14話・GOOD NIGHT
時刻は深夜・・・。
エレオール魔法学院の空には三日月が輝き、周りはとても静かだ。
そして、その屋根に複数の黒い影が見える。
影は声も出さずにうなづきあうと、音も立てずに屋根を走る。
だが、その足が止まる。
目の前に突然少年が現れたためだ。足元には白い子猫が寝そべっている。
「こんんばんわ。こんな夜に歩いてたら深夜徘徊で寮母さんに怒られるよ。ここの人、地味に強いんだよね・・・」
髪の毛が少しツンツンで首からゴーグルをかけた平凡な顔立ちの少年。
影達は無言で片手半剣を取り出す。
自分たちは完全に気配を消していた。
だが、それにもかかわらずこの少年は異変に気づいた。
普通に考えて危険な存在であることは間違いない。
「で、何しに来たの?」
そういった瞬間に少年の背後に魔法陣がいくつも展開される。
影達は何のリアクションも取らないが内心では驚いた。
こんな子供がこんな魔法を使うのはありえない。例え、ここが魔法学園だとしても・・・。
更に警戒する影達。
そして・・・・・・。
「ソラ~!!」
「あぎゃぶ!?」
「「「・・・」」」
一人の少女によって雰囲気がぶち壊された。
その少女は少年に飛びつくとそのまま押し倒した。
その隙に影達は一瞬で踵を返して逃げた。
「あ、ちょ!?待って!!」
古今東西、待てといわれて素直に待つ人間はいない。
―――side空志
「・・・逃げられた」
「ん?どうしたの?」
「いや、別にいいんだけどさ~」
ボクはもはや日課になりつつある、天体観測的なコトをしていた。
まぁ、コレにもちゃんと理由があるんだけどね。
まぁ、そんなときにボクは見知らぬ魔力を発見。
偶然にもこっちを通ってくるみたいだったからボクはそのまま待ち伏せていた。
黒装束のいかにも暗殺者っぽい服装の人だったからボクはすぐに臨戦体系になったけどリカがボクの背中から押し倒した瞬間に逃げた。そして、レオは危険を察知して逃げる。
ボクはリカが引っ付いたまま体を起こして胡坐をかく。
そして、リカはいつものようにボクの隣にちょこんと腰掛け、レオを抱く。
「で、何で魔法陣なんか展開してたの?」
レオをなでつつそう聞いてくる。レオは眠いのか目がショボショボして静かだ。
「いや、怪しい人がいたからさ。適当にボコしてサリナさんに突き出さなきゃと思ってさ」
「ふ~ん」
リカは興味もなさそうに言う。
・・・少しは心配とかして欲しい。
「ソラなら大丈夫!」
「まぁ、そうなんだけどね」
確かにボクならそこらへんの人ならフルボッコだ。
ちなみにボクが本気を出して勝てるのはこの学園にはいないと思う。
それこそ教職員の方々もボクが全力なら勝てない。
というか、前に実技の授業で一回だけボクが先生と手合わせしたらボクが一方的に勝った。
それ以来、ボクは実技での魔法陣の使用を禁止されて、今じゃただのザコ。
ちなみにリカは魔法ができない・・・いや、使えないから見学。
吸血呪なんて使ったら大変なことになるからね。
「でもさ、ソラって何でいつも月を見てるの?」
「え?・・・そういえば言ってなかったっけ?」
確かあのホレ薬事件の寮祭の翌日に・・・・・・・・・・言ってないや。
「・・・今度みんながいるときにまとめて話すよ」
「え~。なんか意味深・・・」
いや、別にそんな大した理由・・・かな?
