが何か言ってた気がするけどボクにはそれを聞く余裕なんてまったく無かった。