どうせみんなに説明するって前に言ったんだしそのときでいいや。
「で、何か用があってボクのところに来たんじゃないの?」
「ううん。特に無いよ?」
・・・さいですか。
そうだろうと思ったよ。
いつものことだからボクは屋根に寝転がる。
「ボク、今日はここで寝るから」
「風邪引くよ?」
「そうならないようにボクはコレを持ってきたんだよ」
ボクは首にかけたゴーグルを示す。
このゴーグルにはボクが浮遊盤を使うときのために上空でも寒くならないよう、身につけている人の周りの空気を適温に保つようにする術式と気圧を一定に保つ術式、高速移動したときに風をモロに受けないようにする術式が組んである。
だから、ボクは浮遊盤でどんな上空にいても大丈夫だし、高速で移動しても体感温度が下がらない。
とにかく、これを身に着けてれば回りは適温に保たれるから別に問題は無い・・・はず。
「へ~そんな効果があったんだ~」
「まぁね。コレもログさんところで作った」
主に魔法を。
ボクには残念ながらそれしかできない。
後、せいぜい魔術符を作るぐらい。
「まぁ、そんなわけで寝るよ。オヤスミ」
そういうとボクは仰向けに寝転がる。
レオはリカから抜け出してボクの腰の辺りで丸くなる。
ボクは目を閉じてそのまま寝る準備をする。
「じゃ、アタシもここで寝ようかな?」
「ちょっと待ちなさい」
目が覚めた。
ありえないぐらいに。
「何故に?」
「ソラがここで寝るから」
「・・・」
ダメだこの娘何とかしないと・・・。
出会って今日までいろいろと人が怖いからって理由で甘やかしてきたけど、もうダメだ!今日こそはガツンと・・・。
「すぴー」
「寝てるし!?」
しかもがっちりとボクの腕をホールドして。
何だか腕に(以下略)。
攻撃力どころか力の強さがカスのボクには吸血鬼の力を振り切れるわけが無い。むしろそんなことができたらボクは吸血鬼以上に危険な存在になる。つまり、ボクが完全に人外で更にはデンジャラスなこと間違い無しってことになって・・・。
まぁ、簡単に言うと、もう無理です。逃げれません。何かごめんなさい。
「・・・・・・はぁ」
ボクはカバンの魔法陣を展開する。
そこに入ってた。というか入れてた毛布を取り出すとリカにかける。
ホントはボクが使おうと思ってたんだけどね。
「んじゃ、オヤスミ」
ボク等の真上では三日月が輝いていた。
~翌日~
ボク等はいつものようにDの教室に入る。
「おはよ~」
「おはよう!」
「おは~」
「うぃ~っす」
「グッモーニン!!」
「你好!!」
「Ciao!」
「Bonjour」
「Hola!」
「Witam」
「Γεια σας」
「何この教室!?」
いつからここはこんなにグローバル化したの!?
てか、最後に行くほどワケわかんないんだけど!?
「最初が日本語、次に英語、中国語、イタリア、フランス、スペイン、ポーランドにギリシャよ」
いつの間にか杏奈がボク等の前にいた。
「あ、杏奈ちゃんおはよ~」
「・・・おはよ」
スズにリカの順。
いまだにリカはボクの後ろに隠れて小動物と化している。
「何でそんなこと知ってるの?」
最初のほうはボクでも知ってるけど・・・。
「コレぐらいフレンドリーな副代表を目指すわたしにとっては朝飯前」
「フレンドリーな副代表さん。ボクに詠唱を教えて欲しいな」
「あでぃおす!!」
フレンドリーな副代表さんは詠唱が苦手なようだ。
ボクはとりあえず適当な席につく。リカは当たり前とばかりにボクの隣に座って、スズもボクの近くに座る。
ここの学校は決まった席とかは無い。
だから、みんなが好きな席に座る。
「おっす。おい、知ってるか?」
「何を?」
ボクが座るのを待っていたのかカザハもボクの近くの席に座る。
「いやな、昨日、侵入者がいたらしいんだって俺の部屋のヤツが言ってた」
ちなみにここは全寮制。
たまたま起きてたカザハのルームメイトが見てたようだ。
「へ~。ここのセキュリティ、ダメじゃん。」
ボクのところにもいたしね。
・・・後で理事長室に殴り込みに行って龍造さんに頼むように言っとこうかな?
「いや、全然だ。むしろ、理事長が言うには知り合いの結界の魔法使いにやってもらってるらしい。それに二ヶ月ほど前に結界を張りなおしたらしい。理事長の話だと確か・・・神も逃げ出すレベルとか言ってたな、うん」
「お~すごいね!龍造さんみたいな人がいたんだね!!」
「むしろ龍造さんだと思う」
なら、話が変わってくる。
龍造さんの結界を破れるほどの人がそうそういるわけが無い。
つまり、ボクが見たあの人達のことを言ってるのかな?
「だが、先生か誰かが気づいて追っ払ったらしいがな。それも見てたらしい」
「いや、それボクだと思う」
確定した。
それ、ボク見た人です。
「・・・お前かよ」
ボクは昨日の夜のことを話した。
もちろん。リカの『ひゃっふぅ~』って所は抜かして。
「・・・三谷殿が逃がしたのであれば相手は相当の手練」
「うぉお!?忍!?いきなり出てこないでよ!?」
ついさっきまで気配は愚か魔力さえ感知できなかったんだけど?
ホントにこの子はただ単に暗殺者の家系ってだけなのか疑いたくなる。
「そういえば忍君ってそーゆー家系だったっけ~?」
「・・・はい。ですが私などまだまだ若輩の身」
「いや、普通に忍のほうがレベル高いと思う。魔力感知ができなかったし」
「・・・恐縮です」
いや、お世辞じゃないよ?
まぁ、忍は謙虚だしね・・・。
「でも、三谷が遅れを取るほど相手がそこらへんにごろごろいるの?」
「いやいや、三谷のコトだから何か変な邪魔が入ったんじゃね~?」
「・・・そうですわね。三谷さんは近年まれに見る不幸体質ですから。よく言えば『主人公体質』ですわ」
「バカザハが変わりに気づいて逆にボコされとけばよかったと思う。」
今度はアスカ達がボク等の輪に入ってきた。
ちなみにここにいるメンバーがカザハとよくしゃべる人間らしい。
カザハに紹介してもらってボク等は結構仲がいい。
「だが、気になるのは何でここに侵入したか、だな」
「うむ。まぁ、検討はつくが」
「どうせ、ここの研究成果ですぜ」
「・・・何で当たり前のように君たちがいるの?」
「「「気分」」」
何故かロイにジグ、ランドの三人がいた。
ここはDの教室だよね?
「まぁ、それが打倒だろう。ここは先生達も魔法を研究している。おそらくは何かの研究成果を狙ったんだろう」
「へ~。魔法の研究とかもしてるんだ」
「そのとおりで。地味にここにしかない魔法道具なんてのはゴマンとあるんでさぁ。例えばその自分のランクを示す紋章」
そういうとランドはボクの胸にある黒の紋章を指す。
「あぁ、何かコレが生徒手帳みたいなもんでしょ?コレで図書室の利用から財布の代わりまで何でもできるって言う便利アイテム」
でも、これの魔術符バージョンが魔窟では普通に出回ってるんだけどなぁ?
ボクは持ってないけど。確かそれはログさんが魔術符に限界まで魔法を詰め込んだらどうなるか的な実験をしたらしい。それがヒットして魔窟では『十得魔術符』って呼ばれてる。
「だが、それはここにしかない技術だ。それに、噂ではもうすぐバージョンアップして、つい最近人気のカバンの魔術符の最新バージョンが試験的に導入されるらしい」
「・・・あれ?それってソラ君が「すごいね!?そんなことができるんだ!?」」
なるほど、サリナさんは魔窟の技術を取り入れまくってるらしい。
それなら納得だ。
おそらく、ログさんはボクがいない間に何にするのがいいか考えて後はボクが魔術導入する段階にしてるんだろうね。
「つまりだ。ここにある技術を盗んだら簡単に億万長者になれる可能性もある」
「・・・なるほど」
多少の危険を冒してもするだけの価値があるってことか。
「だがな。ここにはもうひとつだけある」
ロイが言った。
「・・・まだあるの?」
「あぁ。ここの地下には遺跡がある」
「・・・イセキ?・・・わかった~!あれだよ!つい最近ニュースでプロ野球選手の」
「それは移籍。漢字が違う」
「・・・遺跡ってあれ?」
「あれ以外にここに遺跡はない」
「・・・いや、さすがに無いだろう?」
「何で?」
ボクとスズとリカは話について行けずにおいてけぼりだ。
レオは早くもボクの足元で昼寝を開始してる。こいつ聞く気がない。
「ここには遺跡がある。もともとここは遺跡があったのを理事長が学校にしたらしい」
「それで、後になってここの地下にも続いてることが分かった。それで今では許可をとれば先生の同伴で地下にもぐって訓練できるようにした」
「でも、何で遺跡なんか狙うの?」
「・・・古文書」
リカがぼそりと言う。
「あぁ、遺跡には古代の魔法がある。ひょっとするとそれを狙ったのかもしれない」
「ふ~ん。でも、それって普通に考えて、そういうのはこの学校が全部回収してるんじゃないの?」
「たぶんな。だが、とりこぼしがあるかもしれない。それに古文書は大抵のモノが禁忌レベルのモノが多い。別に狙ってもおかしくない」
「「禁忌?」」
疑問の声を上げたのはボクとスズ。
なんかヤバいって言うのはわかるんだけど・・・。
「・・・知らないのか?」
ボクとスズは正直に首を縦に振る。
「禁忌は簡単に言うと向こうの世界で言う核兵器みたいな魔法だ。使えば国を滅ぼすどころかお前らの住んでる日本という国の北海道とか言う地方を一人の魔法使いで消滅させることができると言われている。・・・確か最近噂の『闇夜の奇術師団』とか言う六人組で・・・未知の魔法を使う奴も禁忌並みの魔法を使うらしいな」
「え?ソラくむぐ・・・」
リカがスズの口をふさぐ。
ナイスだ。
「マジで?」
ボクは核兵器を持ってるの!?
後でサリナさんか龍造さんに聞かないと!?
「あぁ、らしいぞ。それにここの遺跡には開かずの扉的なモノがあるらしいしな。この情報を知ってればここを狙う奴等がいるんじゃないか?」
・・・これはひょっとするとかなりまずいのか?
「じゃあ、できるだけ早くサリナさんに言わなきゃいけないんだ」
「だな」
その時、ちょうど先生が入ってきた。
「お~い。済まんが急に授業変更だ。一限目は魔法実技。全員競技場に集合だ」
その言葉にみんなが悲鳴を上げたり歓声を上げる。
カザハ達も腰を上げるとまずは体操服に着替えるために更衣室に向かう。
「ま、今日もがんばりますか」